第10話 誕生会と成人

 ドラゴンテイマーといっても、なにか派手な特技があるわけじゃない。

 ドラゴンの心が少し読める程度で、それだけでは心許ないと魔法を少し覚えたほどだ。

 でも、どうにも怖がられてしまうので、自分がそうだというときはごく限られていた。

「さてと、そろそろ昼だね。ちょうど終わったし、小屋に戻ってお昼にしよう」

 僕はくたびれた荷馬車に乗り、厩舎が建ち並ぶ中をゆっくり走った。

 もうすぐ小屋というところで、厩舎の合間に作れたいい加減な土道に、どう考えても不釣り合いな、豪華な服装をした人が立っていた。

 護衛とすぐに分かる豪華な服を着た人が、ニヤッと笑みを浮かべて親指を立てた。

「こ、国王様!?」

 僕は慌てて馬車を止めた。

「よし、今日も雑用頑張っているな。ちょっと乗せてくれ」

「は、はい!!」

 僕の返事と共に、国王様と護衛二人が荷台に飛び乗った。

「さて、アーデルハイト・ハーデスで間違ってないな。今日が誕生日と聞いたぞ。人事を担当する者ですら、誕生日が空欄になっている事に気がついて、愕然としていたぞ。この何十年間、一切ミスをしなかった強者がな。一つ聞く、ドラゴンテイマーが操るのはドラゴンだけか。こんな事は聞きたくないが、これも国王の務めだと思って欲しい」

 荷台から手を伸ばし、国王様が僕の肩を叩いた。

「と、とんでもないです。ドラゴンにしても、話しかけていう事を聞いてもらっているだけなんです」

 僕は両手をバタバタさせながら反論した。

「なるほど、文献にあったのは本当だったのだな。ただの好奇心だよ。よし、小屋まで行こう」

 国王様は小さな笑みを浮かべた。


「な、なにこれ!?」

 小屋が近づいてくると、訓練に出かけたはずのみんなが、どこから持ってきたのか折りたたみ式のテーブルをいくつも並べ、料理やら飲み物やらを置いていた。

「よし、きたな。水くせぇ事しやがって。よりによって、二十歳の誕生日をスルーしようなんざ甘いぜ!」

 竜騎士の一人がいって、全員で笑った。

「まあ、誕生会と成人の祝いの宴だな。儂も楽しもうか」

 ちょうど小屋の脇に駐めた馬車から国王様と護衛が飛び降りて、集団に紛れ込んだ。

「おい、主役がポカンとしてるな!!」

 間もなく僕も引きずり落とされるかのように馬車から下ろされ、集団に引っ張りこまれた。

「よし、飲むぞ!!」

「祝いだ祝い!!」

 ひたすら飲まされ食べさせられ、散々揉みくちゃにされ、これどうしようと思っていると、ようやく落ち着いた場になった。

「あ、あの、なんで急に?」

 思わず出た一言に、近くの竜騎士が苦笑した。

「竜騎士団の一人が誕生日。しかも節目の二十歳なんて、ここしばらくなかったからな。こういうイベントもありだろ?」

 僕はしばらくポカンとしてしまったが、自然に笑みが出た。

「あ、ありがとう。素直に嬉しいよ」

 僕は笑って、近くの料理を取り皿に取った。

 仲間としてみてくれる。

 それだけで、僕がここにいる理由として十分だった。

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