常夏の楽園☆シーマン

スクール水着と唐変木と大海獣

 眩しい陽光。

 白い砂浜。

 紺碧の海。


 そして、スクール水着の豊満少女。


「キャー♡ ララちゃんも泳ごうよ!」

「水着の用意がないし、海で遊ぶ気もない」


 と、普通に真面目なララを無視して水辺でバシャバシャとはしゃいでいるラシーカ。浮き輪を持った潰鬼も付き合わされていた。潰鬼の視線はゆさゆさと揺れるラシーカの胸元にくぎ付け、そして当然のごとく装甲の隙間からは湯気が噴き出している。


「潰鬼。貴様海水で錆びたりはしないのだろうな」

「も、問題ありません。私のボディは重塩害仕様であり、また強酸、強アルカリ、その他の腐食に耐性があります」

「全身から湯気を噴き出しおって。装甲の隙間から海水が侵入しているではないか」

「も、問題ありません」


 プシュー!

 

 侵入した海水が蒸発しているのであろうか。

 潰鬼より噴き出す蒸気の量は半端ないものとなっている。


 ララ一行は7番コロニー『シーマン』へと転送されている。迷彩の戦闘服に身を包んだ金森はアサルトライフルを構えている。しかし、その手は震えていた。


「落ち着け、金森。貴様が焦ったところで何も変わらん」

「それはわかっていますが、しかし、巨大な海獣が出るとの情報が……」

「そうらしいな。おかげでこの広くて美しいビーチは人っ子一人いない。我らの貸し切りになっている」

「避難警報が出ているんです。警察さえも手を出せず逃げ回っているんですよ。それなのに暢気に海水浴を楽しむなんて信じられない……」


 金森の言う事ももっともなのである。

 フーダニットの手配でここ『シーマン』に来たのだが、出発前に彼女から厳重に注意された。

「ララお姉さまに限って間違いはないと思っています。でも、気を付けてください。最新の情報によれば、部下の皆さんが消息を絶った座標には、恐怖の大海獣が出現しているのです」


 フーダニットの言うとは、通称名『メカチンゴン』である。全長40mの巨大海獣。元々は大海獣チンゴンと呼ばれていた。


 この7番コロニーを七度襲い、甚大な被害をもたらした大害獣。カンパニーの総力を挙げやっとの思いで撃退した。それを、どこかの馬鹿者がサイボーグ化して復活させた。


 メ〇ゴ〇ラ的最終兵器『再生海獣メカチンゴン』として披露されたその巨大サイボーグ兵器はコントロールを失う。以後、このシーマン近海を徘徊し、船舶や周辺の施設を破壊しまくっている。


 そして本日、この海岸へと接近しているとの情報が入ったのだ。


 警察もコロニー現地軍もこのメカチンゴンに対抗する能力は無く、その排除はバウンティハンターに委任されることとなった。しかし、この巨大サイボーグを仕留めようとするハンターは皆無であり、現状、野放し状態となっていた。そこでララ一行に白羽の矢が立ったのだ。


「確認できる情報を総合すると、どう考えても私の手に余るな」

「その通りです。ララ室長。だから私は必死で反対いたしました」


 金森はララの言葉を必死に肯定する。ライフルを握る手は相変わらず震えている。


「しかし、あの報酬は魅力的だよ。事務員を10名、時給1500円で雇えるし」

「そんな理由でお受けになったのですか?」

「冗談だ。ここでコロニー側に恩を売って、行方不明者を捜索させるんだよ」

「なるほど、捜索に協力させるのですね」

「違う。捜索んだ」

「そうだったんですか」

「当たり前だ。こんな辺ぴな場所で、よそ者が捜索活動などできるものか。どう協力させるか考えていたところにちょうど良いクエストが転がり込んできたという訳だ」

「合理的な判断です。しかし、この資料によればメカチンゴンの全長は40mで重量は2万5千トンもあります。いくらララ室長がお強いとはいえ、素手で戦われるのは無謀であると思います」


 金森の言葉に頷くララ。

 腕を組み、目を瞑って首を横に振る。


「ウ〇ト〇ラマンでも呼ぶか?」

「それは、設定的に無理があると思います」

「私が変身するならどうだろうか?」

「うーん。ベーターカプセルよりはウルトラアイの方がお似合いだと思うのですが、著作権的に大問題があると思います」

「やはりな」

「差し出がましいようですが、ラシーカさんや潰鬼さんにお願いしてみては如何でしょうか?」

「あいつらはハンターの資格を持っていない。私が倒さなければ報酬はもらえないんだ」

「そうなんですよね」


 金森が相槌を打つ。

 

 波打ち際では、相変わらずラシーカがはしゃいでいるし、潰鬼はその脇で発熱し、蒸気を吹きまくっている。

 

 そののどかな光景の向こうで異変は発生した。


 沖の海面が盛り上がり大波を立てる。

 その中から何か黒いものが浮上してきた。潜水艦の艦首の様なそれはメカチンゴンの頭部だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る