第18話 たまには寝坊

 「さすがに、今日の日誌は全員厚いね。こりゃ大変だなぁ」

 大荒れだった一日も終わり、夜になってみんなから日誌が集まってきた。

 総員出動な上に大騒ぎだったので、数と内容の厚さが半端ではなかった。

 僕はひたすら読んでサインする作業に没頭した。

「……人的被害は骨折程度までか。その分だけ、少し許すよ」

 僕は小さく笑みを浮かべた。

「僕も書かなきゃね。一晩で終わるかな」

 読む作業に一通り目処をつけ、今度は自分の日誌を書き始めた。

「グモルクとの話も書かないとね。日誌の意味がないから」

 あとはひたすら書き続け、気がついたら夜明けの時間になったようで、窓の外が明るくなってきた。

「よ、よし、終わった。寝るよ……」

 僕はよろよろとベッドに倒れ、そのまま一気に眠りに落ちた。


「うぎゃー、寝坊した!」

 僕がベッドから跳ね起きた時、小屋の片隅においてある時計も窓から差し込む明るい補差しが、全て昼近い事を示していた。

「ど、どうしよう。も、もう一回寝て忘れちゃう!?」

 とにかく仕事をしないといけない。

 机の上に山積みになっていた日誌がないという事は、全員取りにきて今日の仕事を始めているという事だった。

「つ、ついでに起こしてよ、もう!」

 僕は慌ててベッドから降りた。

 制服を着たまま寝てしまったのは、今は大助かりだった。

 僕は小屋から飛び出て、取るもとりあえずここから始まる厩舎の掃除に入った。

「こ、こんな事もあろうかと、手慣れておいてよかった!」

 自分でも意味不明な事を叫びつつ、僕は仕事道具の馬車を走らせ、全ての厩舎の掃除を終えた。

「えっと、次は!?」

 まだ唯一の地上勤務でよかった。

 これが第一線の戦闘訓練だと、もうどうにも取り返しが付かない。どこにいるかわからないからだ。

「もう、こうなったら最低限の手抜きをしよう。終わらない!」

 自分でもびっくりする作業効率で次々と仕事を片付け、夕方になって全部終わった頃になって、まるでそれを見計らったかのように、みんなが戻ってきた。

「アーデルハイト、急いできてくれ」

 団長が厳しい顔で近寄ってきたので、寝坊を怒られると覚悟したのだが、どうも様子違った。

「な、なに?」

 疑問に思ってついていくと、厩舎の一つに入った。

「ここなら誰もいないからな。西方の大森林にあるグモルクと交友があったというのは本当……だろうな。お前が嘘を書くわけがない。あまり、大声でいわぬ方が身のためだぞ。せいぜい、この日誌だけにしておけ。これを書いてページを開けたまま寝てしまうとは、よほど疲れていたのだろうな。話はそれだけだ。くれぐれも、気をつけてくれ」

 団長は僕に日誌を渡し、最後に笑みを浮かべて去っていった。

「まあ、知ってるけど、日誌は日誌なんだけどなぁ……」

  僕は苦笑して日誌を開いた。

「やっぱりね。『グモルク』と書いた場所が、『かの存在』に修正されてるよ。グモルクって聞いただけで、嫌な顔とか露骨に殺気立つ人もいるからね。これは、僕じゃどうにも出来ないからね」

 僕は何が嫌なのか分からないのだが、歴史を紐解けば人間とグモルクはことあるごとに剣を交えている事が分かる。

 そんな過去があるせいか前もいったけど、決して仲良しではない。

「しょうがないね。さて、小屋に戻ろう。今日はちゃんと寝ないと」

 僕は一人で苦笑して、厩舎から出て小屋に戻ったのだった。

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