第26話 後始末
国王様から託された手紙を携え、隣国バルツ王国へと飛んだ僕は、途中で正体不明の魔法王使い集団に襲われ、立てないほどの傷を負わされた上に、その手紙を奪われてしまった。
もちろん、かなりショックなことだったし、自力で何も出来ず国境警備隊に助けられた事も、今まで親に教わった事に反する事だった。
このこと自体は心から感謝しているが、手放しでは喜べない。そんな感じで、僕は馬車で国境警備隊の詰め所に運ばれ、ちゃんとした治療を受けたのだった。
「痛かったなぁ。やっぱり、それなりに重傷だったみたいだあね」
詰め所の小部屋に案内された僕は、ソファに座って苦笑した。
頭の中を整理するために、しばらくぼんやりしていると、警備隊員が部屋に入ってきた。
「城にはすでに連絡をしています。じきに竜騎士団も到着するでしょう。しばらく、ゆっくり休んで下さい。まだ、治療が終わったばかりです」
「そうもいかないよ。手紙を取り返さないと……」
僕はソファか立ち上がろうとしたが、目眩に襲われて倒れそうになったので、慌てて座り直した。
「いや……それすら、難しいか」
「はい、命に関わるほどの重傷でした。事情は伺っていますので、竜騎士団到着と共に我々も動きます。必ず取り返しますので、ここでお休み下さい。城へ帰る事だけ考えて下さい。では」
その警備隊員が部屋から出ていくと、僕はソファに座ったまま頭を抱えた。
「最悪だよ。失敗の取り返しも出来ないなんて。悔しいしか出てこないよ……」
僕の目から涙がこぼれた。
しばらくして、感情の嵐が収まると、僕は涙を拭いて顔を上げた。
「い、いや、僕なんかより今はあの手紙だ。迷わず持っていったって事は、僕が運んでいる事を知っていたって事だよね。ダメだ、心当たりが全くないよ」
結局、役に立つ事がなにも出来ないでジタバタしていると、慌てた様子で団長が入ってきた。
「アーデルハイト殿、具合はどうだ?」
団長はソファに座った僕の前に立った。
「なるほど、治療は受けたようだが、無数の小傷が残っている。これ以上は、生命力がもたないという事だ。よほど酷い傷だったのだろう。生きててよかったぞ」
団長は僕の肩に手を撫でた。
「何を神妙な顔をして黙っているのだ。あまり長い時間ここにはいられない。普通に喋って欲しい」
いって笑みを浮かべた団長に頷き、僕は口を開いた。
「ごめんなさいとしか……」
「何を謝る必要がある。強いていうなら、悪いのは国王様だぞ。こういった任を専門にしている人材を多く抱えているのは知っているだろう。もっとも、それを承知の上でだと思うがな。では、ゆっくりしていてくれ。私は仕事に戻るぞ。ずっと様子を見ていたいが、そうもいかなくてな」
団長は僕の頭を軽く撫で、そのまま小部屋を出ていった。
「怒られた方がマシだったかもしれないけど、団長の配慮だよね。はぁ、気を遣わせちゃった」
僕はソファの上に寝転がると、思わず苦笑した。
その日の夜になって、僕はようやく動けるようになった。
警備隊員の話によれば、またあの男の人が現れ、まさにその男の人を探していた竜騎士団と激しい戦闘を経て、ようやく捕まえたという事だった。
なんでもアレス王国の竜騎士に強い反感を持っていて、僕の鞄から手紙を持っていったのは、ついでに財布でも盗んで行こうと思ったら、それより重要そうな手紙があったので、なにかに使えるかと思っただけのようだった。
その手紙も無事に届けられ、僕は気後れしながらも、みんなと一緒に城に戻った。
「せめて、やるべき仕事だけはちゃんとやらないとね」
小屋の机に積まれた日誌の山を相手に、僕はひたすらそれにサインをし続けた。
「それにしても、さすがだね。あんな凄い人を捕まえちゃうんだから」
僕はちょうど回ってきた団長の日誌を開いた。
相変わらず事細かく書いてあり、ページの最後に「私信」と書かれていた。
私信 アーデルハイト殿へ
気にしないように。誰にでもあることだ。
それをフォローするために、仲間がいる。
一人では出来ない事の方が多い。
遠慮なく頼るように。
「団長も難しい事をいうなぁ。自分しかいないって思うことで、ドラゴンを相手に堂々としていられるんだよ。これが、十五才で独り立ちの理由なんだけどな」
僕は苦笑して、その日誌にサインしたのだった。
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