第13話 リリーとの契約

 討伐を終えた悠真は、ドロップアイテムを回収し、3人は一息ついていた。お互いに自己紹介をすると、囮になっていた奴隷――リリーは主に火魔法を使い、キュアまでならば治癒魔法も使えるとのことだ。先ほどの状況になった経緯を聞くと、ユニークモンスターを一目見ようと15階層に来たところ、予想以上に強く、逃げようとしても回り込まれてしまったため、奴隷であるリリーが囮として残らされ、その隙に逃げ出したとのことだった。


 「おかげで死なずに済んだニャ。どうも有難うニャ」

 「俺もそのパーティーとほぼ同じ様な目的で15階層に来たからなぁ」 


 頭を掻きながら、バツが悪そうに悠真が答える。


 「あ、でもセラを囮にするようなことはしないぞ」

 「私がご主人様のタメに囮になれるならば光栄です。いつでも大丈夫です」

 「真剣な顔で言われてもそんな事は絶対にしないから」

 「ご主人様神様のためであれば本望なんですが……」

 「ところでユーマは何者ニャ? フレイムピラーを使ったり、凄い治癒魔法を使ったりして、魔法使いかと思えば剣も扱ってるニャ。そんな人見たこと無いニャ」


 セラはその発言を聞いて自慢げに胸を張っているが、悠真はこのままスルーしてくれればいいなぁと思っていたが、そうはいかないらしい。


 「詳細は秘密だが、普通の冒険者だよ。あまり聞かないでくれると助かる」

 「そうかニャ。残念だけど聞かないニャ。恩人を困らせることはしないニャ」

 「さて、リリーを先ほどの冒険者パーティーの下へ送って行くついでに、俺らも今日は出ようか」


 そう言って15階層の転移の魔法陣に向かって歩き出す。その道中で装備品が大量に転がっているところに出くわした。セラによると、ダンジョン内で冒険者が全滅した場合、死体は再利用のためかダンジョンに回収されるが、装備品はされないらしい。そのためこのように装備品が残っているとのことだ。

 冒険者ギルドへ報告しようと装備品を拾っているとギルドカードを4枚発見した。


 「ご主人様のパーティーニャ……」


 ギルドカードを拾ったリリーが、寂しそうな表情で言った。


 「そっか。とりあえず一旦ダンジョンから出ようか」


 囮として置き去りにされたとはいえ思うところがあるのか、リリーはどこか寂しそうな表情のままダンジョンから街へと帰還した。




 悠真達3人はそのまま冒険者ギルドへ向かい、ダンジョン内でギルドカードを発見したことを冒険者ギルドに伝え、カードを手渡した。


 「ところで主人がいなくなってしまったリリーはどうなりますか?」


 そう悠真が尋ねると、主人がいなくなった奴隷の所有権は第一発見者にあるらしく、今回のケースだと悠真に所有権があるらしい。ただし、奴隷商会で主人の登録を変更しなければならないらしい。登録を変更しない場合は、一定期間をもって鉱山奴隷となってしまうため、早めに登録を勧められた。

 リリーの件も重要だが、収入も重要だ。悠真達は買い取りカウンターへと向かい、今回のドロップアイテムを手渡した。


 「レッドウルフの牙が多いな。群れにでも遭遇したか?」


 そんな会話をしながら査定を見守っていたところ……。


 「ちょっ、ちょっと待て! お前もしかして15階層に出たっていうユニークを討伐したのか!?」


 ユニークモンスターの討伐アイテムを発見したらしく、張り上げた声は冒険者ギルド内に響いた。


 「ええ、ギリギリでしたけどなんとか3人で討伐できました」

 「この牙を見る限りレッドウルフの3倍近い大きさじゃねぇか! おまえよく生きて帰ってきたな!」


 その声を聞いて、一瞬静まり返ったギルド内が再びざわついた。


 「レッドウルフの3倍近い大きさって一体どれくらい強いんだよ……」

 「そんなのが15階層にいたのかよ」

 「行かなくてよかった……」

 「あいつ誰だよ」


 悠真はいたたまれなくなり、報酬を受け取った後、直ぐに冒険者ギルドを後にした。




 冒険者ギルドを出た後、悠真達はリリーの主人の登録変更をするために奴隷商会へとやってきた。チターニアでは初めての奴隷商会だが、さすがに王都に構えているだけあってテミストとは規模が違う。

 恐る恐るながらも悠真は中へ入ると、メイドの恰好をした複数の女性が出迎えてくれ、その内の1人が話しかけてきた。


 「いらっしゃいませご主人様。本日はどのようなご用件でしょうか」

 「え、えっと、この子の主人の登録を変更したいんだけど、できるかな?」


 商会の中も煌びやかで、雰囲気に気圧されてしまった悠真。


 「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 応接間へ通される悠真達だが、その応接間もまた豪華絢爛とした内装であった。


 「お待たせしました。本日は当奴隷商会にお越しいただきまして、誠に有難う御座います。私はマネージャーのアニュラスと申します。どうぞお見知りおきを」


 このアニュラスという人物、見た目は細く、好青年でありながらも、この奴隷商会がここまで大きくなった一因を担っていると思わせるだけの威厳を感じられる。


 「よろしくお願いします。今日はこの子の主人の変更をしたいんですけど、あ、これが前の主人が亡くなったという、冒険者ギルドからの証明書です」

 「有難う御座います。拝見させて頂きます」


 そういって証明書を確認するアニュラス。内容を確認した後、魔力を通わせて本物であることを確認した。


 「確認が取れました。こちらのリリーさんの主人登録を、バリー様からユーマ様に変更ということでよろしかったでしょうか?」


 バリーという名前に聞き覚えが無かったのでリリーに確認を取る。


 「前のご主人様はバリー様だったニャ」

 「ええ、それでお願いします」

 「かしこまりました。主人の登録変更には金貨1枚となりますがよろしいでしょうか」


 悠真はマジックバッグから金貨1枚取り出し、テーブルに置いた。


 「有難う御座います。それではユーマ様とリリー様はこちらに来て頂けますか?」


 アニュラスはそう言うと、ソファーから立ち上がり、テーブルの横へと移動し、従者から黒色の水晶を受け取り魔力を通わせた。


 「それではまずリリー様の前主人の解除を行います。リリー様はこの水晶にお手を乗せて下さい」


 リリーが水晶の上に手を乗せると黒い水晶がほのかに光った。


 「有難う御座います。次にユーマ様を奴隷の主人として設定いたします。恐れ入りますがお手を水晶に乗せて頂きますようお願いします」


 ユーマが手を乗せると先ほどとは違う感じで淡く光った。


 「続きましてリリー様、再度お手を乗せて下さい」


 先ほどと同じく黒い水晶がほのかに光った。


 「それでは最後にこの契約の証人として、私が手を乗せます」


 すると水晶が淡く光り、主人の変更が終了した。


 「これにて主人の変更は終了しました。これよりリリー様の主人はユーマ様となります」

 「有難う御座います。リリーこれからよろしくな」

 「承知したニャ。頑張るニャ」

 「他に何かご質問など御座いますか? もしお時間があるようでしたら、当奴隷商会の奴隷をご紹介させて頂けないでしょうか」


 すかさず営業を入れてくるアニュラスだが、今はこれ以上奴隷を増やすつもりがないため遠慮し、奴隷商会を後にする。


 「今後ともご贔屓によろしくお願いします。有難う御座いました」

 「「「有難う御座いました」」」

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