第8話 お土産
アルス王国の竜騎士として出動した以上、他国にいけばそこの国王様に謁見をするのが常識だった。
といっても、こんな大所帯で出向いたら脅かすところの騒ぎではないので、団長と副団長が使者としてやってきた魔法使い三名と共に、この国の王都に向かう事となり、あとはアルス王国へと戻る事になった。
しばらく飛んで城に戻ると、僕はドラゴンたちの様子をみて回る事に忙殺される事となった。
「ブレスなんて、滅多に使わないもんね。どれ……」
特に口周りを重点的に確認し、必用なら回復魔法で治していく。
ひたすらその作業をくり返し、全て終わった頃には夕方になっていた。
「さ、さすがに、疲れた……」
僕は小屋に帰ると、そのままベッドに飛び込んだ。
好きな香草を乾かしたものを枕の中に仕込んであるから、布団は固くてもこれでなかなか快適だ。
「そういえば、なにも食べてないね。でも、今は作る気がしないからいいや……」
ベッドの上でゴロゴロしていると、ノックもなしに小屋に竜騎士の一人がやってきた。
「よう、なかなかいいハッタリだったぞ。あのままやり合ってたら、もう引っ込みがつかなくなってたな。戦闘糧食だがメシだ。どうせ、一度ここを出ればいつもロクに食わねぇのは、みんなが知ってるぜ」
その竜騎士はテーブルの上に食料を置き、小屋の扉を閉めて出ていった。
「あれ、心配されちゃった。珍しいな……」
ボクは苦笑してから、ベッドから下りると、テーブルの上には簡単な食事が置いてあった。
「さては、ここぞとばかりに用意したら、多すぎてみんなに配って歩いてるな。美味しくはないからね。こりゃ大変だ」
僕は思わず笑い、テーブルの上の食事に手を付けた。
「イテテ……な、なんだ!?」
時刻は夜になり、僕は左肩にそっと手をやった。
「あの矢が掠った痕か……。遅効性の毒でも塗ってあったかな」
毒矢というのはどこにでもあるが、ここまで何時間も効いてこない毒というのは珍しい。
恐らく、毒薬が粗悪品な上に、僕の体内に入ったのが微量だったのだろう。
おかげでこの程度なのだろうが、かえって毒物の特定を難しくした。
「肩の痛み以外、特に異常はないか。傷痕が見えそうでみないな……」
シャツの襟首から左腕を出し、痛む肩の辺りを見ようとしたが、どうやってもみえない角度だった。
僕は横になっていたベッドに座った。
「このまま、放っておいていい感じでもないないな。ちょっと遠いけど、城の医務室まで行かないとダメだね」
僕が左腕をシャツの袖に戻そうとした時、小屋の扉を蹴破る勢いで白衣をきた城の医者がすっ飛んできた。
「ああ、そのままで!」
医師のお姉さんが叫び、僕が一瞬固まった間に素早く左腕に注射を打った。
「解毒剤です。危なかった……竜騎士団が一晩で壊滅する所でした。症状が重い者から順に手当していたのですが、ここは厩舎から少し離れているので、話を聞かなければ危うく見過ごす所でした」
医師のお姉さんは額の汗を拭い、ついでにとばかりに簡単な健康チェックをして小屋か出ていった。
「あ、危なかったんだね。油断大敵だ……」
僕は一つ息を吐いて、左腕をシャツの袖に戻した。
「はぁ、疲れたな。でも、全員無事ならいいか」
僕は小さく笑い、再びベッドに横になったのだった。
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