第23話 ずる休み

 団長の用事がなんだったのかは分からないし、別に興味はなかった。

 でも……コホン。

 あくまで、気持ちの確認という事で、その……。

 な、慣れてないあの単語が出せないんだよぉ!

「ああ、今日はもうダメだ。寝よう……」

 夜になって机の上に山積みになった日記を前に、僕は小さくため息を吐いた。

「これじゃ怒られちゃうぞ。団長は仕事に厳しいんだから!」

 僕は無理矢理椅子に座り、いつもの日誌の確認を始めた。

 これは、本来は団長の仕事なのだが、多忙で手が回らないと僕に回ってきた仕事だった。

 とりあえず夕方の事は忘れ、僕は日誌を読んでサインし続けた。

「本当に軽めだったんだね。普段の半分もやってない。まあ、みんなも疲れちゃうよね」

 僕は小さく呟き、わざと最後に回した団長の日誌を開いた。

「……いつも通りだね。安心したよ」

 このことがなにか影響してしまったらと考えたのだが、団長の日誌は余計な事は一切ないいつも通りのお堅い文章だった。

「これ変わっちゃったら、困るからね。よし、終わり」

 仕事が終わり、僕はベッドに飛び込んだ。

「も、もう寝よう。寝て落ち着こう……」

 僕は慌ててベッドに飛び込んだ。

 さて、寝られるか。それが、問題だった。


 多少寝られたようだが、変な緊張感のようなものでよく眠れず、僕は明け方まであと少しという時間で、ベッドから下りた。

 椅子に座り、机の引き出しから休暇届けを出して、今日は休む旨を書いた。

 サボりといわれるとなにもいえないのだが、どんなに慣れたドラゴンでもふとした拍子に暴れてしまう事もあり、ドラゴンに接近する普段の作業は危険と判断したのだ。

「……可愛いだけじゃないからね。そこがいいんだけどね」

 僕は小さく笑って、書き上げた休暇届けを机上に置いた。

 本来は自分で団長に提出しにいかないといけないのだが、時間的にもうすぐ団長がくる頃合いだった。

 薄暗い中、下手に向かってすれ違っても困るので、僕はそのまま待つ事にした。

「アーデルハイト殿、その紙は休暇届けだな。どこか具合でも悪いのか?」

「いえ、問題ありません。ですが、今日だけはお休みを頂きたいと思いますが、問題ないでしょうか?」

 心配そうな団長に、僕は苦笑した。

「いや、今日一日くらいならなんの問題もないが、ここにきてアーデルハイト殿の休暇届けを受け取るのは初めてだからな。理由が『一身上の都合により』という、なにやら深そうな問題でもあるのかと思ってな。分かった、ゆっくり休むといい」

「あれ、寝ぼけて変な理由に……。は、はい、ありがとうございます」

 団長が自分の日誌を持って、小屋から出ていった。

「な、なんだ、普段通りでいいのか。うっかり、ちょっと身構えていたよ」

 僕は苦笑して、ベッドに移動して横になった。

「これならいいか。変に気を遣わなくていいしね」

 やっと通常に戻ってきた気持ちだが、僕の本能的な部分が今はドラゴンに近寄るべきでないと告げていた。

「まあ、お休みもらえたし、ゆっくり寝て過ごそうかな。今はね」

 僕は次々と入ってきては、寝間着のままの僕をみて不思議そうな顔をするみんなをみて、思わず笑いそうになった。

 そんなわけで、色々理由をつけても、やっぱりサボりの僕は、ベッドに横になったままそっと目を閉じたのだった。

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