第16話 リリーのビールレビュー
悠真達3人の目の前には、眼光鋭く貫禄がある男、王都の冒険者ギルドのギルドマスターがずっしりと腕を組みながらテーブル越しに座っている。
「ご苦労さん。フォボスを攻略したって聞いたが、まずはギルドカードをチェックさせてくれ」
そう言って男は悠真達からギルドカードを預かり、後ろに控えている知的で凛とした秘書――ベラに渡す。
「確認してまいります」
そう言ってベラはギルドカードを持ったまま退室した。
「何をしてるんだ? って顔だな。ダンジョンを攻略した場合、ギルドカードを更新すると、どのダンジョンを攻略したのか表示される仕組みになっている。仕組みはよくわかっていないがな」
ギルドカードは様々な用途で利用できるらしく、その仕組みが広まってしまうと悪用される恐れがある。どこからその仕組みが漏洩するかわからないため、ギルマスにすら秘匿にされている。
「ギルドに硬貨を預けることもできるし、他のカードへの入出金にも使える。税金の引き落としや、身分証にもなったりと便利機能が満載だぞ。入市税も払ってないだろ? 冒険者は街の出入りが多いから免除されてるのさ。これからはもっと活用してくれよ」
色々と違う部分はあるのだろうが、デビットカードに身分証が追加したようなカードとしても使えるみたいだ。登録した方がいいと神様に勧められたから登録したが、これからはもう少し活用しようと考えた悠真であった。
「さて、自己紹介を忘れていたが、俺はロエアス。ここでギルドマスターをやってる。俺に用があるときはカウンターで言ってくれ。急ぎの用事が無ければ対応するぞ」
ギルマスの直々の対応とは、これもダンジョン攻略の効果なのだろうか。
「カードの更新に時間がかかってるみたいだし、その間にダンジョンの話を聞かせてもらえるか?」
ダンジョンでどんな種類の魔物が出現したのか、内部はどんな様子だったか、ダンジョンボスがどんな魔物だったかなど話をしていたところ、ベラが戻ってきたのだが、ギルマスの後ろに控え、話が終わるのを待っているようだったので話を続けた。
「……そんな感じで何とか脱出しました」
「なるほどな。真っ白になっていったというのは興味深いな。今まで聞いたことがなかった。ところで確認はどうだった?」
「はい、こちらになります」
そういってベラはギルマスに悠真達のギルドカードを手渡した。
「ほう、Aランクか。フォボスダンジョン攻略と出てるな」
確認が済んだのか、悠真達はギルドカードを返却してもらったが、その内容に驚いていた。
「俺がAランク? Eランクじゃなかったですか?」
「冒険者登録してから更新してなかっただろ。冒険者ランクは純粋にその者の能力や強さを表すランクだ。これまでのクエストの功績とかは関係ない。登録したばかりはEランクだが、その場で更新すれば変わっていたはずだ」
「リリーもEランクからBランクに変わってるニャ!」
「私もCランクからBランクに上がっています」
悠真の後ろでランクアップに2人は顔をほころばせながら喜んでいる。
「んじゃダンジョンの事もあらかた聞いたし、確認も取れた。有難う。時間を取らせてしまってすまなかったな」
「いえ、報告は必要だと思うので大丈夫です。ただ、1つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「何でも聞いてくれてかまわんよ」
ダンジョンを攻略したばかりではあるが、自身の次の目標を設定するためにギルマスに聞いてみた。
「この辺りで攻略禁止になっていないダンジョンはありませんか?」
「ダンジョン攻略して早速次のダンジョン攻略か? もうちょっとゆっくりしたらどうだ?」
「しばらくこの街でゆっくりするつもりですが、次の目標を設定したいと思いまして」
「わかった。近くのダンジョンの情報を調べさせて連絡するよ。それでいいかい?」
「はい、宜しくお願いします」
そう言って悠真はギルマスとの面談を終え、今日は併設されている酒場でビールを飲んでみようと足を運んだ。
悠真がいなくなった部屋でギルマスがベラに言った。
「彼のようなAランクを、少しでもこの街に留めたい。早急に適当な物件をあてがってくれ。その後に近くのダンジョンの情報を小出しにしていく。頼んだぞ」
「承知しました。直ちに物件の選定に入ります」
冒険者ギルドに併設された酒場で悠真達はビールを飲んでいる。
「目標を成し遂げた後のビールは最高だな!」
「先日のビールとは違い、こっちのビールも美味しいですね」
「最高だニャ! 麦の甘い香りがガツンときて、香りを裏切らないしっかりとした麦のコク、そしてスッキリとした喉越しニャ!」
リリーのビールレビューが思いの外しっかりしていて、リリーの新しい一面を発見した悠真。面白くなって違うビールを飲ませてみた。
「こっちのビールはどうだ?」
「頂きますニャ。」
そう言って新しく運ばれてきたビールを口にしたリリー。
「スパイシーな香りとフルーティーな香りがするニャ。飲むと最初に苦く感じたけど、フルーティーな香りが飲んだ後に残って美味しいニャ!」
「「おぉー」」
悠真とセラはリリーのコメントを、酒の摘みにして楽しんでいる。
「よし、それじゃぁ次はこれ」
そういってまた新しく違うビールを注文した悠真。
「他と比べて苦いニャ。でもハーブの香りもするニャ。結構パンチが効いてて、好みが分かれるビールニャ」
リリーのビールコメントを楽しんでいると、悠真の後ろから声がかかる。
「先日は有難うございました。スターライトのルベルです」
以前にフォボスで毒にやられていたパーティーだ。後ろにはナリアとシアも控えている。
「お久しぶりです。その後調子はどうですか?」
そういってスターライトの3人に、テーブルの空いている席に促した。
「お蔭様でまたダンジョンに潜ってます。そしたら悠真さん達がダンジョンを攻略したと聞きまして、お祝いにと思って駆けつけたところです」
「有難うございます。ダンジョン攻略記念ということで、今3人で飲んでたんですよ。今日は私が出しますので気にせずどんどん飲んでください」
「いえ、あの時助けて頂かなかったら、もしかしたら私達はここにいなかった、良くても全員は揃っていなかったかもしれません。今日は先日のお礼とお祝いを兼ねて、私達に出させて下さい」
ルベルがそう言うと、ナリアとシアにも「私達に出させて欲しい」と言われてしまい、今日の会計はスターライトのお世話になることに決めた。
それからずいぶんと盛り上がり、今後の話も話題に上がった。
「フォボスはユーマさん達が攻略されたので、明日からはテュクスに潜る予定です」
「俺達が攻略しちゃったからか」
「稼ぎ自体はテュクスの方があるので気にしないで下さい」
悠真は悪びれた様子で答えるが、新しいダンジョンに興味があり潜っていただけで、稼ぎ自体はテュクスの方があるらしい。
フォボスが攻略されたお蔭で、テュクスに集中できるのでありがたいとも言われた。
「悠真さん達はこれからどうされるのですか?」
「この近くで、攻略禁止にされていないダンジョンの情報を集めてもらってるから、それを見てから次のダンジョンを決める予定だね。それまでは休息かな」
「ダンジョン攻略してすぐに次のダンジョン攻略を考えるなんて、さすが攻略者は違いますね」
まさか「神様からの依頼なので」とは言えず、愛想笑いでごまかした悠真。
その隣ではリリーとナリア、シアがリリーのビールレビューを楽しんでいる。
「すごーい。リリーちゃんのレビュー聞いてから飲むと、本当にそう感じる! シアも飲んでみたら?」
「私はビール好きじゃないのでいらないです。苦いだけで美味しくないです」
「それならこれはどうかニャ? フレーバービールって言うニャ。果物とかハーブのような風味で、苦味を抑えて甘めになってて、リンゴとかゆず、バナナとか色々あるニャ」
そう言ってリリーは他のビールをシアに勧めると、しぶしぶといった感じでシアは受け取った。
「一口だけ……」
そう言ってシアは飲んでみると、今まで苦いだけで美味しいとは思わなかったビールが不思議と美味しく感じた。
「あ……これ美味しい。このビールなら私も飲める!」
「ビールのことならリリーに任せるニャ!」
シアは自分好みのビールを見つけ、飲みやすいこともありガブガブと飲み始めたが、翌日は酷い二日酔いで苦しむシアの姿が目に浮かぶ。
その隣ではセラがテーブルに突っ伏して寝ている。その姿をみたリリーがボソッと呟いた。
「セラ、ありがとうニャ」
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