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曲は結局、俺の書いた方をシングルとして出すことになった。悠二の書いたのは、カップリングに。


もしウェディングソングをPVを作るシングルとして出してしまったら、自分の彼女にしてあげられない結婚式を、一足先に他の誰かとやることになるだろう、という、メンバーの完全な私情だ。



そしてそのお披露目が今日のMステ。


「今回のテーマは、禁断の恋、というか、報われない恋、みたいな感じで…」


「君達、悲しい恋の歌好きだよね。」


「ははっ、そうですね。割と多いです。」


答えながらもふと視線を移せば、黒い服にスタッフのカードを首から下げたルナがこちらに気付いて小さく手を振る。


これを誰よりも早く聴かせてあげたくて、わざわざスタジオまで呼びつけたんだ。




「それではBLUEで、初披露の新曲、“オトナの事情”。」


アナウンサーがそう言えば、ピアノの悲しいイントロが流れる。



ルナがすぐそこで聞いているのは知っていたけど、とても顔を見れなかった。見てしまったら胸が詰まって、声が出なくなってしまうと分かっていたから。






ほらそうやって 笑うたび


あいつのことを 思い出すの?


それとも 他の誰かだろうか


どれだけ考えたって


それが俺だと 思えないのは


情けないよね


こんなにも 好きなのに





ねえ本当は もう俺のこと


とっくに好きに


なってるんじゃないの?


だってそんなに 無邪気な笑顔で


俺の手を取るのに






ああ君は 天使か 悪魔か


神様は 味方か 敵か


分からないけど


分かるのは そう


もうどうしようもなく 君が好き





誰よりも ずっと愛してる


君を幸せに してあげられる


でもそんなこと 伝えたら


困った顔で笑うでしょ?


だから絶対に 言わないよ


オトナの事情は 複雑さ


叶わぬ恋が 俺の愛


受け取ってとは 言わないよ


せめて 君は いつも通りに


気付かない フリをして




***





楽屋に戻ると、先に戻っていたルナが飛びついて来た。


『お疲れ様!』

「ごめんね、無理言って来させて。」

『ううん、生で聴けて良かった~!』



そう言って笑うルナの目は、少し赤い。



「あー!るーなちゃん泣いたやろ~」

「そりゃ泣くよね~あんなん聞かされたらね~」


メンバーに指摘されて、バレちゃった~なんて舌を出す。


俺だって気付いていたけど、やっぱりちゃんと、言葉で聞きたくて。



「…どうでしたか?」


顔を覗き込むと、


『…泣けました。』


そう言って俺の首に腕を回して、照れ隠しのキスをする。



「キャー!見ちゃダメ!」


そんな声が聞こえてきて、ここが楽屋だったことを思い出す。


「あ、ごめん、ちょっと外出るよ」


「いいよいいよ、今廊下、スタッフでごった返してるだろうし。」



気付くのおせーよ、なんて笑われて、謝るしかない。



きっとメンバーにはバレてるんだ。こんな歌作るってことは、俺とルナが、手放しに喜べる関係ではないこと。


『うふふ。今日はユキ君の好きなもの作って待っててあげる。』

「え、でもこの後俺 健ちゃんのラジオだから、遅くなるよ?」

『いいよ、私明日早くないし!』

「んー…じゃあハンバーグ」

『わー、子どもみたい~』



俺の答えが分かってて聞いたくせに、ケラケラと馬鹿にしたように笑うから、この野郎、とルナにデコピンをした。



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