バラモットによる支配
アリ・ハリラー党の天才メカニックであるノラベル将軍。彼は数々の人型兵器を作り出し、そしてアルヴァーレと戦った。その優秀な性能をいかんなく発揮しアルヴァーレを追い詰めるのだが、最終的にはララ室長に潰されてしまう。
そのノラベル将軍の制作した人型兵器に搭乗し、最前線にて戦っていたのはゲップハルト隊長。毎回、ララ室長にねじ伏せられ嫌気がさしていたらしいが、今回も見事にその通りとなってしまった。
内閣魔法調査室の特務ユニット「魔女っ娘探偵アルヴァーレ」の助手であるハルト君。彼はアルヴァーレの為に率先して行動し、時には……いや、常に彼女たちの盾となって負傷していた勇敢な、しかしドジな青年だった。大の巨乳好きだであった。
その二名は両手両足に手錠を掛けられ床に転がされている。その二名に対し、ララが尋問を始めたところだ。
「お前たちの目的はなんだ」
「ララ室長を拘束することだ」
「何のために」
「バラモット様に献上するためだ」
ゲップハルトの回答。
やはりこの名が出てきた。
「バラモットとはジーク・バラモットのことか」
「ああそうだ。巨乳を愛し貧乳を蔑む偉大なお方だ」
ハルト君の回答。
ララはハルト君の腹部を軽く蹴飛ばす。
「ぐは」
「嘘をつくな。あのジーク・バラモットが胸の大小に関して特別に意識しているとは思えん」
「う、嘘ではない。女の乳には生命の精が多く詰まっているのだ」
「どこからそんな迷信を」
「バラモット様からの教示だ」
再びララがハルト君の腹を蹴飛ばす。ハルト君は痙攣しながら嘔吐した。
「ご、拷問には反対だ。人権を無視することは許されない」
「ほう。人権ね。人には生来基本的な人権が備わっている」
「そうだ」
「では聞こう。吸血鬼に人権はあるのか?」
「私は吸血鬼ではない。仮に吸血鬼であるとしても元々人間であることに変わりはない。そういった種族間における差別は許されない」
「吸血鬼は人間の一種族だと? 自分は人間だと強弁するのか」
「私は人間だ。しかし、吸血鬼もまた人間の一種族であり一形態だと言っている」
ララはゲップハルトの顔を蹴る。
彼の鼻が潰れ、鮮血が噴き出す。
しかし、潰れた鼻は直ぐに修復され、出血も止まった。
「吸血鬼とは便利なものだな。怪我をしてもすぐに治癒する」
「私は吸血鬼ではない。ジーク・バラモット様に忠誠を誓った戦士だ」
鮮血と唾液を吐き、尚も自身の存在を否定するゲップハルト。
その横では吐しゃ物にまみれたハルト君がララを睨んでいた。
「そうだ。そこの貧乳差別主義者。貴様にもお仕置きをくれてやる」
ララがハルト君の脛を踏んづける。
ゴキッと鈍い音を立てて、あらぬ方向へと折れ曲がる。
「ぐぎゃ!」
ハルト君は苦悶の表情を浮かべ更にララを睨みつける。ララはお構いなしに、反対側の脛を踏み骨折させた。
「がぁ!」
見事に折れ曲がったハルト君の両足だが、それは直ぐにまっすぐな形に修復された。その異様な光景にラシーカは目を背けている。
ララは腰の後ろに収めていた光剣を取り出した。赤燈色の光り輝く刀身がすらりと伸びる。ララはその切っ先をハルト君の鼻先へと向けた。
「いい加減に白状しろ。貴様は何者だ。ハルト君の皮をかぶっているが、中身は別物だろう。貴様の放つオーラの色はハルト君のものとは全く違う。他の奴は騙せても私には通用せんぞ」
「何を馬鹿なことを言っている。僕はアルヴァーレ助手のハルトくっ」
ララの光剣がハルト君の頸部を貫いた。
ハルト君の生首が床を転がっていく。しかし、その皮膚は赤黒く変色し、額からは二本の角が生えてきた。鬼と呼ぶべきその奇怪な生首がせせら笑う。
「よくも見破りおったな。この小娘が」
「当然だ。さあ吐け。本物のハルト君はどこにいる」
「心配するな。とある場所に隠している。貴様に見つけられると良いな」
「ほざけ」
ララの光剣がその鬼の右目を穿つ。
そしてその胴体の胸、心臓を貫く。
「ぐはあ」
その鬼の体は灰となり崩れていく。生首も同様に灰となった。
「何てことをしてくれた。私の弟を殺したな。帝国の武人には慈悲がないのか?」
「無い。私の身内に化けて私を侮辱した。弁明の余地はない。次は貴様の番だ」
「やらせるものか」
雄たけびを上げ、両腕・両足の手錠を引きちぎり立ち上がったゲップハルト。その容姿は青黒い肌の鬼と化し、その体躯は二回りほど大きくなる。
「私はアルベルト・ガラナ。レーザの少数民族ガルダの出身だ。貴様が殺したのは私の弟、フリード。無抵抗の弟を惨殺したその罪は万死に値する」
ゲップハルト、いや、鬼の姿をしたアルベルトは素手でララにつかみかかってくる。ララは光剣を構え迎え撃とうとするのだが、その刹那、一条の光線がアルベルトの胸を貫いた。
「ぐは。誰だ。邪魔をする奴は……」
「使えん奴は始末する。私はララ室長を生け捕りにしろと命じた。貴様は食うつもりなのか?」
物陰から出てきたのは黒い装甲服を身に着けた男、ジーク・バラモットだった。両腕でビームライフルを構えている。
「私はあなたに忠誠を誓い吸血鬼となった。そしてあなたの命令に従った。それなのにこの仕打ちは……」
「くどいな」
ビームライフルから数本の光条が放たれ、アルベルトの眉間と心臓を穿った。悲鳴を上げる間もなく、アルベルトの体躯は灰となって崩れていく。
「貴様の部下ではないのか」
ララの問いにジークは首をかしげる。
「部下? 単なる駒に対して特別な感情などない。用が済めば始末するさ。そいつらは用も果たせなかった役立たずだがな」
その一言を残し、ジーク・バラモットの姿は空間に溶け込んでいく。そして完全に見えなくなった。
「ララちゃん」
ラシーカがララを抱きしめる。
「ララちゃん。怖くなかった? すごいの見たね。気持ち悪くなってない? 大丈夫?」
「問題はない」
「でも……」
「あれはレーザ星系に住む少数民族なのだ。ガルダ族という。その変身能力を政治的に利用され続けた哀れな連中さ」
「知ってたの?」
「ああ。珍しい種族だから情報はあった。お目にかかったのは初めてだがな」
「なんだか可哀そうです」
「そうだな。吸血鬼となっては尊厳も何もない。灰になるだけだ」
サラサラと崩れていく灰となった死体。
ララとラシーカはその様子を唯々見つめていた。
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