リブート・吊るされた男

 オルガノの説明によれば、ジーク・バラモット一味はここから一番近いショッピングモール朱雀を拠点化しているのだという。朱雀に立てこもっていた人々はゾンビから逃れたい一心でジーク・バラモットを王として受け入れた。

 ショッピングモール朱雀はジーク・バラモット率いる吸血鬼集団……彼らは自らそれをバラモットと呼んでいる……の活躍によりゾンビは駆逐されている。しかし、ショッピングモール朱雀はゾンビ化の恐怖を退けた事で新たな恐怖を呼び寄せてしまった。それは、吸血鬼の餌となる恐怖だった。

 ジーク・バラモットと共にここデッドライジングに来訪したバラモットは数体。それらは幹部としてジークと共に朱雀を支配していた。そして彼らに血と精を提供する羽目になる人々は週に10数名ほど。バラモットとやらは週に二三人を食うらしい。食うと言っても血と精を吸い取るだけで肉体は食わない。そして、血と精を吸いつくされた人は屍食鬼グールとなる。このグールはバラモットに支配されているうちは忠実なしもべなのだが、バラモットが目を離すと単なる屍食鬼グールに成り下がる。


「その屍食鬼グールはな。ここデッドライジングで一番新しいタイプのゾンビなんだよ」


 オルガノの言葉に頷くララ。そしてさらにオルガノは話を続ける。


「ただし、バラモット達は不要なグールは外にほっぽり出しているんだ。やつらにも支配できる数が決まっているのだろうな」

「なるほど。バラモットの殲滅もお前の目的の一つだったんだな」

「ああそうだ。しかし、奴らは強い。俺一人では到底手におえない強さなんだ」

「私に任せろ。全て殲滅してやる」

「そいつは心強い。外の炎も収まってきたようだから出かけようか。朱雀はここからそう遠くない」

「ああ」


 ララが頷いた瞬間、ビル横の空間に静止していたガンシップ・クロウラが墜落した。自由落下ではなく、何かに引っ張られるような落ち方だった。重力制御により浮遊するガンシップの墜落にその場の人員は凍り付いてしまった。


「何があった。ゲップハルト!」

「分かりません。急に斜め方向へと引っ張られ、そのまま地面へと墜落しました」


 まだ燃え盛る屍の中へと墜ちたクロウラ。その機体に幾筋の煌めきを見つけたララは光剣を抜き走り出した。オルガノとラシーカ、ブレイとハルト君もそれに続く。


 クロウラは透明な糸、まるで蜘蛛の糸のようなか細い、しかし、幾重にも束ねられた糸に絡まっていた。そして、向かいのビルの屋上に立っている人影が一つあった。


 その人影は赤い甲冑を身に着けていた。

 腕組みをしながらそれを見ているララがつぶやく。


「ほほう。赤備えか」

「甲斐武田軍みたいでカッコいいですね」


 相槌を打ったのはハルト君。何気に日本の歴史関係のことは詳しいらしい。


「よく知ってるな」

「時代物はララ様の専売特許ではない事、ここで証明して見せますよ!!」


 何故か二人の間に火花が飛び散っている。そこに割って入ったのはオルガノだった。


「今、飯富虎昌おぶとらまさの話は関係ないだろう。あれはリブート。異世界再生機構の一員だ。あの赤い甲冑は『吊るされた男』、デミクラ=ナットーで間違いない」

「ほほう。よく知っているな」

「ここ数日、白虎や青龍を襲い設置されているバリケードを破壊して回っている不信人物の情報があった。そしてな。p.w.カンパニーからの通達文書に、コロニー関係者はリブートと戦うなとの記載があった。リブートの情報と合わせてな」

「なら私の出番だな」


 一歩前に進み出ようとするララの肩に手を添え、静止するオルガノ。

 首を横に振っている。


「奴は俺がやる。このコロニー生存者を脅かす存在に対して黙っているわけにはいかない」

「カンパニーの命令に反するぞ」

「構わん。ああいうイデオロギーに凝り固まったキティ野郎はこの俺がぶっ潰す」


 そう言い放ちすらりと日本刀を抜くオルガノ。その鞘はララに手渡した。


「何の真似だ?」

「必ず帰ってくるからその鞘を預かっておいてくれ」

「恋人の代わりか?」

「そういう事にしておこう」


 向かいのビルの上に陣取っていた赤備えは両腕から何か糸のようなものを放出し、それを握って振り子のように接近してきた。

 オルガノは下段に構え赤備えを逆袈裟に斬り上げる。赤備えは糸を操りその剣先を優にかわした。そのまま別方向へと飛ばした糸をつかみ、方向転換をして離脱する。置き土産に手りゅう弾を一つ放り投げていた。その手りゅう弾はすでに信管が着火しており、白い煙が噴き出ていた。

 オルガノはその手りゅう弾に覆いかぶさりにやりと笑った。


 ズドン!


 オルガノの体が少し浮き上がり、地面に鮮血が広がっていく。オルガノは口から大量に吐血した。


「ぎゃはは。コロニーマスターもたかが知れているな」


 高笑いをしながら再びビルの屋上に陣取った赤備え。奴はララたちに向けサブマシンガンを斉射した。ララとブレイ、ハルト君は素早く射線から回避したのだが、ラシーカは回避のタイミングを逃した。

 血だらけのオルガノは素早くラシーカに覆いかぶさり、一身にその銃弾を受けた。数回痙攣をした後絶命したオルガノだが、即時復活する。目を開きラシーカの額にキスをした。


「お嬢ちゃんみたいなタイプは大好きだぜ」

「私が大好きなのはララちゃんです」

「おっと、こりゃ失礼。ララお嬢さんにヤキモチ焼かれちゃマジで殺されるかもな。ははは」


 笑いながら立ち上がるオルガノ。その肉体はすでに修復されており、出血も止まっていた。


「噂通りの化け物め。貴様を解体してゾンビに食わせてやる。覚悟しろ、うひゃひゃひゃひゃひゃ」


 しゃべっている最中に、赤備えは十字手裏剣を取り出し投擲していた。その十字手裏剣を素手で、オルガノの顔面で捕まえたのはララだった。


「お前は忍者か? 手段を選ばぬ腹黒い素行はかえって好感が持てるぞ」


 ララのその一言で、赤備えの顔色が変わった。目を血走らせ、頬を赤く染め、そしてギリギリと歯ぎしりをしていた。


「俺は忍者ではない。武道家だ。強さを求める武道家なのだ。姑息な忍者風情と一緒にするなあっ?」


 赤備えがしゃべっている最中に、ララは手に持っていた十字手裏剣を投擲していた。手裏剣は赤備えの兜に、三日月をかたどった前建てに深々と突き刺さり兜を吹き飛ばしてしまった。そして赤備えの額には深々と切り傷が刻まれ鮮血が流れ出した。



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