第14話 セラとな・か・よ・くお話し
宿に戻ってきた3人は、3人部屋に変更しようとするが、現在満室らしい。空きが出たら教えてくれるというが、それまで3人は同じ部屋になったため、セラとリリーは同じベッドで寝ることになった。
「さて、仲間になったということで、少しだけ秘密を共有しようと思う。」
悠真はボフッっと勢いよくベッドの上に座り、セラとリリーはテーブルに座り、真剣な表情をしている。
「セラはもう既に知っていることだが、今から話すことは完全に秘匿すること。これは厳守して欲しい」
「承知しました」
「かしこまりましたニャー」
そう言って悠真は、地球人であることを伏せたまま、鑑定Sのこと、エディットのことを2人に伝えるが、リリーはあまり信用していない様子だ。
「ご主人様を信じてはいるけど、そんなスキルを聞いたことが無いニャ」
「リリー、何を言っているのですか! ご主人様がおっしゃることは全て正しいんです! 火が冷たいとおっしゃれば冷たいんです!」
「そこまで盲信するのも、ちょっとどうかと思うけど……」
苦笑いを浮かべながら悠真は答えるが、セラはいたって真面目な表情だ。
「ただ聞いたことが無いって言っただけニャ」
セラに怒られたからか、リリーはうなだれてしまった。
「そんな落ち込まなくていいから。とりあえず久しぶりに全員を鑑定してみようか」
斉藤悠真(18)
身体能力S
魔力S
スキル
エディット
鑑定S
戦闘の心得S
魔法の心得S
生活魔法
気配察知D
隠密D
精神耐性D
セラ(19)
身体能力C
魔力E
スキル
剣術S
解体D
生活魔法
リリー(17)
身体能力D
魔力C
スキル
杖術E
火魔法C
治療魔法D
生活魔法
「ん? いつの間にか俺に新しく適正Dのスキルが3つ増えているけど、簡単にスキルって習得できるの?」
「本来はかなりの修練が必要かと存じます。ご主人様は、ご主人様――神様――だから容易に習得できたのではないかと愚行いたします」
「俺が俺だから? そういえばスキルを習得しやすいと言ってたかも……本来は難しいのか」
腕を組み眉間に皺を寄せて何かを考えている悠真だが、新たに習得していることは良いことなので、あまり難しく考えずに、ありがたく活用させてもらうことにした。
「さて、リリーのスキルだけど、火魔法がCだね。これを引き上げちゃおうか」
「さすがご主人様です。今までいなかった後衛職を任せるんですね。リリー頑張りなさい」
「火魔法は得意ニャ。誰にも負けないニャ!」
そう言って椅子の上に飛び乗りガッツポーズをとったリリーだが、セラに突き落とされた。
「ご主人様の前ではしたない! そんなことは止めなさい!」
「痛いニャ!」
「ご主人様申し訳御座いません。後ほどリリーとゆっくりとお話しさせて頂きます」
「ははは……これからもこの3人で行動するんだし、仲良くしてくれよ」
(リリーを従者として相応しい行動がとれるように、な・か・よ・くお話しですね!)
「はい、仲良くお話しさせて頂きます」
(2人で喧嘩なんてしないでくれよ……)
「さて、リリーこっちにきてくれ。火魔法の適正を引き上げるよ」
リリーの頭に手を乗せた悠真は、火魔法Cにエディットを使用し、火魔法Sへと変更し、意識を失った。
どれくらい経っただろうか、既に日は上り、宿の外はいつも通りの喧騒に包まれていた。ふとベッドの下を見ると五体投地でリリーが挨拶してきた。
「ご主人様、おはよう御座いますニャ。本日もご主人様のお蔭で良い天気ですニャ」
「え?」
目を覚ましてみるとリリーの様子が昨日とは一転していた。
(エディットの代償がまさかリリーに発現したのか!?)
と慌てる悠真だが、セラが3人分の朝食を持って部屋に戻ってきたところで、そうではないと認識した。
「リリー!」
慌てて朝食をテーブルの上に置いたセラは、足早にリリーを連れて部屋の隅へと移動し、ボソボソと2人で話を始めた。
「ご主人様は私達が気付いていることを知りません。そんな事をしているとご主人様が勘付いてしまうので止めて下さい」
「そうだったのかニャ。すまんニャ」
そうリリーが言うと、昨日までのリリーのように陽気に悠真に話しかけてきた。
「今のは気にしないでくれニャ。おはようニャ」
「おはよう御座いますご主人様、お目覚めになられてからと思い、朝食を頂いて参りました」
「あ、ありがとう。さっきのリリーは何だったんだ?」
「申し訳御座いません。お気になさらぬようお願いいたします」
「ごめんニャ。ご主人様にはそうした方が相応しいと思ったニャ」
「リリー!」
リリーを鋭い目線で睨むセラが怖い。
「ごめんニャ。セラが怖いニャ」
悠真の後ろにリリーは涙目になりながら隠れ、助けを求めている。
「ま、まぁいいから朝食食べようか。今日もダンジョンに挑戦するからね」
(リリーがセラに怯えてるけど、仲良く話したんだよな……?)
そう思いながらも3人は朝食を食べ、ポーションなどを補充してからダンジョンへと潜っていった。
今日も順調にダンジョンを進み、現在は28階層にいた。この階層からチラホラと悠真の2倍ほどの大きさがあるミノタウロスが出現し始め、攻略が難しくなってきている。
「セラ、左側から腕を狙ってくれ! リリーはフレイムボールで対応、俺は正面を受け持つ」
「承知しました」
「わかったニャ」
そう指示を出した悠真はミノタウロスが振りかぶった斧を避け、体勢を崩しながらも切りかかる。
「ブモォー!」
残念ながら悠真の攻撃は躱されてしまったが、腕を狙ったセラの攻撃がクリーンヒットし、腕を切り落とした。
「フレイムボールニャ!」
ミノタウロスの顔を狙ったフレイムボールが視界を奪う。利き腕を失い、視界も奪われたミノタウロスに悠真は袈裟切りで止めを刺した。
「お疲れさん。さすがにこの階層までくると魔物が強くなってくるね」
「そうですね。油断はできません」
「お疲れ様ニャ」
ドロップを拾った悠真達は、休憩しようと壁にもたれかかり、マジックバッグからサンドイッチを取り出してセラとリリーに手渡した。
「ちょっと休憩してから進もうか。そろそろ29階層への階段が見えてきてもいいと思うんだけどね」
「有難うございます。そうですね、そろそろ階段があっても良いかと存じます」
「階段の反対側に進んでるかもしれないニャ」
士気を下げかねない発言をしたリリーを、セラは厳しい目で睨むが、リリーはサンドイッチに夢中になっていて気付かない。
「ポーションとか残りは大丈夫? 減ってるなら今のうちに補充しとこうか」
「私はほとんど使っておりませんので大丈夫です」
「ブルーポーションを少しだけ使ったけど、まだまだ大丈夫ニャ」
魔力の回復に1、2本使用したくらいでほとんど減っていないらしい。
「それなら29階層への階段目指して進もうか」
自分の両頬を軽く叩くことで気合を入れ直した悠真は、29階層への階段を目指して進んだ。
しかしながらその日は29階層への階段を見つけられず、残念ながら宿へと戻ることとなった。
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