第12話 卑劣な命令
「昨晩は申し訳御座いませんでした」
二日酔いで頭はガンガンするし、吐き気もある。なぜ昨晩あれほど飲んだのか自分自身でも理解できないまま、寝起きの悠真に最敬礼で謝罪している。
「おはよう。まぁ久しぶりに飲んだんだろうし、楽しめたなら良かったんじゃないかな。次からは飲みすぎにだけは気を付けてね。キュア」
そう言うと悠真は治療魔法でセラの二日酔いを解消した。
(ああ神よ、あなたは何故そんなにお優しいのですか……)
悠真の背後に雲の切れ目から朝日がタイミング良く差し込み、セラには後光がかって見えていたこともあり、セラの信仰はより深まったことであろう。
今日もしっかりと朝食を取ってから、ダンジョンの入口へと向かっている。
「ご主人様、今日はダンジョンに入ってから、すぐ横の部屋に設置されている転移の魔法陣に向かいます。そこで昨日のドロップにあった転移石をかざすと、転移石を拾った階層まで転移できますので、1階から攻略する必要は御座いません」
「了解。でもそれって不思議だね。まるでダンジョンを攻略してくれって言ってるような感じだし……」
(あっ、もしかしてこれが神様がしてくれているサポートの一つなのかな?)
そう悠真は考えたが、口にするのは控えた。セラに聞かれると面倒なことになりそうだ。
ダンジョンの入口で、昨日と同じく入場前にギルドカードを提示して、ダンジョンへ入る。1階にある転移の魔法陣付近では、様々な冒険者達が情報交換をしていた。
「15階層にユニークが出たらしいぞ」
「俺は17階層だからいいけど、他のやつらはご愁傷様」
「16階層の転移石余ってない? 15階層パスしたいんだけど」
ふとそんな話が聞こえてくる。
「ユニークってなんだ?」
「はい、ユニークは特殊個体とも言われているんですが、同じ種類の魔物でも数倍強くなっております。他にはないスキルを持っている場合もあって、討伐は同種と比べてかなり困難と言われております。できれば私たちも15階層には行かないか、遭遇したら逃げた方が得策かと存じます」
「そっか。とりあえずどれくらい強いのか見てみたいかな」
「承知しました」
悠真達は転移石を使い、昨日の9階層へと向かった。
現在14階層まで進み、15階層への階段を目前にレッドウルフの群れとの戦闘しているが、2対7で状況的にはかなり不利だ。
「ガァァァッ!」
レッドウルフがセラの左腕に噛みついたが、セラはそのレッドウルフを切り伏せる。
「セラ大丈夫か!」
「すみません、左腕をやられました!」
「わかった。今そっちに行く!」
身体能力S、戦闘の心得Sであっても、経験不足もあってか、本来のSランクの動きはまだできていない。レッドウルフの群れに苦戦していたが、なんとかセラの下へとたどり着く。
「ハイヒール」
初めてセラにハイヒールを使ったときは酷かった。戦闘終了後に五体投地でまた崇められそうになった。
「お手数をかけて申し訳御座いません」
「そんなことはいい。後方の2体は任せたぞ」
そう言って悠真は前方にいる3体とボスであろう1体に対峙した。
ボスであろう1体が吠えると、2体が時間差で悠真に向かって飛びかかってくる。1体目をかわし、2体目に一撃入れる悠真。それを狙っていた3体目が悠真に飛びかかる。
――まずい!
と思うが、咄嗟に無意識のまま火魔法のフレイムアローを発動、3体目を討伐する。
セラは悠真が使用した火魔法に驚きながらも、2体のレッドウルフに負けじと戦いを挑む。
悠真は自分が魔法を使えることを今まで失念したいたらしく、無意識に発動したフレイムアローに驚いていた。
「そういえば治癒魔法以外も使えたんだったな。治癒魔法しか頭になかった」
悠真が治癒魔法以外も使えることを認識してからは、戦闘が一変した。
土魔法のストーンマシンガンで群れのボスを含む前方の3体に攻撃を仕掛け、避けたところを襲い掛かりボス以外の2体を討伐。悠真と群れのボスが1対1となり、そのまま接近し首を刎ね討伐完了だ。
丁度同じ頃、セラも後方の2体を討伐していた。
ユニークが出たという15階層への階段を前に休憩をしている。
「すまん、治癒魔法以外にも魔法が使えることを失念していた」
「そんな謝って頂かなくても、私は大丈夫です。それよりも治癒魔法以外にも使えるなんて、さすがご主人様としか言えません」
(さすが神!神様ですよ!あれだけ凄い治癒魔法だけじゃなく他にも使えるなんて素晴らしい! しかも失念していたなんて冒険者としてあるまじき行為。しかしながらそこに御心を感じます!)
セラは表情や態度には出さないものの、心の中では興奮しっぱなしである。
「そろそろ15階層に行ってみようと思うんだけどどうかな?」
「私はいつでも大丈夫です。全てはご主人様の思し召しのままに」
15階層に来てみると14階層とは打って変わって魔物がいない。ユニークが出現した影響だろうか。特に戦闘もなく順調に進んでいると、前方から必死の形相で逃げてくるパーティーがいた。
「逃げろ! この先にユニークが出たぞ!」
「逃げて! 早く!」
4人はそう言いながら15階層の転移の魔法陣へと逃げて行く。悠真達はユニークモンスターに足止めされてはダンジョンの攻略ができないため、可能であれば討伐、悪くても逃げることを念頭に置いたまま、見物しようと先ほどのパーティーが来た方向へと進んだ。
少し進んだところで戦闘の音が聞こえてきた。悠真達は足早に進むと猫の獣人の女の子がユニークモンスターと戦闘していた。
「私が囮になっている隙にあなた達も早く逃げてニャ! 私はもう耐えられないニャ!」
どこか諦めを感じ取れる声で女の子がそう言った。
「加勢する! セラ、助けるぞ!」
「承知しました!」
そう悠真が言うと、2人は飛び出しユニークモンスターに対峙する。ユニークモンスターは先ほど戦ったレッドウルフよりも3倍近く大きく、角が生えていた。
「後ろで控えててくれ、俺達で対応する!」
「ダメニャ! 逃げるための時間稼ぎをしろと命令されてるニャ!」
先ほどのパーティーにいた冒険者の奴隷らしく、パーティーが逃げるための時間稼ぎを命令されたらしい。その命令に逆らえなく、ここでユニークモンスターと戦闘を行っているらしい。
「それなら討伐するぞ! セラ、背後に行けるか!?」
「承知しました」
悠真が切りかかり、セラが背後へ行くための隙を作ろうとする。しかしながらここで誤算が生じる。
「なっ、魔法だと!」
セラが背後に回るのを阻止するかのようにユニークモンスターがフレイムボールを使用したのだ。
「キャッ」
セラはギリギリのところでフレイムボールを避けるが、体制を崩してしまった。その隙を見逃すユニークモンスターではなかった。
「ガァァ!」
ユニークモンスターの角がセラの腹を突き刺し、そのまま壁に投げつけられた。
「――ガハッ!」
「セラッ!」
悠真はセラに駆け寄りレッドポーションを使用するが、出血が多すぎる。ポーションでは全く回復が追いつかない。
「ご主人様、私のことはいいので、あの魔物をお願いします」
「いいわけあるか! 黙ってろ!」
見知らぬ猫の獣人がいたため、治癒魔法を使用することを一瞬でも躊躇した自分に激怒した悠真。もうばれても構わないといった決意とともにフルヒールを唱える。すると強烈な光と共に先ほどのキズが嘘のように回復した。
「そこで休んでろ!」
そう言った悠真はユニークモンスターへと駆け出す。猫の獣人も魔力が切れてきたのか額には大粒の汗がにじんでいる。
「これを飲め!」
そう言って猫の獣人にブルーポーションを投げ渡した悠真は、火魔法のフレイムピラーを連続で唱えることでユニークモンスターの周囲に炎の柱を複数本作り、前方の1点を除いた周囲を炎の柱で埋めた。
「フレイムピラー……。あの人は一体何者ニャ……」
フレイムピラーを使用できる火魔法の使い手はごくわずかだ。しかも先ほど正体不明の治癒魔法まで使用した。そんな男をみた猫の獣人は、この場で何が起こっているのか把握しきれないでいた。
周囲を炎の柱で囲まれ焦ったのか、ユニークモンスターは闇雲に悠真に向かって牙を剥き襲い掛かってきた。冷静さを失ってしまうとその対処はしやすい。悠真はユニークモンスターの攻撃を避け、ダメージを与える。するとそのダメージによってさらに焦ったのか、さらに悠真に襲い掛かるが、悠真は冷静に対処し、ユニークモンスターを討伐した。
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