第28話 自分でやること
竜騎士の制服は緑を主体にした、なかなかお洒落なものだった。
もっとも、みんながこれを着るのは、何かの式典などの公の場だけで、基本的には鎧だのなんだの武装した状態で、訓練などをやっている。
例外は一応戦闘要員ではないというぼくだけで、いつもこれを着ている。
これを着ることになったのは、城からの一通の手紙だった。
国王様が僕宛に招待状のような感じで、十五才の独り立ちの日を半年後に控えた頃だった。
「……最後までお父さんは反対していたんだよね。ロクな事にならないからってね。結局、お父さんと国王様の間でなにやら取り決めをしているようだけど、全部は教えてくれないんだよなぁ。この環境にすること。あくまで、軍人ではないって条件は知ってるけどさ」
マニュアルの修正も終わり、小屋から出ないとやる事がない僕は、まだ体が痛むのでベッドに横になっていた。
何時間か経った頃、小屋の扉がノックされた。
「終わったのかな?」
僕はベッドから下りると、扉を開けた。
「アーデルハイト、話は聞いています。大丈夫ですか?」
「お、お母さん!?」
扉の向こうにいたのは、紛れもない僕のお母さんだった。
「はい、お父さんと国王様が話をしているので、暇だったのです。あなたを危険な目に遭わせたからではありません。約束を破って軍人と同じように……他国への伝令など、まさにそれなのですが、そういう接し方をしたために起きた事なので、お父さんも黙っていられなくなったのです。私はあなたが嫌でなければ、その辺りはいいと思っていますけどね。一応様子をみておこうと思ったのですが、大丈夫そうですね。これを」
お母さんが差し出した薬瓶を手に取ると、お母さんは笑みを浮かべた。
「これで、痛みも引くでしょう。回復魔法では、細かいところがダメなので」
「あ、ありがとう……お母さんはこれでいいと思ってるの?」
僕の問いにお母さんは笑った。
「あなたが選んだ道で独り立ちしたのです。誰が文句をいえますか。その辺りが、お父さんにはどうも……。さて、元気そうな顔を見られましたので、私はお父さんを引き留めにいってきます。たまには帰ってきなさいね」
お母さんはそのまま小屋から離れていった。
「……お父さんの事だから、熱くなると何するか分からないんだよね」
僕は苦笑して、小屋の扉を閉めて施錠しておいた。
まだ早い時間なので、誰もこないはずだし、これでも問題ないはずだ。
「はぁ、ダメな事だったんだね。知らなかったよ。役に立ててよかったって思っていたんだけどな」
僕はベッドに戻り、再び横になった。
この小屋にも置いてあるが、この傷薬の効果はよく知っていた。
眠気を催す欠点があったが、むしろじっくり休めるのでありがたいものだった。
「ほら、眠気がきたよ。誰もいないけどお休み」
僕は小さく笑って目を閉じた。
起きてみれば夕方だった。
「うわっ、ここまで酷い怪我だったんだね……」
僕は慌ててベッドから下りて、扉の鍵を開けた。
時計をみれば、もうすぐみんなが帰ってかえってくると思うような時間だった。
すっかり痛みも消え、問題なく動けるようになった僕は、小さく息を吐いた。
「色々情けないな。お父さんは僕が説得しよう。そうしないと意味がないよ」
僕が小屋の扉を開けようとすると、団長が外にいた。
「アーデルハイト殿、全て問題ない。安心して欲しい」
「うわ、その怪我!?」
団長の顔を見て、僕は慌てて回復魔法を使った。
「これは助かる。結構、痛くてな」
「あの、まさか父が暴れたとか……」
「暴れたのではない。団長である私とサシで勝負して、私が勝てたらもうなにもいわないという条件で話をしないと、平行線のままでどうにもならなかったのだ。国王陛下相手に一歩も譲らぬ。なかなかの人とみたぞ」
団長は笑み浮かべて、僕の肩を叩いた。
「もう問題はないだろう。明日からは、通常通り頼むぞ」
そう言い残して、団長は小屋の前から去っていった。
「僕がやらないといけない事を、団長にやらせちゃったのか。はぁ」
僕は小さなため息を吐き、小屋の中に引っ込んだのだった。
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