「おーう、ユキ、大変だったな。」


ドラマ撮影を終えてからBLUEの楽屋に入ると、隼人さんにそう言われた。


メンバーはマネージャーに、今回のゴシップはヤラセだと聞いたらしい。



「まあ、それも仕事かな、とは思ってますよ…」



昨日の朝はまだ交際報道だったが、今朝にはもう、同棲しているというニュースに変わっていた。


「プロデューサーに、向坂さんはもう結婚してもいい歳ですよねーとか言われちゃったよ。」


「えー、何それ、めっちゃ耳痛いねんけど~」


なんて健ちゃんが言うと、俺より年上組が、本当だよーなんて騒いでいる。



「狭間ルナって、BLUEファンで有名ですよね?大丈夫なんすか?」


唯一冷静に俺の身を案じてくれるのは、1番年下のはずのコン。


「大丈夫も何も、あいつ悠二のファンだから…ユキ君と同棲とか別にドキドキしない~とか言って、布団並べて敷いて寝てるしね。」


チラッと悠二の方を見て自嘲気味に笑うと、メンバーは目を丸くする。



「え?!おま、それはさすがにヤバくね?!」


今まで会話に加わらなかった悠二も、いきなり食い付いてくる。


「まあ、向こうが平気で人の布団にはいってくるし…」


「いやちゃうわ、るーなやなくて!そんなかわええ子横ん寝とって、ユキの方が襲っちゃわんの?!?!?!」


「いや、さすがにそれは…」



…ああ、くそ、無いとは言い切れない自分がいるな。


「ていうか。本当、女の子と同棲してる感じじゃないよ?人の話全っ然聞かないし、曲がりにもファンなのに思いっきり納豆とか投げつけてくるし、夜中にウイイレやろうとか言い出すし、もうめっちゃ部屋汚くて俺が片付けてるし…」


俺の口からペラペラと言葉が出てくるもんで、メンバーも少し驚いたらしい。



「ははっ!」


急に笑いだし、


「いや、ユキ、盛り過ぎでしょ!」


そう言ったのは、悠二。



…あれ、ちょっと待て、これ、もしかして?


「みんな大好きるーなちゃんがそんなわけ!ていうか俺、バラエティで共演したことあるよ~めっちゃ良い子じゃん!」


うーん、隼人さんはルナの予想とはちょっと…


「まあでも、ユキがそんな喋るなんて珍しくね?心配したけど楽しそうで良かったわ。」


いや、あながち間違ってないじゃないか。



「ほんまや~、なんだかんだ楽しんどるくせに何贅沢言うてんねん!あのるーなやで!るーな!なあ?

…ってコンは何調べてんの?」


「いや、どんな子だったかなぁと思って。狭間ルナ。」


…健ちゃんのセリフも、コンの調べ物も、これ、当たりだろ?



え、じゃあ、え?


…嘘だろ。



「ははっ。」


「ん?ユキ、どうした?」


「いや…なんでもないよ。」


俺の負けだな。


そう思って、ポケットの中の30円にそっと触れた。



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