書類の山と突然の悲報

「何故私がこんな場所で書類を片付けているのだ」

「メンバー全員が有休を取ったからです。シルビア部長」

「何故、全員なのか。交代で休ませるべきではなかったのか。ララ室長」

「部長に許可していただきました。申請書にはもれなく記載してあります」

「……」

「書類を読まずにめくら印を押すからです。私はキチンと申請しましたからね。そして不足する人員の手配もお願いしています」

「手配だと」

「その書類も見ていないのですね。仕方ないので部長で我慢しております。使い魔のフェイスは何処へ?」

「例の温泉ツアーへついて行った」

「何故行かせたのですか?」

「勝手に行ったのだ。あの馬鹿狐は巨乳に目がないからな」

「なるほど、浅ましいスケベ根性のなせる業ですか。おかげで人手不足極まりました」

「他に手伝える人員はいないのか。ララ室長」

「心当たりはあるのですが呼ぶことはできません。何故ならば、登場人物をこれ以上増やすと、馬鹿作者の脳がパンクするからです」

「そんな事にこだわっては仕事が片付かないぞ」

「大丈夫です。今日一日頑張れば山は越える。成否は部長の肩にかかっています」

「私は書類仕事が……」

「それは言いっこ無し。こういった分野ではフェイスが役に立つのですが、その最終兵器を逃がした部長の責任は重いと思います」

「何でもかんでも私のせいにするな!」

「ただの八つ当たりです。深く考えないでいただきたい」

「飽きた。散歩してくる」

「部長、逃亡したら責任問題に発展しますよ」

「わかっているさ」


 問題児ユニットである魔女っ娘探偵アルヴァーレ。彼女たちが活動した後には事後処理の書類仕事が山のように発生するのだ。そしてそれが数か月分溜まっていたのだという。まだ午後三時。日は高い。


 シルビア部長が部屋を出ようとしたその時、ドアをノックする音がした。


「誰だ」

「綾瀬ミサキです。失礼します」


 ドアが開き入ってくる女性が一人。アリ・ハリラー党の支配者ミスミス総統こと綾瀬ミサキだった。


「どうされたのですか。お姉さ……いやミスミス総統」

「ララ室長。実は重大な事件が発生したのです」

「重大な事件?」

「はい。今朝出発したアッシュワールドへ温泉ツアーなのですが」

「ええ」

「現地に転移した途端に消息が途絶えました」

「本当ですか?」


 ララは目を見開きミスミスを見つめる。ミスミスはララを見つめ頷き返した。


「本当です。アッシュワールドのコロニー内へと転移した直後にバスが襲われたようです」

「理由は何だ? 営利誘拐か?」

「ターゲットと誤認されたようです」

「ターゲット?」

「賞金首の事です。あの世界では、犯罪者をターゲット(賞金首)と認定し、それを狩るバウンティハンター(賞金稼ぎ)が暗躍しているのです」

「誤認であればすぐに解放されるのではないかな。それに、あの連中が易々とやられるとは思えない」

「厄介なハンターに捕らえられたようなのです」

「誰だ」

「それまだ不明です」

「相手が分からないと殴りようがないな」


 拳を握りボキボキと骨を鳴らすララ。ミスミスはそれに頷き更に話を続ける。


「そうです。更に、身代金を要求してくる可能性もありますね」

「身代金ですか。手ごわいですね」

「そこで作戦があります。まずはララ室長にバウンティハンターとして現地に入ってもらいます。ララ室長の実力であればハンターの資格は即取得できるはずです」

「なるほど。腕が鳴る」


 それまで部屋の隅で話を聞いていたシルビアが前に出てきて机を叩いた。


「私も行くぞ。異世界で暴れまくるんだろう。存分に力を振るってやる」

「部長」

「何だ?」

「この書類の山は誰が捌くのですか」

「うっ。私、しかいないのか?」

「それにバックアップの機材と人員の手配もしていただかないと、私一人では荷が重いと思われます」

「私からもお願いします。シルビア部長。ララ室長を万全の体制でバックアップしていただけませんか」

「そ、そうだな。仕方がない」


 ララとミスミスの指摘にうなだれるシルビアだった。余程羽根を伸ばしたかったのだろうか。口惜しそうに口角をゆがめていた。


 かくして一人アッシュワールドへ赴くことになったララ。

 出発は三時間後の午後6時と決まった。

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