第18話 シュークリーム作り
今日はルビアが家にくる記念日ということで、今まで泊まっていた宿――精霊の宿り木の1階の食堂で夜ご飯を食べることにした。
「本当に私もご一緒に頂いてもよろしいのでしょうか」
「セラやリリーにも言ったんだけど、きっかけは奴隷商会での引き取りだけど、仲間と思って接するから、食事とかも基本的には一緒に取るよ。注文も好きな物注文していいし、ビールも飲んでいい」
「奴隷にそんな待遇いいのでしょうか……」
「ご主人様がいいと言っているのですから、いいんです」
「いいニャ。リリーもビール飲むニャ」
ルビアが遠慮しつつも食事は進み、食事も終わりかけた頃、珍しくリリーがデザートを注文していた。
「俺も何かスイーツ注文しようかな……ん? フルーツしかない?」
「スイーツって何かニャ?」
「フルーツではないんですか? ルビア聞いたことありますか?」
「いえ、私も存じません」
「甘いデザートって言えばいいのかな。そんなのって無いの?」
3人がそんなデザートは聞いたことが無いと否定した。デザートと言えばフルーツのことが一般的みたいだ。
悠真はスイーツを諦め、ビールをグイッと飲みほして、おかわりを注文した。
翌朝、悠真は日本にいた頃に見たテレビ番組で紹介していたシュークリームを作ってみようと、キッチンで奮闘している。
「まず中に入れるカスタードクリームは、卵黄と砂糖を混ぜるんだったっけ……。量がわからんから、とりあえずメモしながら後で改良するか。」
古い記憶を頼りに作るため、作り方はなんとなく覚えていても、分量が全くわからない。ダマになってしまったり、甘すぎたりして、当然のように失敗を繰り返している。
「申し訳御座いませんご主人様。何か御座いましたら私にお申し付け下さい。お料理なども私のお仕事だと思っておりますので」
ルビアがキッチンに来たところ、家事スキルを理由に購入されたにもかかわらず、悠真が朝食を作っていると思い、慌てて謝罪するルビアだが、悠真はそうじゃないと否定する。
「色々と試したいことがあるからキッチン使ってるだけで、ルビアの仕事を取ってるわけじゃないから安心して。あ、でももし時間があるなら一緒に手伝ってくれると嬉しいな。家事スキル持ちの方が上手く作れるかもしれないし」
「はい。何でもお申し付けください」
それから悠真は、こっそりとルビアの家事スキルをDからCに変更した。エディットのスキルを秘密にしたかったのと、いきなりSに変更することで、ルビアが自身の能力に戸惑うことを避けたためだ。その後、悠真とルビアの2人で試行錯誤しながらカスタードクリームに挑戦し、昼前にはなんとかカスタードクリームが形になった。
「最適な分量もわかってきたし、あとは評判聞いてから改良でいいかな。ちょっとこれをセラとリリーに少しずつ食べてもらって、感想聞いてきて」
「かしこまりました」
少量のカスタードクリームを持ってルビアがリビングへ向かおうとすると、壁に隠れて2人は見ていたらしく、飛び出してきた。
「匂いに惹かれてそこの壁で見てました」
「見てたニャ」
「見てたのか。声かけてくれても良かったのに。まぁ、ちょうどいいからここで食べて、感想聞かせて欲しい」
そんな2人にルビアが少量のカスタードクリームを渡すと――。
「なっ、何ですかこれは! 甘くて滑らかで……もっと、もっとないですか?」
(こんなに素晴らしい物を生み出す頭脳と手腕、さすがです神様)
「美味いニャ! 濃厚ニャ! クリーミーニャ!」
ひそかにリリーがどんな評価をするのか楽しみにしていた悠真だが、ビール以外はあまり期待できないみたいだ。
「カスタードクリームって言うんだけど、残りは後で使うから」
そう言って悠真は、冷却の魔法陣が描かれた冷蔵箱の中にカスタードクリームを片付け、それを見ていたセラとリリーは肩を落としていた。
ルビアが作った昼食を食べ終えてから、早速シュー生地の試作に取り掛かる悠真とルビアだが、シュー生地が膨らまず失敗を続けていた。
記憶を頼りに、焼いてる途中でオーブンを開けない、生地を冷やさない、乾燥させないなどの注意事項をいくつか思い出し、試行錯誤を続けること数時間、ついにシュー生地が完成した。
「ルビア、さっきのカスタードクリームを取ってきて」
「かしこまりました」
ルビアがカスタードクリームを取りに行っている間に、シュー生地を真ん中でスライスし、ルビアが取ってきた冷蔵箱の中にあるカスタードクリームを挟む。
ついにシュークリームの完成だ。
「できたぞー!」
「おめでとう御座いますご主人様」
「セラとリリーも待ってるだろうし、とりあえず4個リビングに持って行くか。残りはまた冷蔵箱に入れといて。入れたらリビングね」
「かしこまりました」
シュークリームを持ってリビングへ行くと、午前中に食べたカスタードクリームを忘れられないのか、目をキラキラさせて2人が待っていた。
「ルビアを待って試食するぞー」
「ルビアを呼んできます」
「直ぐに来るから座って待ってればいいって」
「早く食べてみたいニャ」
セラもリリーも早く食べてみたいと落着きの無い様子だ。
しばらくすると、冷蔵箱に残りを入れ終えたルビアがリビングに到着する。
「皆様お待たせしました」
「ご主人様、早く食べましょう」
「早く食べるニャ」
「わかったわかった。1人1個だぞ」
そう言って全員にシュークリームを手渡すと、セラとリリーは1口で食べ、目を閉じて味わっているようだ。セラは涙を流しているようにも見える。
(これが神々が食している食べ物ですか……)
「ご主人様、先ほどの黄色いクリームだけよりもこっちの方が優しい感じがして、私はこちらが好きです」
「俺もルビアと同じでカスタードクリームだけよりこっちがいいね。というより、本来はあのクリームだけで食べることはあまりしないね」
「そうですか。ところでこのシュークリームですが、これが先日ご主人様がおっしゃっていたスイーツという物ですか?」
「そうだね。他にも色々あるから、また今度作ってみようか」
悠真がそう言うと、セラとリリーの目が開き、悠真を見た。
「他にもまだあるのですか!」
(まだ他にも、下界の人々への施しがあるということですね)
「食べたいニャ!」
「また今度ね。ところで、残りのシュークリームを他の人にも食べてもらって、宣伝を兼ねて感想を聞きたいんだけど……王都に知り合いいないしなぁ」
「冒険者ギルドの受付嬢とかはどうでしょうか。彼女達は顔が広そうですし、宣伝に最適かと思われます」
「それいいね。スイーツはやっぱり女性の意見を聞きたいし、しかもそれが宣伝も兼ねるから一石二鳥だね」
「それでは今のアイデアの代わりにもう1個……」
セラがもう1個食べたいとリクエストしてきたが却下した。
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