『お布団は和室に運んで、問題はユキ君の荷物だよね。どうしよっか…』



買い物から帰ると、マネージャーが俺の自宅から服とか生活用品を段ボールに詰めて持って来てくれていた。



『お洋服、私のクローゼットの一角に置くんでも良い?』


「どこでも構わないよ。」


『おっけー。じゃあクローゼットこっちだよ、それ持って付いて来て。』



それは玄関から向かってリビングの反対側、俺がまだ一度も踏み入れたことのないドアの向こうだった。



『んーと、この辺を空けるから…』


「うわぁ…」



そこは。



「…すっごい広い。」



ウォークインクローゼット。



靴にドレスにアクセサリーに、ショーケースのようにビッチリ綺麗に並べられて、壁には大きなミラー。



いわゆる女の子の憧れ、というのを形にしたような空間で、男の俺でも、素敵すぎて溜息が出る。



『へへ。すごいでしょ?ここ。この家の1番の自慢なの。これ作るために2部屋も潰したんだ~。』



箱か何かをどかしてスペースを作りながら、彼女は言う。



「うん、すごいよ…」



夥しい数の洋服に圧倒され、薄っぺらい感想しか出てこない。



『ん、とりあえずここに置いておいて。あとでもうちょっと片付けて綺麗に並べるけど。』


「ここはきっちり整理整頓されてるんだ?」



リビングは汚かったのに。



『…ここだけは綺麗にしておくって決めてるの。モデルの端くれですからね、お洋服は、大好き。

ユキ君もデビュー前はアパレルで働いてたんなら、興味はあるの?』


「うん…好きだよ。」


『ふーん。じゃあやっぱり、私のクローゼットから色々挑戦してみるべきじゃない?』



そう言うと彼女は、これとかきっと似合うよ~、なんて洋服をいじりだしてしまう。


今朝、服を貸すと提案された時には、さすがに申し訳ないと思っていた。


でも、正直、この空間に足を踏み入れた瞬間から、高鳴る胸を抑えられない。



「…今度、借りてもいい?」


『んふふ。もっちろーん!』



彼女はよく笑うけど、この笑顔は、勝ち誇ったような笑顔。



だから言ったでしょ?なんて。


俺の負けだ。



『あ、こっちも使っていいよ。』


そして彼女はまた違う扉を開ける。


今度は何かと思えば、


『おたくの事務所にある設備には大分劣るだろうけど、一応簡易ジムだよ。』


鏡張りの部屋に、トレーニング用の器具がズラリ。


「え?!スゲー!」


『あー、やっぱり男の人はこっちのが喜ぶね。最初から見せてあげれば良かった。』



確かにそこまで大型の物はないが、自宅とは思えない。


奥の方は物がなくスペースが開けていて、大きなスピーカーもある。



「ハザマさん、踊るの…?」


『ちょっとハザマさんて、やめてよ!ルナって呼ばなきゃこたえなーい!』



えええ…なんて理不尽な。



でもまあ、同棲する相手に苗字呼びっていうのも変か。



「…ルナ。」



そう呼べば、今度は照れたように、笑う。



『きゃーっ!BLUEのユキ君が、ルナ、だって!』


「ちょ、茶化すなよ…」


『あははー!ごめんごめん。』



…コイツ、全然悪いと思ってないな。



「…で?ルナさんはダンス、するんですか?」



そんな風に言われると気恥ずかしくて、ルナさん、なんてふざけたフリをしてしまう。


『するけど…BLUEみたいなアレじゃないよ?カラダの線キープするために、クラシックバレエ。やってるの。』


ああ、バレリーナか。


彼女のスラッとしたスタイルを維持するためと言われれば、納得だ。


『まあ機会があればBLUEの皆さんでも招待して踊らせてあげて?』



でもそしたらリビングも片付けなきゃ、とかなんとか言いながら、ルナはリビングへと戻って行く。


なるほど、家を大分改造した、ってのは、こういうことか。


…やっぱりコイツ、ただの金持ちなのか?


でも何でもかんでもよく喋るコイツが、オトナの事情、なんて隠すんだ。



きっと複雑なんだろう。



そう自分に言い聞かせて、探究心を鎮めた。


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