らしくない

11


「…やっぱりユキ、最近よく笑うよな。」


移動中の車内でそう言ったのは、悠二だ。


「え、そう?」


もしそうだとしたら…


「やっぱりルナちゃん効果?」


ニヤニヤしながら振り返る隼人さん。



「それやんな!さっきの取材中もよう喋るなぁ思っとったわ~、ユキらしくない!」


健ちゃんまで加わる。



「いや、最初は俺らもめちゃくちゃ心配してたんだよ?いくらプロモとはいえやり過ぎだろって思ったし。でも、ユキ、アリだと思い始めてるだろ、るーなちゃんのこと。」


鋭いのはいつも隼人さん。



「…そんな、別に。まあ一人暮らしよりは、誰かが家にいる方が会話もあるし、そのせい、かな。」


…完全なる俺の片思い、だなんて。

知られたら、恥ずかしすぎて死ねる。



「次の仕事、ルナちゃんと一緒ですよね?」


と コンが言うのと、俺のケータイが鳴るのが同時だった。


「ん、ごめん。出るわ。

…もしもし?…うん。いや、もう局の駐車場まで来たよ。……別にみんな暇してるだろうからいつでも良いよ。…えー、めんどい。…ははっ、はいはいはい。………ん、待ってる。

………あー、なんかハザマさんがうちの楽屋に挨拶に来たいって言ってて…」


と電話を切って顔を上げると、ニヤニヤした4人の視線が俺に集まっていた。


「え?何?」


驚いて聞いても、皆、べつにー?なんて言うだけで。



「おいおい聞いたかー?」

「いやー、ユキが、ねえ~?」


「“…ん、待ってる”。」


「「「「「あはははははっ」」」」」



車内には、俺のマネと冷やかしの笑い声が響く。


…ああー、もう。

なんで俺がこんな恥ずかしい思いしなきゃいけないんだよ、くそ。



***



『はじめまして、狭間ルナです。…もう本当に大ファンなので、皆さんとお会いできるの楽しみにしてました…!』


いつにも増して楽しそうに笑うルナに、メンバーからは、かわいい~なんて声が漏れる。


「ユキから色々聞いてるよ~!」


『わあ!隼人さんお久しぶりです!

…ちょっと、ユキ君は皆に何言ってるの?変なこと言ってないよね?!』


「え~!なんなん、ユキ君、なんて呼んではるん?!めっちゃかわええー!ルナちゃん、俺んことも健ちゃん呼んでぇや!」


『そんな…!健ちゃん、いつも沢山笑わせてもらってます。おおきに!』


健ちゃんに合わせて関西弁なんて使えば、もうハートをガッチリ鷲掴みだ。


「いやー、本当にかわいいなぁ!ユキお前、羨ましすぎだぞ。」


なんて、悠二が俺のことを叩く。



「…外面は良いんだって。」

『もうユキ君黙って!』

「ははっ、何、悠二の前だと照れてんの?」

『…うるさいよ、意地悪。』


「おーい、楽屋でイチャイチャしないでくれるー?」


「そうですよ、家帰ってからにしてくださーい」


「いや、そういう訳じゃ…」

皆に茶化されて我に帰る。


ダメだ、ルナをこれ以上ここにいさせたら、嫌でももっとボロが出る…


…いや、別に、やましいことなんて、悲しいくらいに何もないけどね。


でも何か知られたら、また冷やかされるのかと思うと…面倒だ。


「おい、ルナ、そろそろ戻「いやちょっと待って!」」


俺の話を遮ったのは、悠二だ。

やっぱりなんとなく、ルナと悠二って似てるよな。


「え、俺の記憶が正しければさ、ユキ、メンバーと話すときはルナちゃんのこと、狭間さんって呼ぶよね?!」


「今俺もそれ思ったよ!何、やっぱりユキ満更でもないんじゃん!!」



…くそ、自爆した。


『へ?何?どういうこと?』


「いや、ちゃうねん。俺らさっきもな、ルナちゃんと生活し始めてから、ユキが明るうなったって話してん。せやのにコイツ認めんくてなぁ~?」


「いやー、でももう否定できないね!ユキが彼女でもない女の子を名前呼びなんて、ルナちゃんのこと、信頼してる証拠じゃん!」


「ルナちゃん、ユキさんのこと、末永~くよろしくね。」



『え?え?』

どういうこと?と困ったようにキョロキョロするから、

「…いや、ルナは何も悪くないから大丈夫。」


つい頭に手を乗せてなだめてしまう。



「うわー!ユキ頭ぽんぽんなんてどこで覚えたん?!」

「あざといなー!」


「あーもう!いいからお前ら黙れって…」


ヒューヒューなんて冷やかしが入るのは、もう完全に男子校のノリだ。

やっぱりそろそろ帰らせ…


「ルナちゃんお昼まだ?一緒に弁当食おうよ!」

『え!良いんですか?!』



…今 俺は悠二を、本気で殴りたいと思ったよ。



***



『なんか…ユキ君怒ってる?』


俺の隣に座ったルナは、小声でそんなことを尋ねてくる。


…ああ怒ってるさ。

悠二に誘われて喜んじゃって、なんかいつもより楽しそうなのも気に食わないし、メンバーはわかった上で完全に楽しんでるし。


でも、そんなこと。


「…別に。いつも通りだって。」


お前に言えるわけ、ないだろ。


ああ、くそ。

俺、かっこ悪。



「えー、ユキ、BLUEの楽屋じゃいつもこんなだよ?なになに、家ではもっと笑うの??」

俺の弱味を握ろうと必死な隼人さん。


おいルナ、頼むからこれ以上余計なことは…

『なんだかんだで楽しくやってるんですよ。ね?ユキ君……あ!ちょっと!』


「え?」


ルナが形相を変えて俺の腕を取る。

『ユキ君袖!ご飯粒付いてる!!』


「…あ、本当だ、ごめん。」


『朝貸す時に白い服だから気を付けてって言ったじゃん!…まだご飯粒だからいいけどさ~』


「だからごめんって…」



もう~、なんて言うルナから視線を外せば、

「…なにニヤニヤしてんだよ」


「「「「「べっつにー?」」」」」


わはははははっと手や机を叩きながら爆笑するメンバー。


「いやー、本当に一緒に暮らしてんだなぁって思ってね。」

「いいっすねえ!俺も早く結婚してー!」


「いや結婚はしてないし、てか付き合ってもないし」


「あー、ユキが照れてんの初めて見たわ~!こんなん家じゃ絶対デレデレやんな!お前そういうタイプか?!」

「クールなユキのデレデレとか見てみてー!絶対面白いじゃん!」


「あーもう!良いから!ほらルナ、帰って準備!!!」



***



メンバーに一通り笑われたところで、えー?なんて不満そうなルナを無理矢理楽屋に帰した。



「頼むから変なこと言うなよ?この後の収録。」

まだ笑い転げているので釘を刺せば、分かってる、なんて言うものの…こいつら絶対に分かってないな。



「せやけど、俺らが何も言わんでも、絶対司会者につっこまれるで?」


そう、問題はそれだ。

今日だけでなく、ドラマのために今後何本も2人でのプロモーションがある。


バラエティの司会を務める芸人さん達は、絶対に報道について何か言ってくるだろう。


「いつも通りクールにかわせよー?」


別に俺は大丈夫だよ、なんて周りにはこたえるが…正直なところ、自信がないんだ。

さっきだって必死に隠そうとしたのに、やっぱり、目の前にルナがいると普段の調子になってしまう。



元気で明るくて、あまりにも自由だけど、そそっかしくて…何かあったらどうしようって、気が気じゃないんだ。



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