第39話 国王に謁見
悠真はグリと並んで王城へと向かっていた。
ダンジョンから帰ってきて以来、グリを肩に乗せるのが大きさ的にも、重さ的にも難しくなってきたため、横を歩いている。
「グリを観たいだけじゃないと思うんだよなぁ。面倒なことじゃなければいいけど、一体何を言われるんだろうな」
「グルゥ」
大丈夫だよ、と言っている感情が悠真に伝わってくるが、悠真は不安を拭えないでいる。
やがて城門前に設置された跳ね橋を渡り、城門に設置された詰所に到着した悠真は、槍を構えた衛兵に要件を伝える。
「本日のお昼過ぎから、王様に謁見予定の悠真と申します」
「ちょっと待ってくれ……。よし、確認した。おい、ユーマ殿を案内しろ。係りの者が案内しますので、しばらくお待ち下さい」
名簿を確認した衛兵が、後ろで控えていた衛兵に案内を命じた後、速やかに通常業務に戻り、案内してくれる衛兵が悠真の前に進み出た。
「ご案内いたします。こちらへどうぞ」
案内されたのは応接室、豪華な一室だ。奴隷商会も豪華絢爛という印象だったが、この部屋は落着きを演出しながらも、優雅で洗練された印象を受ける。
部屋の雰囲気に呑まれていると、悠真の後ろでドアが開く音が聞こえた。
「ユーマとやら、わざわざすまんな」
メティス国の国王、ルドベキア・カロライナが従者を携えながら、応接室に入室してきた。
「お呼び頂き光栄です。再び王城に足を踏み入れることになるとは、思ってもいませんでした。こちらは手土産になります。先日ご賞味頂いたプリンになります」
「おぉ、先日のデザートか。あれは大変美味しかった。娘が大変気に入ってしまってな。先ほどもまた食べたいと言っておったのじゃ」
手土産を従者が受けると「今日のディナーで出してくれ」と伝えている。ルドベキアも楽しみにしてくれているようだ。
「恐悦至極に存じます」
「公式の場でもないし、そんな堅苦しい話し方は止めじゃ。疲れるじゃろ」
「お気遣い痛み入ります」
「堅苦しい。もっとラフにじゃ」
「かしこまりました」
「ところで先日は公爵家のいざこざに巻き込んですまなかったの。ブレットは同じ公爵家であるユタ家を意識しすぎているきらいがあるが、あれでもできる男でな。釘は刺しているんじゃが、ユタ家の事になると、どうも悪癖が出るようじゃ」
「確かに私から見ても、ユタ家を過剰に意識しすぎではないかと思うところはありましたね」
「そうじゃろ。同じ公爵家同士、ライバル意識を持ってお互いに切磋琢磨してくれるならいいのじゃが、足を引っ張るのは感心できんの」
「しかしですね、お蔭でポテトチップスの開発に至ったので、怪我の功名とも言えるかと。せっかくですので、メティス国の特産にして、盛り上げるのも一興かと存じます」
調理法さえ解れば簡単に作ることができるので、悠真が独占せずに国や街を盛り上げるのに使ってくれと進言することにした。
「あれはお主が開発したのじゃろ。独占はせんのか」
「私と言えば私かもしれませんが、私ではないと言えば私ではなくてですね……」
「なんじゃ、歯切れが悪いのぉ」
流石に俺が開発者ですと言い切るには、本来の開発者に申し訳なく、バツが悪いと感じた悠真は、歯切れが悪い返答をしてしまう。
「私が生み出した謳うと、ユタ家に推薦して頂いたこともあり、世に出た際にブレット様は面白くないでしょう。それがユタ家をさらに意識するきっかけになる恐れも御座います。きっかけはメティス国の公爵家のお2人なので、お2人が生み出したと謳ってはいかがでしょうか」
「そうだのぉ。それが良いかもしれんな。ではお主には、ポテトチップスの販売によって国庫に入金される分の、1割を渡すとしようか」
「え……いやいや、多すぎですよ。というよりお金は要らないので、国の発展に役立ててください。その方が個人的――神様の依頼的――にも助かります」
「それくらいの功績はしとるがのぉ。それなら5分じゃな」
「いえ、本当に国の発展に使って頂いた方がよろしいかと」
「強情じゃのぉ。もうええわい。1分じゃ。これで決定じゃ。異論は認めん」
「……有難う御座います」
お金を貰う方が値切るおかしな構図ではあったが、国庫に入る分の1分――1%――だけで1家族がある程度贅沢しても、余裕で暮らしていける金額である。
「ところで、聞くところによるとお主はグリフォンを従えていると聞くが本当か?」
「はい、グリと名付けて、今日も一緒に来ております。今は中庭で衛兵の人にお世話になっていると思います」
「それなら中庭に見に行こうかの。伝説の魔獣を一度この目で見たいと思っての。危険は無いのじゃろ?」
「はい、危害を加えたり、敵対意識を持っていなければ全く問題御座いません」
「ちょっと娘を中庭に呼んでくれ。わしは今から向かうぞ」
その頃中庭では、グリが10人の衛兵に囲まれながら、毛繕いをして悠真を待っていた。
「小さいとはいえ、伝説の魔獣がここにいると思うと怖いな……」
「明日、娘の誕生日なんだ……」
「敵意は無い。大丈夫だ、大丈夫だ」
ふと、グリが振り向き一声上げた。
「グルゥ!」
「ヒィ!」
「――ッ!」
「終わった……」
囲みの一部、グリが鳴いた方にいた衛兵が腰を抜かし、尻もちをついた者もいれば、水たまりを作った者もいた。
「グリ、お待たせ」
グリが鳴いたのは、悠真が来て嬉しかったからにほかならない。
「ほう、それがグリフォンか。まだ幼体なのか?思ったより小さいな」
「そうですね。でも最近急激に成長してますね」
ルドベキアは怖いもの知らずなのか、それとも悠真の従者ということで安心しきっているのか、平然とグリを撫で始めた。
グリもそれを受け入れるかのように、目を閉じ、気持ちよさそうにしている。
「やはり強いのか?」
「そうですね。多分今だとBかCランクの冒険者程度だと思われます」
そこに、ルドベキアの娘、リリウム・カロライナが従者を引き連れながらトコトコと、心なしか早足で中庭にやってきた。
「おとうしゃま!」
「おお、リリウム来たか」
リリウムは体当たりする勢いでルドベキアの下へと駆け寄ると、ルドベキアはリリウムを抱え上げた。その姿は誰が見ても仲の良い親子にしか見えない。
「ほら、伝説の魔獣グリフォンだよ」
「グリフォン? 噛む?」
「噛まないから撫でてみるかい?」
「うん!」
ルドベキアに抱えられながら、優しくグリを撫でるリリウム。
「フワフワー」
「フワフワだねー」
先ほどまでの威厳を全く感じられないが、逆にリリウムを溺愛していることが良く判る。
しばらくグリと戯れた頃、思い出したかのようにルドベキアが悠真に話しかけてきた。
「そういえば、お主はスコルの街に行ったことはあるか?」
「いえ、まだ行ったことが御座いません。何かあるのでしょうか」
「最近スコルの街付近で魔物が活性化していると聞いての。この王都で消費されている食料の4割近い量を、スコルから仕入れている。このままだとその仕入れも危うくなりそうでの。せっかく繋がった縁じゃから、一度お主に指名依頼を出してみようと思うんじゃが、どうじゃ?」
指名依頼とは、優秀な冒険者に冒険者ギルドを通して、名指しで依頼をすることだ。指名依頼を一度でも成功させれば、それが冒険者としての信用にもなり、報酬も通常よりも多いため、受けるメリットは非常に大きい。
「依頼内容としては、活性化の原因調査ということでよろしいでしょうか? それとも原因の解決になりますか?」
「解決できるなら解決して欲しいが、原因がわからんからのぉ。依頼は調査で出させてもらう。解決できれば報酬は上乗せするぞ」
「かしこまりました。では近日中にスコルに向かわせて頂きます」
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