第30話 演習へ

 それにしても、あの男の人は何者だったんだろう。

 引っかかってはいたが、あまり蒸し返したくないというのが本音だった。

 そんなわけで、僕はなるべく気にしないようにした。

「よし、今日も終わりだね。明日は確か色々な竜騎士が集まって、演習をやるんだっけ」

 これは、アルス王国と接する六カ国の竜騎士が集まり、色々と訓練を兼ねた試合をやったりして、とにかく大騒ぎになる。

 毎年やっているらしいのだが、去年が初参加の僕が見た限り、なんだかお祭りのような状態だった。

「今年は初めて歩兵部隊も参加するっていうし、ますます大騒ぎだろうね」

 僕は椅子の背もたれに身を預けた。

 ちなみに、竜騎士と呼ぶのはアルス王国だけで、他国にいけば竜騎兵だったり、空中機動兵だったり、呼び方は様々だった。

 この集まりには、僕も参加するので、今日は早めに寝た方がいいだろう。

 僕は部屋の明かりを落とし、ベッドに横になった。

「さて、今年はどんな人が集まるかな。たまに、よそをみておくのも大事だからね」

 僕は呟いて、そっと目を閉じたのだった。


 例の集まりは広い場所が必要なため、各国が持ち回りで場所を作るのだが、今年はカレン王国という、王都からはそれほど離れた国ではなかった。

「アーデルハイト殿は、私の横を飛んでくれ。これは、条件の一つでもあるのだ」

「条件が増えてる……。はい、分かりました」

 僕は思わず苦笑した。

「では、いこう。皆、私に続け」

  いつも通り最後尾で警戒かと思っていたので、ファルセットまでやや距離があった。

  それぞれのドラゴンに乗って、みんなが空に舞っていくのを待って、僕もファルセットに乗って空に舞った。

 静に編隊を組んで飛んでいるみんなを追い越し、僕は団長の横について飛行を続けた。

「思い出しちゃうな。今度はなにもないよね……」

 なんとなく何かに祈るような気持ちで、アルス王国竜騎士団は国境を越えた。

 そのまま飛ぶことしばし。無事に越境を終え、僕は安堵のため息を吐いたのだった。

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