第15話 リリーの涙
29階層へ挑むこと数回、悠真達は30階層への階段を見つけられず、やむなく途中で帰還していた。これまでの階層と違い、29階層はやたら広く、そして魔物も強くなっていた。ダンジョンがこれ以上は進ませまいと抵抗しているかのようだ。
そんな抵抗に屈することもなく進む悠真達は、ついに30階層への階段を見つけた。
「やっと見つけたな、30階層への階段」
「この階層は広すぎるニャ」
やっと見つけた30階層への階段に安堵しながらも、これだけ見つからなかった階段だけに、30階層には何かあるんじゃないかと勘繰ってしまう。
「30階層から下は少し気を付けて進もうか。準備はいいか?」
「大丈夫ですご主人様」
「いつでも大丈夫ニャ」
3人は慎重に30階層への階段を下りていく。
警戒しながら下りてきた30階層だが、下りてきた階段から通路が真っ直ぐ延びており、その先には悠真の身長の3倍近い大きさの扉があった。
「この先ってもしかしてダンジョンボスってやつか?」
「そうかもしれません。扉の先から禍々しい雰囲気を感じます」
「頑張るニャ!」
改めて気合を入れた3人が扉を押し開けると、悠真の身長の3倍はあると思われるミノタウロスと、ゴブリンメイジが2体、悠真達を待ち構えていた。
「――まずい!」
気が付くと既にゴブリンメイジはフレイムーボールを放っており、もう目の前まで迫っている。悠真は回避を諦め、耐える選択肢を取るも、セラが悠真を突き飛ばし、代わりに被弾した。
「キャァ!」
「セラ!」
「ゴブリンメイジは任せるニャ!」
悠真はセラの下へ素早く駆け寄りハイヒールを唱えるも、ミノタウロスがドスドスと音を立てながら向かって来ていた。
「有難う御座います、リリーと一緒にゴブリンメイジを担当します」
「わかった、頼んだぞ!」
そう言った悠真は単身でミノタウロスに相まみえた。
ミノタウロスの武器はとてつもなく大きな斧だ。斧に最大の注意を払い、攻撃を仕掛けていく。
「フレイムアロー!」
ミノタウロスの顔面に向かって唱え、視界を遮り、斧を持つ利き手に攻撃を仕掛ける。攻撃は当たるもののまだキズは浅い。どう攻撃しようかと思慮していると――。
「ご主人様ごめんニャ! メイジがそっちに行ったニャ!」
そう聞こえたかと思ったら、後ろからフレイムボールをまともに食らってしまった。
「グハッ!」
一瞬だがミノタウロスに隙を見せてしまった悠真。ミノタウロスはそこに真上から斧を振り下ろす――。
「やられるかよ!」
身体能力Sのお蔭か、紙一重で避けることができた。が、反対側から拳で殴られ、吹っ飛んだ。
吹っ飛ばされた時に危うく意識を持って行かれそうになったが、なんとか耐え、ハイヒールを自身に使ったことで、ダメージを回復することに成功した。
「きっついな。もっと俺に経験があればスキルのお蔭で余裕なんだろうけどな」
そう言いつつも、この戦闘を存分に楽しんでいるかのように、その表情には笑顔が浮かんでいた。
「ご主人様ごめんニャ。 でもおかげでメイジは1体討伐できたニャ」
「俺の方はいいから、セラを助けてやってくれ」
「わかったニャ。 セラ、助太刀するニャ!」
リリーはセラの方に向かい、悠真は再びミノタウロスに相まみえた。
「フレイムピラー!」
連続でフレイムピラーを使い、壁際にミノタウロスを追いつめながら、悠真は足元を狙い動きを止める作戦に出た。
「ブモォー!」
足元への攻撃が有効打になっているのか、どんどん動きが鈍くなってきている。
「お待たせしましたご主人様」
「お待たせニャ」
そこへセラとリリーがゴブリンメイジを討伐して合流した。特にゴブリンメイジ相手にダメージを負った様子はない。
「よし、動きが鈍くなってきているから一気に止めを刺すぞ」
そう言った悠真はフレイムピラーで翻弄しつつ攻撃を繰り出し、セラも悠真の反対側から剣で切り付け、リリーはフレイムアローで遠距離から攻撃している。
そうして戦っていると、セラの攻撃がミノタウロスの右足にクリーンヒットし、バランスを崩してうつ伏せに倒れた。
悠真はミノタウロスの背中を駆け上がり、胸の辺りに真上から剣を突き下ろす。
「ブモォォォ!」
断末魔とも言える一鳴きをした後、ドロップアイテムを残してミノタウロスが消え去った。
「きつかったぁ」
「お疲れ様でしたご主人様」
「みんなお疲れ様ニャー」
ダンジョンボスの討伐が終わり、ドロップアイテムを回収した3人は、入口とは反対に設置されている扉に、疲労困憊といった様子で歩き始めた。
「あの扉の先かな、31階層への階段は」
「そうだと思われます」
「31階層で転移石を見つけたらもう今日は帰ろうか。今のミノタウロス戦で疲れ果てたし、3人でビールを飲みたい気分だよ」
「そうですね。ミノタウロス討伐をビールでお祝い――」
「セラは2杯までね」
「な、なぜです……よね。……はい」
ビールをまた飲ませて頂ける! と喜んだのもつかの間、前回の失態を思い出したセラは素直に応じた。
「奴隷なのにビール飲んでいいのかニャ?」
「誰かみたいに飲み過ぎなければね」
悠真の視線がセラに向かっていることに気付いたリリー。
「誰ニャ? セラかニャ? それより早く帰るニャ!」
リリーの足取りが軽くなった代わりに、セラの気分が落ち込んでいる。そんな状況ではあったが、悠真は扉を……開けた。
扉の先にあったのは31階層への階段ではなく、ビッシリと幾何学模様が描かれ、光っている台座と、その上で浮いている黒い球体であった。
「……もしかして、ダンジョンコア?」
「私も初めてみました」
「ビール、ビー……ル……?」
扉を開けたまま無言の時が流れるが、リリーが発した言葉で、再び時は動き出す。
「ダンジョンコアニャ! リリー達はダンジョン攻略者ニャ!」
「そ、そうですよ! ご主人様の目標達成ですよ!」
「っしゃー!」
両手を高々と掲げ、全身で喜びを表している。
「おめでとう御座いますご主人様」
「おめでとうニャ」
「まずはダンジョン1つ攻略だな! よし、早速壊すか!」
悠真は大きく振りかぶり、ダンジョンコアを一気に唐竹割りにした。
すると台座は光を失い、ダンジョンコアは消滅し、ダンジョン全体が揺れ始めた。
「な、なんだ?」
「脱出しましょう!」
「逃げるニャ!」
30階層に転移の魔法陣が無かったため、29階層へと進むが、29階層が広すぎてなかなか転移の魔法陣まで辿り着かない。
必死で悠真達は走るが、リリーの走る速度が目に見えて遅くなり出した。
「もう……走れないニャ……。ご主人様……ここで……バイバイニャ」
ゼーゼーと息をしながら脱出を諦めようとしているリリーに向かって、悠真が口を開く前に、セラが激怒する。
「何を言ってるんですか! 走り続けなさい! 貴方が止まるなら、私も一緒に止まりますよ!」
「セラ……ごめんニャ」
「私の背中に乗りなさい! 早く!」
リリーに背中を差し出すセラだが、悠真がそれを止める。
「セラももう限界だろ! リリー、俺の背中に乗れ!」
「ご主人様、有難うニャ」
リリーが悠真の背中に飛び乗ると、悠真はリリーがこっそりと泣いていることに気が付くが、そっとしておいた。
「セラ、有難うな」
「リリーは仲間で、妹みたいな子ですから」
そのまま走り続けていると霧が発生したかのようにどんどんと視界が白く霞んできた。転移の魔法陣に到着したときには濃霧が発生したように真っ白な状態になっており、さらに濃くなっていくのを3人は感じた。
「ご主人様! 転移石をお願いします!」
悠真は素早く転移石をかざし、出口最寄の転移の魔法陣へと転移、その後ダンジョンから脱出した。
悠真達がダンジョンから脱出した数瞬後、ダンジョンが消滅した……。
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