12
「るーなは今内のファンやんな?」
『そうなんです!大ファンで!…御本人の前で恥ずかしいんですけどねっ』
収録が始まり、予想通り際どい質問ばかりされるものの、ルナも俺も、他のメンバーも、慎重に答えていた。
俺は内心ヒヤヒヤしていたが、ルナはニコニコしながら卒なくこなすので、むしろ俺まで同棲してるのが嘘なんじゃないかと思ってしまう。
…大した女優だよ。
「そんでも、なんや、向坂とイチャイチャして、その辺どう思ってるん?」
そんな質問に、スタジオからはキャーッと悲鳴に似た歓声が湧く。
「いや、ドラマの話やで!ドラマの。」
意味深に付け足すのが、ワザとらしいよな。
『えー…え、言わなきゃダメですか?』
「え、何、なんか言えへん事情あんの?!せやったら、それは、なあ?無理に言わす訳いかんけど…」
『いやそういうことじゃないんですけど!』
「…けど?」
『私の役はコウサカさん演じるアラタ君の思わせぶりな態度にひたすら翻弄される女の子なので…本当に好きになっちゃわないように気を付けてるんです。うふふ。』
「おー!るーな、めっちゃ大胆なこと言うな!好きになっちゃわんように気を付けてはるってことは、好きになりそうやんな?ちがう?」
『だって!BLUEのコウサカさんですよ?!今日本で1番カッコ良い男性ですもん!気を付けなきゃ~』
まあ私生活では、俺が翻弄されてますけどね、と心の中でツッコむ。
…別に、何も気を付けないで、好きになってくれれば良いのに、なんて。
ルナはスタジオをヒヤヒヤさせるような思わせぶりなコメントをした後、わざとらしく小声で司会者に言った。
『…まあ、私の中ではユウジさんが1番ですけどね。』
言いながらチラチラこっちを見るから、
「撮影中もずっとこんな感じなんですよ。気を付けるまでもなく、俺のことなんか見向きもしないですからね。」
ずっと黙っているのも変かと、適当に二人の会話に入れば、スタジオは大盛り上がりだ。
「休憩でーす」
スタッフからそう声が掛かって、やっと一旦セットから降りれる。
「…はあ。」
常に気を張っていて疲れてしまい、思わずため息がこぼれると、
『疲れちゃうよね~!あははっ』
同じように降りてきたルナが声をかけてきた。
『さりげなく番宣もしなきゃでしょ?もうすっごくハードワークだよね。それにさ…』
表情をくるくる変えながら明るく話すルナは、まるで全身で幸せを身にまとっているようで、今、俺たちが困難の中にいることを、すっかり忘れさせてくれる。
一生懸命に話しかけてくれているけれど、内容なんて、全然頭に入って来ないよ。
どうしようもなく触れたくて、おもむろに手をとって握れば、ルナは どうしたの?なんて笑った。
それがまた最高にかわいくて、今度はその手を引き寄せた。
『きゃっ、ちょっと…ユキ君?!』
「んー?」
『お客さん見てるよ?!』
「…んー。」
どうしたら、俺のこと、好きになってくれる?
そんなこと言えない代わりに、黙ってルナを、ギュッと抱きしめた。
次の朝、ニュースでは、「撮影中は交際を否定していたものの、休憩になると人目もはばからずイチャイチャしていた」とアナウンサーが喋っていた。
きっとスタジオで見ていただろうBLUEのメンバーは、俺たちのことを、茶化さなくなった。
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