第17話 王都の災難
ドラゴンを送り届け、僕は急ぎ王都に向かっていた。
必要かどうか分からないが、あの後の結果を知らなかったからだ。
西方の大森林から王都まで一時間も掛からない距離だった。
「なんだか煙の数が増えてる気がするな。もっと急ごう」
僕はファルセットを加速させ、乗っていて怖い速度まで引き上げた。
まもなく王都の壁を越えると、ワームの襲撃がまた続いているのが分かった。
「……こりゃ、黙っていられないね。騎士らしいことをしないと」
僕は剣を抜き、飛ぶ先に見えていたワームめがけてファルセットから飛び降りた。
空中を落下しながら接近したワームに剣を突き立て、そのまま切り裂きながら地上に飛び降りた。
「これ、団長にみられたら怒られるんだよね。効率的だと思うんだけど、確かに危ない」
僕に斬られたワームは、傷から緑色の体液を吹き出しながら倒れた。
「よし、次だ」
僕はそのまま路地を走り、出遭うワームを片っ端から斬っていった。
「しっかし、誰がこんな事を。みんなはどこに?」
しばらくして僕は立ち止まり、笛を吹いた。
すぐさま降りてきたファルセットの背に跨がると、そのまま一気に上昇した。
「あれ、あそこでなにかやってる。かなり大物みたいだね。いってみよう」
僕はファルセットの腹を蹴り、速度を上げてみんなが集まっている方に向かった。
近づくにつれ、状況が見えてきた。
全員で囲んで動かないようにするのが精一杯という感じで、囲みの中央にいたのはドラゴンだった。
「ぶ、ブラックドラゴンだって!?」
その名の通り、全身を黒い鱗で覆った巨大なドラゴンは、トップクラスに強いドラゴンだった。
これまた、こんな場所にいるわけがない種類で、人が入れないような山に住んでいるとか、この世界の生き物ではないといわれているほどの、まずみる事がない種類のドラゴンだった。
「よかった、まだブレスは吐いてない。やられたら、こんな街なんて一瞬で消滅しちゃうよ。急がないと」
僕は囲んでいるみんなの頭上を飛び越え、ブラックドラゴンの頭上に出た。
「……ダメだ。格上過ぎて掴めない。ならば、やりたくはないけど」
気がつくと、団長が隣に並んでいた。
僕がみると小さく頷いたので、僕も頷き返して一度鞘に収めた剣を抜いた。
……ドラゴンスレイヤー。竜殺しの剣。それを持っている理由は、ここにあった。
僕は一息吐いてから、転がるようにファルセットの上から眼下のブラックドラゴンの頭上めがけて落ちた。
「……ごめんね」
剣の切っ先がブラックドラゴンの頭蓋骨を貫いた。
そのままの勢いで縦に真っ二つにするように背中を滑り降り、着地と同時に走って距離を開けた。
立ったままだったブラックドラゴンが街の建物を破壊して、ゆっくり倒れる姿を確認し、僕は剣を収めた。
「……扱えないドラゴンに遭ってしまった時の切り札がこれか。身勝手だね、全く」
僕は息を吐いた。
さすがに、これ以上は動けなかった。
僕は笛を吹いてファルセットを呼び寄せ、その背中に乗った。
付いてきた団長に先に戻ると手で合図を出すと、団長は「了解。よくやった」と返してきた。
僕はまだ苦笑するだけの気力があった事に驚きつつも、そのままいつもの小屋に戻ったのだった。
「はぁ、なんかもやっとするな。誰だよ、絶対に許さないからね」
小屋のベッドに横になり、僕は天井に向かって呟いた。
しばらくして、団長が小屋に入ってきた。
「お疲れさまといったところだな。犯人も特定して捕縛してある。悪意はなく事故だといっているが、それを裁くのは我々ではないので知った事ではないな。城に連行する前に、我慢出来ない者がいわゆるボコボコにしているが、どうする?」
「姿をみると許してしまうので、このままみないでおきます。ほどほどにして、ちゃんと国王様の裁きを受けさせて下さいね」
僕は小さく笑った。
「分かった。安心しろ、それほど酷くはないからな。では」
団長が去ると、僕は大きくため息を吐いた。
「ボコボコか。それが出来ないって知っててくるんだもん。意地悪だなぁ」
僕は苦笑して、疲れに任せて目を閉じた。
念のために行いっておくけど、僕はドラゴンテイマーで剣士ではない。
このくらい出来ないと、身を守る事が出来ないだけだと。
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