屍人の世界

デッドマン・ワンダーランド

 宇宙巡洋艦ガウガメラ。この艦は特殊な次元航行能力を持っている。艦体を異次元化し、この三次元界の物質に潜り込むことができる。それはすなわち、大地の中へと潜航する能力である。その隠密性は他の追従を許さない。


 ハイ・ソサエティ・コロニーであるエルダー・ドラゴン・ハイランダーから地面に潜行し、デッドライジングへとへと向かうガウガメラ。


 その艦内では出撃前の作戦会議が行われていた。ララが各員に指示を出している。


「総指揮はミサキ姉さま……いえ、ミスミス総統にお願いします。ここ、ガウガメラ艦内より指揮を執ってください」

「わかりました」


 すでに艦内に着任しているミスミス総統がうなづいた。


「第一小隊はハーゲン大尉とミハル中尉、コウ少尉の編成。第一小隊は後方支援だ。いつでも出撃可能な状態で待機せよ。使用機種は改良型ゼクローザス。クベーラ、アーチャー、ハンマーの三機種である」

「了解」


 ララの指示に頷く三名。ハーゲン大尉とミハル中尉、そして黒猫ことコウ少尉である。


「第二小隊はリオネ中尉、ビアンカ少尉の編成で近接支援戦闘を行う。ゼクローザス・ドーラ、インスパイア・トルネードを使用せよ」

「了解」


 軍医のリオネ中尉とビアンカ少尉がうなづく。


「第三小隊はゲップハルト隊長、戦闘員ブレイ、そしてハルト君だ。貴様らは私と行動を共にし、人質救出のための先兵となれ。敵に操られ私に歯向かった汚名をここで晴らすのだ!」

「ありがとうございます。ララ室長」

「了解!」

「はい!」


 ゲップハルト、ブレイ、ハルトの三人が元気よく敬礼をする。それを見てほほ笑むララはさらに指示を与える。


「貴様らには特別装備が用意してある。しかし、今回はガンシップ・クロウラ強襲型にて出撃せよ」

「特別装備とは?」

「ふん。黒龍騎士団の団長が虜囚の身では締まらんからな。話は団長を奪還してからだ。以上だ! かかれ!!」


 ララの号令に全員が返答し敬礼する。そしてそれぞれの持ち場へと走っていく。一人取り残されたのはラシーカだった。


「ララちゃん。私の役目は何? 私はどうしたらいいの?」

「お前はここに残って待機だ。私が危険になった時には助けに来てくれ」

「嫌だ」


 ラシーカはララを抱きしめ、その豊満な胸をララの顔へ擦り付ける。


「ラシーカ。お前が怪我をするのは見ていられないのだ。頼むから安全な場所で」

「嫌。絶対に嫌。私はララちゃんと一緒がいいの。私はガンジョウだからきっと役に立つ。弾除けでも何でもするから連れて行って!!」

「分かった。分かったよラシーカ。だから放してくれ」

「うん」


 目に涙を貯めていたのだろう。

 両手で瞼をこすりながらラシーカが頷いた。


「一つ約束してくれ」

「何?」

「現場では私の指示に従ってくれ。私はお前を引き受けた責任があるのだ」

「そうだね。ララちゃんの立場も考えなきゃだね。分かったよ。ララちゃんの指示に従う。でも私はララちゃんについて行く」


 ラシーカの強い決意に流された格好のララだった。ラシーカが頑丈であるが故、彼女の負担が増えてしまう事を憂慮しての判断を自ら覆したララ。彼女はこの判断が間違いではない事を切に願うのだった。


 そして夜が明ける。


 地中に潜行中のガウガメラより数名の人影が地上へと降りた。そして、大型バスほどの大きさであろうか、黒いつやのある装甲を持つ芋虫型のガンシップも浮上してくる。

 ここはデッドライジング。幾多のゾンビに汚染されたコロニーである。


「まずはコロニーマスターのオルガノ・ハナダがどこにいるかだな」

「情報はないのですか?」

「ない。ここは隔絶されたコロニーだからな。中に入って出てきたものはいないんだよ」

「黒剣部長もここには入れなかったんですね」

「そうだ」


 会話をしているのはララとラシーカ。その傍には狐耳を持つ戦闘員のブレイとハルト君がいた。ゲップハルトはクロウラの操縦席に陣取っている。


「ゲップハルト。ゾンビが出現したらビーム砲で撃て。ここの住民は複数の要因が重複してゾンビ化している。モニターのオーラ測定器を注視せよ。判定が黒であれば容赦するな」

「了解しました」


 ガンシップは高度を取り、そして前面と左右のビーム砲を開く。それは淡く光を放ち発射体制を取る。


 このコロニーには元々が百万の人口があった。それを支える巨大な商業施設が四つ存在している。一般にショッピングモールと呼ばれる巨大商業施設。その商業施設には生存者が立てこもっているという噂であったのだが、確認はできていない。


「その巨大ショッピングモールの一つがジーク・バラモットに拠点化されているのですね」


 質問してきたのはハルト君だった。ララは頷く。


「そう考えるのが合理的だという事だ。確証はない」

「オルガノ・ハナダはどこにいるのでしょうか?」


 今度はブレイの質問である。


「私はショッピングモールにはいないと思う。あの男の性格からすれば、表に出て戦っているはずだ」

「はい。でも、それはどこなのでしょうか?」

「そこだ」


 目の前にそびえる高層ビル。

 そこはこの5番コロニー、デッドライジングの行政府そのものだった。


「奴は、オルガノ・ハナダはここに拠点を持ち、ここにゾンビを引き付け堂々と戦っていると思う」

「確証はない?」

「もちろんだ。何も情報がないのだからな。どうしたブレイ」

「いえ。ただ、僕の父さんがお世話になった方だと聞いたのです。だから是非とも助けてあげたいのです」

「そうだな」


 そう言ってララは周囲を見渡す。

 かつて行政府の中心であったそのビルは寂れ果て、また周囲にはゾンビとして復活できそうにない体のパーツが転がっていた。おびただしい数のパーツが。


「ゲップハルト」

「はい。ララ室長」

「今からしばらくの間、ゾンビが出現しても手を出すな。そのゾンビを餌にオルガノ・ハナダの出陣を待つ」

「了解」


 ビルの影から朝日が射してくる。その光の中で幾多のしかばねが近寄ってくる。その数はどんどんと増えていき、ビルの周囲を幾重にも取り巻いていく。

 そしてビルの中から色黒の東洋人がのっしのっしと歩いてくる。肩には日本刀を担いでいた。


「ビンゴだ」


 その姿を確認したララがつぶやく。

 特殊能力「死ぬべき運命フリージア」を持つ不死身の男、オルガノ・ハナダその人だった。



 

 

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