第19話 どこにでもありそうな話
今夜は静かで仕事を終えると、僕は早々にベッドに潜った。
そのままゆっくり寝て、明け方近くの時間になって起き出すと、僕はいつも通り厩舎の清掃にはいった。
「ん、この子怪我してるな。ああ、日誌にあった大木との接触か。遅くなってごめんね」
僕はドラゴンに回復魔法を使った。
傷が治ると、その他に異常がない事を確認し、僕はそっとそのドラゴンを撫でた。
「よし。全く、手荒な事するから!」
一声叫び、僕は苦笑して清掃作業を再開した。
掃除も終わり、その他細々した作業が終わる頃になると、支度が済んだみんながやってきた。
「アーデルハイト殿、今日は遅くなると思う。南の国境の周辺が少々騒がしくてな。適度に牽制するようにとの命を受けている。遅い事に関しては心配しないで欲しい。貴殿にも同行願いたいところだが、真っ先に狙われるのがドラゴンテイマーだからな。みる者がみるとすぐに分かる。危険を承知で同行するようにはいえん」
団長が僕の肩を叩いた。
「居残りではないぞ。万一戦闘になってここに戻ったとき、回復出来る者がいないといけない。そういう意味でいっているからな。誤解するなよ」
団長が笑みを浮かべ、僕の肩をもう一回叩いて厩舎に向かった。
そして、程なく『アルスの厳つい鳩の放鳥』ともいわれる、ここで毎朝行われている全員の一斉出撃が開始された。
各厩舎前の空き地から次々に飛び立っていき、五分と掛からないうちに全員が出発した。
「絶対来るなって釘刺されちゃったよ。まあ、受け止め役がいなきゃいけないだろうけどね」
僕は団長がいかにもな感じで、足元に丸めて落ちていた紙を拾い上げた。
「手紙かな……」
僕はくしゃくしゃの紙を広げた。
『西方の大森林に住むグモルクと名を聞かれるほどの関わりがあった事が、国王様の耳にまで入ってしまった。しばらくは、城外に出すなと暗に命を受けている。どちらが正しいか分からぬが、二度と戻らない覚悟があるなら抜け出すなら今しかない。判断はまかせる』
「うわ、大事になってるし。でも、僕がいなくなったら、一番困るのは国王様なんだよね。お父さんとの密約があるから、ここの竜騎士がただの騎士になっちゃう。それは僕も嫌だし、居心地がいいここから逃げるなんてしないよ。しばらく放っておけば、僕も出歩けるようになるでしょ」
僕は苦笑して、道具を片付けて小屋に戻った。
日が昇り、朝ご飯も住んだ頃になって、一般的な普段着を着た国王様がやってきた。
「こ、国王様!?」
机仕事をしていた僕は、思わず椅子から飛び上がった。
「よいよい、あの団長の事だ。もう伝えているであろう。ワシも馬鹿馬鹿しいと思うのだが、頭が固い者が多くてな。前時代的だと改正した法で、グモルクとの接触禁止を削除したはずなのだが、捕らえてどうこうしろだのうるさくてかなわんのだ。下手な刺激を与えぬよう、とりあえず城から出ないようにという程度の意味だ。案ずるな」
国王様そう言い残して、小屋から出ていった。
「あー、びっくりした。まあ、こういう国王様だからいいんだよね。この国も」
僕はカップのハーブティーを一口飲み、笑ったのだった。
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