第3章 開業

第17話 家と土地とルビア

 ダンジョンを攻略した翌朝、悠真は真っ白でソファーが2脚、テーブルが1台だけある部屋――アマルテアに転移する前にいた部屋に戻ってきていた。

 なぜこの場所に戻ってきたのかわからない悠真が、ソファーに座り不安げに一人佇んでいると、目の前に立派な顎鬚をしたエリア担当神のシードが音もなく顕現した。


 「悠真とやら、ダンジョン攻略おめでとう。まさかこんなに早く攻略してくれるとは思わなんだぞ」

 「お久しぶりです。なんとかやれるだけの事をやってみたんですが、俺がここにいるって事は、何かダメだったんでしょうか?」

 「ほっほっほ、ダンジョン攻略した報酬をと思って呼んだんじゃ。心配するでない。毎回報酬を出すことはできないんじゃが、今回は初攻略だしの。一度スキルを確認するといい」


 悠真は自身に鑑定のスキルを使用してみると、新たに耐性スキルを2つ獲得していることに気が付いた。


 斉藤悠真(18)

 ギルドカードA

  身体能力S

  魔力S

 スキル

  エディットver.2

  鑑定S

  戦闘の心得S

  魔法の心得S

  生活魔法

  気配察知D

  隠密D

  精神耐性D

  物理耐性E

  魔法耐性E


 「物理耐性と魔法耐性ですか?」

 「いや、それは以前に魔法や物理攻撃を受けたときに獲得したんじゃろう。わしがしたのはエディットのバージョンを上げたんじゃ」


 今まではスキルを使用すると代償が発生していたが、ver.2では1日1回だが代償なしで使用することができるらしい。乱用するとバランスが崩れる可能性があるスキルのため、スキル自体に枷を付けていたらしく、その枷を少し外すみたいだ。


 「ところで、良い仲間に出会えたみたいでよかったの」

 「ええ、もう一度信じてみようと思える仲間です」

 「無理せずに、魔物の討伐とダンジョン攻略を自分のペースで進めてくれれば良いからの」

 「わかりました。色々と相談しながらやってみます」

 「うむ。それじゃぁ、頼んだぞ」


 悠真の視界が暗く、そして狭くなり、気が付くとベッドに横たわっていた。




 目覚めた後、早速物理耐性をSに上げた悠真は、特にする事もなく時間を持て余していたため、クエストでも受けようと悠真達は冒険者ギルドに来ていた。


 「Aランクになったのに、クエスト受けるのは初めてだな」

 「そうですね。でもギルドランクは貢献度は全く関係なく、実力が現れるらしいので、稀にそういう方もいるみたいですよ」


 どのクエストを受けようか3人で相談をしていると、悠真の背後からギルマスの秘書――ベラが声を掛けてきた。


 「こんにちは悠真様。少しだけお時間を頂戴できないでしょうか」

 「こんにちは。大丈夫ですよ」


 ベラの後を付いていくと、昨日とは違う部屋へと案内されソファーに座るよう促される。


 「どうしましたか? 何かフォボスダンジョンの件で報告漏れでもありましたか?」

 「報告の件は、問題御座いません。今回のダンジョン攻略のお祝いとして、家と土地を冒険者ギルドから贈呈させて頂こうと思いまして、お声を掛けさせて頂きました」

 「家と土地ですか。頂いてもダンジョンに潜ってしまいますし、他の街に行くこともありますから、今回は遠慮――」

 「宿に毎回お泊りになることを考えますと、家と土地の管理費、維持費の方がコスト的にも負担は軽くなります。また、王都は他の街への交通の便も良いので、良質な装備も揃いますし、移動にも便利かと存じます。延いては、この王都に拠点を構えることがダンジョン攻略にも良い影響が出てくるかと存じます」

 「そ、そうですね……」


 ベラの押しが強く、たじろいでしまったところ、さらに追い打ちをかけてくる。


 「王都の土地の価格は年々上がっております。それに合わせて家の価格も上がっており、王都で拠点を構えようと考える冒険者の中でも、実際に拠点を構えられるのはほんの一握りなのが現状です。そんな現状ではありますが、ぜひ悠真様にはこの王都に拠点を構えて頂き、ダンジョン攻略の一助として頂ければと思うギルドからの贈り物、そしてダンジョン攻略のご祝儀と思って頂ければ幸いです」

 「しかしですね、そんな状況であれば、実際に拠点を構えようとしている人に購入して貰う方が――」

 「今回お受け取り頂けない場合、受領されなかったという前例が残ることになり、次にダンジョン攻略された方へのご祝儀の贈呈が出来なくなる恐れが御座います。特に問題が御座いません場合、受領して頂けると幸いです」

 「……わかりました。頂戴します」


 ベラの押しに負けて家と土地を貰ってしまった悠真。ギルマスは裏でニヤリとしているだろう。




 土地付きで家を貰った悠真は早速物件の確認に現地に来ている。貰った家は庭付きの一戸建てで、お風呂も設置されている。


 「こんなに良い家を貰えるなんて、さすがご主人様です」

 「すごいニャ! 王都に拠点が出来たニャ!」


 中に入ると、既にベラが手をまわしてくれたんだろう、家具など一式すでに揃っている状態だった。


 「貰ったのはいいけど、管理が大変そうだな。ダンジョンとか潜っていると掃除も出来ないし、他の街に行ったら荒れ放題だぞ……」

 「それではこの家の管理をしてもらうために、奴隷を1人追加してはどうでしょうか」

 「そうだな、そうした方がこの状態を保てるか。ちょっと奴隷商会に行ってくるから、そこのソファーにでも座って休んでて」

 「お供いたします」

 「一緒に行くニャ」


 奴隷商会までの道中にどんな人がいいとか、こんな人は嫌だなど、あれこれ話をしていたが、結局家事スキルを持った人であれば誰でもいいということに落ち着いた。




 以前にリリーの契約を変更しに来たときと同じように、メイドの格好をした複数の女性が出迎えてくれ、話しかけてきた」


 「いらっしゃいませご主人様。本日はどのようなご用件でしょうか」

 「家事スキルを持った奴隷を1人探しに来たんだけど、いるかな?」

 「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 通された応接間は前回と同じ部屋で、相変わらず豪華絢爛とした内装だ。


 「お待たせしました。本日は当奴隷商会にお越しいただきまして誠に有難う御座います。前回と同じく私、アニュラスが担当させて頂きます」


 そう言い終わると同時に、悠真達が入ってきた扉とは反対にある扉から奴隷が数名入室してきた。


 「家事スキルを持った奴隷をお捜しとお伺いしましたので、準備してまいりました。順番に自己紹介をさせますので、気になる奴隷がおりましたらおっしゃって下さい」


 そうアニュラスが言うと、目線で奴隷に自己紹介を促した。自己紹介に加え、鑑定も使用してチェックしていると、1人だけ古傷が多々あり、苦痛耐性Dを持った奴隷がいたので、これまでの経緯を聞いてみた。


 「ルビアは当奴隷商会に来る前は別の所で奉公しておりました。当時の主人の教育方針なのか身体には生傷が多々ありまして、当紹介に来てから治療魔法を掛けたのですが、古い傷までは治りきらずに現在の状態となります」


 その教育方針によって苦痛耐性を得たんだろう。しかし現地人はかなりの修練を積まないとスキル獲得は出来ないはずだ。しかもそのスキルがDランクなのは、継続して相当な苦痛を与えられていたに違いない。


 「その子だといくらですか?」

 「ルビアですと金貨23枚になります」

 「彼女でいいかな?」

 「ご主人様のご意向に従います」

 「ご主人様がいいと思う子がいいニャ」

 「それでは彼女をお願いします」

 「かしこまりました」


 目配せをして奴隷達を退室させた後、悠真から金貨23枚を受け取ったアニュラスは、ワインセラーからワインを1本、グラスを1つ棚から取り出し、悠真の下へ置きワインを注いだ。


 「すみませんがグラスをあと2つ頂けますか?」

 「失礼しました」


 一礼したアニュラスはグラスを2つ棚から取り出し、セラとリリーの下へと置き、同じくワインを注いだ。


 「それでは支度が整うまでの暫くの間、このままおくつろぎ下さい」


 アニュラスは再び一礼し、ルビアの支度のために退室していった。




 次のダンジョン攻略はいつになるか、情報を貰えるまではクエストを受けようなど、ワインを3人で飲みながら話をしていると、悠真達が他の街へ行った場合など、不在時の収入が話題に上がった。


 「家事をしてくれる奴隷の目途はたったけど、俺達が他の街に行っていても、ルビアの食費とかを賄えるような収入が欲しいな」

 「ある程度まとまったお金を渡しておくのが良いと思われますが、奴隷が大量に持っていると衛兵に怪しまれるかもしれません」

 「何かルビアが売ればいいニャ。それなら解決ニャ」


 リリーの言うように、ルビア自身に何かを売らせ、自ら稼げるようになれば問題は無くなりそうだ。では、何を売らせるのか。悠真達が他の街から仕入れて、ルビアがチターニアで物販をするならば、仕入れに馬車なども必要になる。そこまで利益は要らないから、ルビアの食費と土地、家の維持費と管理費などの固定費だけ稼げれば……。

 そんな風に考えを巡らせていると、ドアをノックする音が聞こえた。


 「お待たせしました。ルビアの支度が整いました」


 アニュラスが入室すると、続けてルビアが入室してきた。


 「家事スキルを活かしてこれからお仕えさせて頂きます。よろしくお願いいたします」


 入室してきたルビアは、先ほど来ていた服とは違い、玄関で出迎えてくれたメイドが着ているメイド服を身に纏っている。


 「家事スキルをご希望されておりましたので、こちらの服装がよろしいかと考え、誠に勝手ながらメイド服を着させてみました。こちらの服は予備も合わせて進呈いたしますので、お納め頂ければ幸いです」

 「助かります。さて、帰ろうか」

 「この度は当奴隷商会をご利用頂き有難う御座いました。今後ともご贔屓によろしくお願いします」

 「「「有難う御座いました」」」


 出口でまたもメイドの格好をした複数の女性に見送られ、帰路についた。

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