エピローグ

エピローグ


都内、高級タワーマンションの最上階。


1フロアで一軒を占めるこの贅沢な部屋に、1人で帰れば、



『おかえり~!!!』



最高にかわいい奥さんが、出迎えてくれる。


「ただいま、ルナ」

『んふふっ、おかえりなさい、ユキ君!お疲れ様ー!』


準備をしていたのだろう、晩ご飯の良い匂いを身に纏って、エプロン姿のまま玄関まで駆けてくると、ぎゅーっ!なんて言いながら俺に飛び付く。


「おい、犬かよ、ひっ付くなって…」


とか言って、デコピン食らわしてみても、


『いでっ!良いじゃん、充電してるの~』


…ああ、やっぱり最高にかわいい。なんなんだよ、この生き物。

充電完了!と離れられると、寂しいのは、むしろ俺の方だったり。

…絶対言わねえけど。


『皆は?まだ来ないの?』

「あー、多分もうすぐに来るけど、コンちゃんだけ別の仕事でちょっと遅くなるって言ってたな…」


実は今日、BLUEのメンバーが初めて家に遊びに来ることになっているのだ。


『そかそか、じゃあコンちゃんの分だけ後で温めるとして……って、え?』


いそいそとキッチンに戻ろうとするルナを引き止め、今度は俺が、後ろから抱きつく。


『…おーい、ユキ君?どうしたの。』

「んー…もうちょっと。」


この時間からメンバーで集まったら、どうせ朝までコースだろ?


「…みんな来たら、絶対イチャイチャできないじゃん。」


俺だって、時間の許す限り、ずっとルナに触れていたい訳で。


『もう~。今日のヒロユキ君は甘ユキなの~?』

「甘ユキ言うな。」

『えへへ、甘ユキ~あまあま~♪』


…この野郎、自分だって満更でも無いくせに。

言いたい放題言わせておくのもなんだか悔しくて、不意打ちでチュッ、とうなじにキスを落とす。


『ひゃあっ!』

「ハハッ、生意気な奴にはお仕置きだ。」

『んー!もう!』


やっとこっちを振り返ったと思いきや、ぷりぷりと怒ったその顔も、またかわいい。


…俺、重症だな、これ。


なんて思うより早く、今度は唇にキスしていた。


『ちょっと!怒ってるの、私!分かるでしょ!』

「分かるよ。」

『じゃあなんでチューするの!』

「えー、だってかわいいんだもん。」

『何言ってんの!キモいよおっさん!』

「は、おま…」


おい、俺、まだ33だぞ?


おっさん?

キモい?

え?


チュッ


割と大きなダメージを受け、軽く放心状態の俺に、今度はルナからキスをする。


『…でも好き!ばか!ばかユキ!』


…いや、意味が分かんねえよ。


もう、頭にきちゃう、なんて言って手で覆った顔は、自分でキスしたくせに真っ赤で。

またそれも、かわいいんだ。


御察しの通り、俺はルナにゾッコンで。

何をやられてもかわいくて仕方ないから、なんでも許してしまう。

だからルナには、一生敵わないだろうな。


ピンポン、とインターホンの鳴る音がすれば、ルナはまた玄関に身体を向き直して、嬉しそうに来客を出迎える。


『はーい、いらっしゃい!』

「お邪魔しまーす!おーう、るーなちゃんかっわいい~!」

「すげえー!広い!え、めっちゃ広い!」

「ルナちゃんこれ、ちょっとだけどお酒ね。」


さっきまで甘い雰囲気だった玄関も、アラサー男が4人も集えば、一気にむさ苦しくなる。


「あれ?ユキまだ靴履いてんの?結構前に入ってったよね?」


あ、ヤベエ。

そう思った時にはもう遅く。


『ねえ!聞いてよもう!ユキ君がね、甘ユキでエロユキでバカユキなの!だからまだ玄関にいるの!』

「ちょ、おい、黙れ、ルナ」


ルナは、メンバーに弱みを握られることの重大さを分かってない。


「なんやってー?!甘ユキでエロユキでバカユキ?!」

『そうなの!健ちゃん怒って!隼人さんも!』

「まあまあ、ユキはね、るーなちゃんのことかわいくて仕方ないんだって。」


許してやって、なんてなだめるふりして、明日から楽屋で散々俺をいじってくるつもりだろう隼人さんは、顔がニヤニヤしている。


「せや~、デレデレしたいねん、デレユキやんな!」

『あはは、デレユキ~!』

「デレユキじゃねーよ!健ちゃんも何言ってんの!」


きゃー怒った、こわーい!とかなんとか言いながらキッチンに駆け戻るルナを、メンバーはかわいいかわいいと言いながら靴を脱ぐけど…俺がおっさんなら、あいつももう、25だからな。いつまで少女でいるつもりなんだか…。



離れていた4年間の話を、ルナはしない。


でもあの再会の日、結婚式を目前に控えたルナは、まるで別人のようにオトナになっていた。


それが、全ての答えなのかもしれない。

きっと、その4年間で自分を押し殺すことに慣れてしまったんだろうな。


ところが今じゃ、21の頃に戻ったように、毎日このはしゃぎっぷりだ。


その底抜けに楽しそうな笑顔を取り戻せたのが、俺の手柄なんだとしたら…まあ、バカ騒ぎも悪くないか。



『ちょっとユキ君?いつまでそこにいるのー!早くしないと乾杯しちゃうからね!はい、10、9、8…』

「あー!ごめんごめん、ちょっと待ってってば」



だったらもう、一生オトナになんてならなくていい。


いくつになっても、少女のように、元気にはしゃぎ回るルナでいてよ。



…俺はいくらでも、隣で振り回されてあげるから。





end.





『「「「 かんぱーい!」」」』


「いや、だから待ってってば!」



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