第14話 王都の騒ぎ
なにか、僕だけ一人で虐められているわけではない。
これは、ドラゴンテイマー特有の掟なのだが、十五才で成人を迎えると、三年間は誰の世話になる事なく、なるべく一人で生活しなければならないと決まっているのだ。
だから、僕みたいに国王様に仕えたのは例外中の例外だが、それならばとお願いして、こういう環境にしてもらったのだ。
まあ、そんなわけで、城の小屋のベッドで横になっていると、城下町の警鐘が鳴る音がきこえ、僕は反射的に飛び起きた。
そのまま、玄関から飛び出てファルセットの背に乗った。
即座に飛び上がると、城下町で黒煙が何本も上がっているのがみえたが、ここからでは何が起きているかまでは分からなかった。
「行くしかない。急いで」
僕はファルセットに乗って、城から一気に城下町に向かった
「うわ、これは酷いな……」
土中に住みいきなり顔出すワームという種類の魔物がいる。
この辺りではアラルド・ワームが有名だが、少なくとも数百の群れが城下町の建物や道を破壊して顔を出し、住人たちに襲いかかっていた。
「……一人じゃ絶対無理だ」
僕は腰の信号弾発射機を手にして。上空に打ちあげた。
すでに城にも連絡が入っているはずだが、僕が直接連絡した方が、余計な手続きがない分、遙かに早く現場に到着出来るはずだ。
「さて、これでいいかな。あとは、単独で出来る事だね。まずは、偵察して情報を集めないと……」
僕は地上から攻撃されない高度で素早く街の上空を飛び、鞄の中の紙に街の概略図を書いて状況を書き込んでいった。
城からはまだ遠かったが、放っておいていいものでもなかった。
「よし、こんなところか……」
僕が額の汗を拭うと、総動員で出撃してきた竜騎士団がたちまち僕を取り囲んだ。
団長が少し前に出て手を差し出したので、僕は持っていた紙を小さな金属製の容器に紙を折りたたんで押し込み、団長に放った。
それを受け取った団長は容器から紙を取り出し、開いてから頷いた。
戦場に着いてからの偵察。これも、僕の任務の一つだった。
「僕の予想では、あえてど真ん中に突入して、端に広げていく作戦かな。端からやってたんじゃ終わらないから」
僕のつぶやきと、団長が両手を使ったブロックサインを出したのは同時だった。
上空で使う武器を持っていない事もあるが、僕は一団の最後尾に付き一気に高速で飛行を開始した。
それぞれが自分の武器で接近したワームに攻撃を加えながら、家にぶつかる寸前まで降下し、あとは低空で円形に散っていった。
この状況になると、僕の居場所は団長の脇になる。
緊急の伝令などの際に、いないと困るからだ。
一斉に飛び込んだ魔物浸食部の上空で馬ならぬ竜を並べると、団長は手で合図してきた。
「警告って……えっ!?」
先ほどの突撃で片づいていたワームたちの死体を押しのけるのようにして、巨大な塊が目の前に出現しようとしていた。
「ど、どっかで召喚術でも暴走したの。アリエテ・ドラゴンなんて、この辺りには自然に住んでないよ!?」
思わず呆けたその一瞬、団長がドラゴンごと僕を弾き飛ばした。
それで空いた空間を黄緑色に発光するブレスが通り過ぎた。
「あ、危なかった……」
僕は小さく息を吐いた。
隣を飛ぶ団長が苦笑して、出現したドラゴンを指さした。
「ああ、そうだった。よし……」
僕は神経を研ぎ澄まし、目の前にいる出現したばかりで、もう一発撃ち込む動きをしている「子」を睨んだ。
「……掴んだ。よし」
この辺りは秘密というか、下手に真似されると怪我じゃ済まないので伏せるが、僕はドラゴンの動きを制約した。
改めて確認すると、さっきのブレスで途方もない被害が出ている事が分かった。
こうなると、やるべき事は限られていた。
「……誰だよ、この子を呼んだの。許さない」
僕は腰の剣に手を掛けた。
このままではよほど接近しないと届かないが、やり方次第でなんとか出来る。
その行動に移ろうとしたとき、僕の頭にさっき投げた金属製の容器が当たった。
「頭を使えって……ああ、魔法なら魔法でか!」
容器を投げたのは、もちろん団長だ。
自分の頭を右手で突き、小さく苦笑した。
「また出たら困るしね……」
僕は地面に向けて右手をかざした。
「発動中の魔法を強制解除か……ブレイク!!」
僕の右手の平から派手な光が巻き散って、よく分からないが気持ち悪い感じが全身を駆け抜けた。
「ふぅ、この感覚がなければ便利なんだけどね。これで、この変な魔法は消えたか」
ふとみると、団長が笑みを浮かべて小さく敬礼を送ってきた。
慌てて僕が答礼すると、団長は笑って「それで?」とでもいうかのように、出現したままのドラゴンを指さした。
「そ、それが問題。僕は召喚術なんて、習ったこともないし……よし、こうしよう」
魔法で戻せなければ、直接どっかに連れていけばいい。
僕が団長に向かって頷くと、団長も頷き返してきた。
「よし、それじゃいこうかな。邪魔なんて思われたら可哀想だし」
僕は首に提げている笛を吹いた。
人間には、すさまじく甲高い音が微かに聞こえる程度だけど、ドラゴンにはバッチリ聞こえる。
これが合図で、動かずじっとしていたドラゴンが翼を広げ、僕たちの横に並んで羽ばたいた。
「よし、いくよ」
僕は内心ため息を吐き、顔では笑ってドラゴンを引き連れ、王都を発った。
どこにいくか悩んだが、生態から考えて森林地帯が最適だった。
「西方の大森林か。一番近いところは」
僕は苦笑して、横を並んで飛ぶドラゴンに目をやったのだった。
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