第29話 事後の日

 しばらくして、団長が日誌を持って小屋にやってきた。

 ベッドに座ってため息を吐くと、団長は笑った。

「なにを気にする事がある。アーデルハイト殿のためではなく、私のためにやった事だ。ここでアーデルハイト殿を失う事になったら、私の気持ちはどこに向けるのだ……とな。あくまで私の事だ」

 団長は僕の頭を撫で、机に日誌を置いて小屋から出ていった。

「かばってくれてるね。はい、そうですかっていえないけど、そう思うようにしよう」

 僕は苦笑して日誌を開いた。

「あれ、今日は全員休みにしちゃったのか。僕の親のために迷惑掛けちゃったな」

 僕は日誌にサインして苦笑した。

「交換日記じゃないんだけどな。『父上はなかなか強かったぞ。いい勝負だったが、私の方が勝った。安心して欲しい』って、お父さんに勝つとは凄いね」

 しばらくして、みんなが日誌を提出しにやってきた。

「へぇ、完全に自由か。いつもは週末だけなのにね。もしなにかあっても、なにも出来ないところだったよ。危ないなぁ……」

 僕は大きく息を吐いた。

「ここまで迷惑掛けちゃったら、今まで通り接してくれないかもね。そうなったら、さすがにここにはいられなくなるね。はぁ……」

 頭を軽く振ってから、僕は椅子に座った。

「なに気にしてるんだ。誰もなんとも思ってねぇよ」

 気が付かなかったが、竜騎士団員の一人が日誌を片手に笑った。

「その、休みにしてしまったので……」

「なんだ、休みが嫌いなヤツがいるか。いい感じでリフレッシュさせてもらったぜ。感謝はしても、文句なんかねぇよ」

 その団員は日誌を机に置いて小屋から出ていった。

「り、リフレッシュか。ならいいけどね」

 僕は苦笑してから。机の上に溜まった日誌を読んでサインする仕事を開始した。


 翌日、ようやく通常の仕事が出来る状態になった。

「迷惑掛けちゃった分、ちゃんと仕事しないとね」

 全員が日誌を取りにきて、全員が訓練に飛び立つのを見送ったら、厩舎の掃除に取りかかる。

 いつもの流れが戻った事で、僕はようやく安心できた。

「ここにきてから、僕も変わったのかな。少なくても、どこかに行きたいとは思わないな」

 厩舎の掃除をしながら、僕は一人で小さく笑った。

「さてと、ここで終わりだね。小屋に戻って、休憩しよう」

 僕は馬車に乗ると、小屋に向かって走らせた。

 これが、情けない事続きだった時間の終わりになったのだった。

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