第5話 出撃

 草原に立って、僕は竜騎士団のみんなが模擬戦をやっている様子を見上げていた。

「異常はないね。このまま、なにもなければいいけど……」

 僕は隣のファルセットを撫でた。

 城の近くの練習場では、こういった派手な事が出来ないのだ。

 ちなみに、今は訓練用の槍を使っているので、滅多な事では大事には至らないはずだった。

「……ん?」

 僕はなにやら気配を感じ、みんなで派手にやり合っている向こうの空を見上げた。

 姿はよく見えないが、少なくとも友好的とはいえない気配を放っているのが三体はいた。

「マズいな、急ごう」

 僕はファルセットに飛び乗り、急いで空に舞い上がった。

 それで相手は驚いたらしく、遠くの影が逃げていくのがみえた。

「甘いよ。そんな速度じゃ!!」

 僕はニヤッと笑みを浮かべると、小さく呪文を唱えた。

 ……中位火炎系攻撃魔法。これで、十分だ。

 僕が放った炎の矢は真っ直ぐ小さな影に向かっていったが、その行方は気にせず僕は空に円を描くようにして、進路をこれまでとは真逆にして、全力で飛んだ。

 すると、案の定迫り来る十名くらいの集団。感じる魔力から察するに、魔法で空を飛んでくる連中がみえてきた。

「はぁ、いつもの嫌がらせかな。どうもこう、邪魔したがるのが多いんだよね」

 僕は十名のうち、先頭の一人に照準を合わせた。

「火傷くらいにしとかないとね。今度は、ちゃんと当てるから……うわ!?」

 その先頭の一人が、いきなり降参を意味する白旗を揚げた。

 他の連中は、この国の国旗とお隣のディーン王国の国旗を揚げていた。

「こ、これって、外交使節団だ!」

 僕は慌てて首から下げていた笛を吹いた。

 激しく動いていた団のドラゴンたちがピタリと止まった。

「ぜ、全員下りて整列して。お客さんだよ!!」

 僕の声に全員がそれぞれが小首を傾げながらも地上に下り、僕も素早く地上に下りてファルセットから飛び下りた。

 そこはさすがに馴れた動きで全員が整列し、僕はいつも通り整列してる一団の背後に回った。

 竜騎士団にとって、ドラゴンテイマーはあくまでも裏方なのだ。

「ファインセット竜騎士団長は……」

「私だが、なにか用向きかな?」

 というわけで、いきなり現れた隣国からの使者は団長と口早に会話を交わした。

「これを見せればよいと伺っています」

 使者の一人が羊皮紙を取り出した。

「出撃命令書だな。正規のものだ。よし、隣国でひと暴れするぞ。金鉱でドワーフといざこざが起きたが、地上をいく常備軍ではなかなかたどり着ける距離ではないし、魔法使いもそれほど数がいないという事で、竜騎士団にお鉢が回ってきたというわけだ。各員、急ぎ準備せよ」

 団長の声で全員がワサワサと支度を始めた。

「ふぅ、これも戦だね」

 僕はファルセットの首を撫で、苦笑したのだった。

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