第21話 こ、これって?
「あーあ、休み終わっちゃった。よし、顔を洗ってこよう」
一時的に魔力を消費したため体が動かず、僕は臨時で休みとなった一日を丸々寝て過ごし、翌日の未明になってやっとベッドから下りた。
「あんな怪我したみんなが日誌を置いていったのに、僕だけこれはダメだね」
僕は苦笑して、くみ置きの水で顔を洗った。
「よし、まずは日記のチェックからだね。また分厚い事!」
僕は苦笑して椅子に座った。
「へぇ、なかなかの激戦だったのか。小競り合いってレベルなのかな、これ?」
日誌に書かれた内容から想像出来る戦闘は、激闘としかいえなかった。
次々と読む事に没頭していると、いきなり肩を叩かれた。
「うわっ!?」
慌てて背後を振り向くと、団長が苦笑して立っていた。
「時々時計を見る癖をつけた方がいいな。もう、明け方だぞ」
「ええっ!?」
慌てて時計をみると、確かにそんな時間になっていて、窓の外も薄明るくなっていた。
「まあ、その分量を真面目に読んでいたら、今日一日かかってしまうぞ。流し読みしてサインだけすればいい」
「は、はい!」
団長が笑った。
「まあ、それは朝の準備が終わったらでいいだろう。ところで、助かった事は事実なので大きくはいえないのだが、あの魔法は出来れば使わない方がいいだろう。使ったあとに丸一日寝込んでしまうほどだからな。尋常なものでない事は、私にも分かる」
「は、はい、以後気をつけます!」
団長が笑った。
「なにを固くなっている。急げ」
「はい!」
僕は慌てて小屋の外に飛び出て、いつも通り厩舎の掃除を始めた。
「国王様は当たり前だけど、団長にも変に緊張するようになってきたな。なんでかね」
僕は作業をしながら、苦笑した。
大急ぎで朝の準備を終え、みんなを訓練に送り出してから、僕は再び日誌の確認とサインする作業に戻った。
「おっ、団長のだ。一番客観的にみてるから、これはちゃんと読んでおこう」
僕は団長の日誌を読んだ。
「これは、もう戦争のレベルだよ。これでも、あくまで小競り合いか……」
僕はため息を吐き、団長の日誌にサインした。
「みんなよく帰ってきたな。心配だけど、このための訓練だし役目だもんね」
僕は苦笑して、次の日誌に取りかかった。
こうして、昼ご飯すら忘れて最後の日誌にサインしたときには、時刻は夕方になっていた。
「はぁ、終わった。ここは、ドラゴンたちに癒してもらおう。なんちって!!」
外出したかっただけ、といわれたらそれまでだが、僕は小屋から出てまだ実戦に出せないドラゴンたちの厩舎に、馬車で向かった。
程なく到着すると、僕は厩舎に入った。
中には三人のドラゴンがいて、今や僕が近づいても警戒音すら出さなくなる程度には慣れているので、一番神経質な時期は過ぎたといえた。
「ある意味、ここが僕の戦場だからっていったら怒られるな。おっかない父さんに」
竜騎士向けには、背中に誰か乗っても嫌がらない程度だった。
あとは、そのドラゴンを引き受けた竜騎士の仕事になる。
仲良くなると、なにもしなくても勝手にやるべき事をやってくれるので、こんなに頼りになる事はなかった。
「さてと……」
僕は厩舎の床に座った。
すると、遠巻きにしていたドラゴンたちが寄ってきた。
「よしよし、大分慣れたね。もう、誰か乗せても大丈夫かな」
「では、私が乗てみようか」
不意に誰か入ってくると危険なため、施錠しておいたはずの扉を開け、苦笑を浮かべた団長が入ってきた。
「あ、危ないですよ!!」
思わず声を上げた僕だったが、ドラゴンたちは極平静にしていた。
「竜騎士である以上、ドラゴンの扱いは心得がある。ただ、一番大事な人間を信用してもらう事だけは、専門家であるアーデルハイト殿にお願いしてるのだ。いやなに、今日は訓練を軽めにして、戻ったばかりなのだ」
「そ、そうですか。でも、乗るのはそのドラゴンに乗る人だけです。特にこの時期に何人も乗ってしまうと、結果的に誰にも懐かない子になってしまうので。ごめんなさい」
「そうなのか、それは失礼した。それにしても、半端な時間が余ってしまったな。アーデルハイト殿、時間はあるか?」
「は、はい!?」
僕は思わず声を裏返して返事してしまった。
「なに、暇つぶしといったら怒られてしまうが、隣町まで出歩こうかと思っていたのだ。なに、すぐに済む用事だ。どうだろうか?」
「は、はい、いきます!!」
僕の口が勝手に答えていた。
「それは助かる。では、早速いこうか」
「は、はい!!」
団長と僕は厩舎からでて扉を施錠し。上空で合流する相談をして分かれた。
「だ、団長のお供だって、しゅ、出世した?」
僕は馬車に飛び乗ると、小屋まで一気に駆け抜けたのだった。
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