第24話 ずる休みの過ごし方

 休暇をもらってぐっすり休み、起きたときには昼過ぎだった。

 寝過ぎだよと思わず苦笑し、僕はベッドから下りた。

 夜の日誌確認から仕事することにして、寝間着から制服に着替え、僕は腰の剣を抜いた。

「頑丈だけど手入れしないとね。えっと……」

 小屋の棚にある剣の手入れ道具一式を持って床に座り、剣の点検から始めた。

「このところ出番が多かったけど、特に問題はなさそうだね。さび止めに、あれはどこだっけ……」

 こんな調子で、僕は剣の手入れを終えた。

「次は杖だな。しばらく寝かしておいて、いきなりあの魔法だから、絶対どこか壊れてるしね」

 僕はベッドに立てかけてあった杖を手に取った。

「うわ、これ買い直した方が無理がなくて安いね。よく耐えたよ」

 僕はもう危なくて使えなくなった杖を片手に、ため息を吐いた。

「ほとんど買い物しないから、給金も貯まってるし十分買えるんだけど、オーダーだから時間が掛かるんだよね。今からいっても夕方かな。とにかく急ごう」

 僕は杖につけてある肩下げ用の革紐を使い、ちょっとキツいけど背負うようにして杖を持った。

「な、なんか、僕って職業なにって聞かれそうだよ。我ながら……」

 僕は笑って小屋から出た。


 小屋の脇のファルセットの背に乗り、僕はそっと飛び立った。

 王都には歩きでもいけるのだが、知っているお店の近くにドラゴンを降ろすスペースがあるので、今回は時間を取ったというわけだ。

 低空を飛行しすぐに降りるスペースが見えたので、僕はそこにファルセットを降ろした。

「やっぱり、人が多いところは苦手だな。クラクラしてきた……」

 王都といえば国の中心の街だ。

 混んでいて当たり前だが、やはりこの人混みは苦手なものの一つだった。

「は、早く帰ろう。お店は……あった」

 竜騎士が主体のこの国では、魔法の技術はあまり発展していなかった。

 とはいえ、城には国王様付の魔法使いの一団もいるし、その影響かこの街にも魔法道具を扱うお店がいくつかあった。

 ここは、僕が王都にきてからずっとお世話になっているところなので、安心してなんでも相談出来るところだった。

 人混みに流されそうになりながらも、僕はなんとか店にたどり着いて小さな木戸を開けた。

「いらっしゃい。ああ、久々だねぇ」

 お店に入ると、いかにも優しそうな様子のおばさんがカウンターの向こうから声を掛けてきた。

「こんにちは、今日はこれなのですが……」

 僕は杖を背中から降ろし、カウンターの上に乗せた。

「はい。おっと、かなり無茶な魔法を使ったみたいね。これは、もう直すよりは買い換えたが早いし安全ね」

 おばさんは笑みを浮かべた。

「はい、僕もそう思ってきました。なるべく急ぎでお願いしたいのですが……」

「分かっています。出来上がったらお城に届ければいいかしら。夕方には完成します。あなたの癖は分かっていますから、それほど時間は掛かりませんよ」

 おばさんは痛んだ杖をみて、小さく頷いた。

「あっ、届けて頂けるのなら助かります。お代は……」

「杖は作ってみないと分からないところもあるから、お届けに上がった時で結構ですよ。早速作業に入りますね」

 おばさんは笑みを残し、店の奥に入っていった。

「よろしくお願いします」

 僕はみていないと分かっていたが、軽く一礼して店を出て、通りを一気に突っ切ってファルセットのところに戻った。

「はぁ、堪らないよ。早く小屋に戻ろう」

 僕はファルセットに跨がり、そのまま城の小屋に帰った。


 城の小屋に戻ると、僕はお茶を入れて一息吐いた。

「もう、慣れていないから、大都市は苦手なんだよね……」

 椅子に座り、僕は大きく息を吐いた。

 早いもので、部屋の角に置いてある時計はおやつ時から夕方へと差し掛かっていた。

「さてと、半端な時間で困ったな。まあ、杖もくるしどこにもいけないから、自分の日誌でも書くかな」

 僕は日誌を取り出し、今日の作業内容を書こうとして止まった。

「しまった、仕事してないから、こうとしか書けない……」


『一身上の都合により、休暇取得』


「ああもう、あの状態じゃ危なくてドラゴンに近寄れないし、今だったらもう大丈夫だけど、せめて半休にしておけばよかったな」

 もしここで、僕が勝手に仕事をしに厩舎に近寄れば、僕が休みのつもりで今日の計画を立てたはずの団長に怒られることになる。

 それは嫌だったので、僕は小さく息を吐いた。

「それにしても、ビックリしたな。僕はともかく、団長がまさかと思ったけど……」

 僕はお茶を一口飲み、小さく笑った。

 窓の外を眺めながらダラダラしているうちに、時間は夕方となり空が赤く染まった。

 小屋の扉がノックされたので開けると、魔法道具屋のおばさんだった。

「お待たせしました。今度は少し強度を上げています。その分、少々シビアな制御が必要ですが、少し違和感がある程度の感覚だと思います」

 おばさんが差し出してきた白銀色に光る杖を受け取り、小さく頭を下げた。

「ありがとうございました。あの、お代は?」

「はい、これが請求書なのですが、竜騎士団宛てでよろしいですか?」

 おばさんが差し出してきた紙に書かれた金額を確認し、僕は財布を取りに一度小屋の奥に戻った。

 そこに、今日の訓練を終えた団長と何人かが一緒に小屋にやってきた。

「アーデルハイト殿、買い物に出たのか。何事もなくてよかった」

 ちょうど財布を持った僕をみて、団長がおばさんが持っていた紙をそっと受け取った。

「気にしないでいい。団員の装備は国費でもつものだ。なにかあっても、返せとはいわぬ。この金額は、個人で持つには多すぎるだろう」

「そ、そんな!?」

 団長は笑みを浮かべ、一緒にいた面々と共に机に日誌を置いて小屋から出ていった。

「あらら、結局竜騎士団宛てになってしまいましたね。では、気をつけて使って下さいね」

 魔法道具屋のおばさんが一礼して笑い、そのまま小屋から離れていった。

「え、えっと……いいのかな」

 僕は手にした杖を見つめ、小さく笑った。

「これは、何かあっても意地でもなんとかしろって事だね。そう受け取ったよ!」

 僕は扉を開けっ放しにして、続々とやってきたみんなの日誌を回収していった。

「さて、仕事開始だね。やっぱり、サボりはよくないな。もうやらないぞ」

 僕はベッドに座り、次々に積み上がっていく日誌の山を見て笑みを浮かべたのだった。

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