第2章 フォボスダンジョン
第5話 初めての異世界
気が付くと悠真は、ベッドに横たわっていた。家具などは一応揃っているみたいだが、生活感は感じられない。部屋の大きさから小さな小屋、窓から見える景色からここは森の中だろうと悠真は推測する。
「異世界と言ってもあまり日本と変わらないな」
流石にテレビなどの電化製品は見当たらないが、テーブルや椅子、ベッドなどが目に入る。そのテーブルの上にはメルが言っていた初心者用装備らしき物や大量の硬貨、薄汚れた袋などが置いてある。ベッドから立ち上がった悠真はおもむろにそれらを確認し、ふと封筒が一緒に置いてあることに気付く。
「ん? 手紙か?」
封筒の中から手紙を取り出した悠真は、椅子に座り手紙を読み始める。その手紙によると、テーブルに置かれている物は俺への餞別らしい。冒険者が使うような物は一通り揃っており、しばらくはこの装備で大丈夫そうだ。この袋はマジックバッグらしく、一般的にマジックバッグは普及しているが、神様が用意してくれたこのマジックバッグは特別製らしく、中に入れた物は時間経過せず、容量も制限が無く、さらに重さも感じない仕様らしい。他にも金貨1枚が銀貨100枚、銀貨1枚が銅貨100枚と同額だとか、色々と書かれているが、とりあえず後でゆっくり読むことにして、装備品などを悠真はありがたく頂くことにした。
「俺への選別みたいだし、貰っておくか。株は持ってこれなかったし、先立つものが無いと不安だしな」
そう言った悠真は、手紙に書かれている最寄りの街――テミストで冒険者としての登録を当面の目標に定めた。
「こっちで会社を立ち上げても面白いかもしれないな。まぁやるなら1人でやるけどさ」
そんなことを呟きながらテミストへと歩きだした。
鬱蒼とした森を暫く歩いているとふと何かの気配を感じたと思ったら、横の茂みから薄汚れた腰巻きをした1匹のゴブリンが出てきた。
「ギャギャギャ」
ゴブリンは薄汚い笑みを浮かべながら、持っていた木の枝で悠真に襲いかかってきた。
「ゴブリン! まずは小手調べってやつだな」
そう意気込んだ悠真は剣を手にして、ゴブリンに切りかかる。ゴブリンが持っているのは木の枝だが扱いがなかなかに上手い。悠真の攻撃を弾きながら的確に悠真に攻撃を当ててくる。
「いてぇ! くそっ、葉っぱが、邪魔っ」
ゴブリンの攻撃が当たるものの木の枝だ、致命傷には至らない。剣によって切られ、木の枝がどんどん短くなっていく。悠真の攻撃が少しずつ当たり始めた頃、ゴブリンが石に躓いた。
「すまん……」
悠真はそう呟きながら、ゴブリンを袈裟切りにしようと腕を振り上げるが、その腕を振り下ろせない。息が詰まり、膝も震えてきた。殺らないと殺られる状況にいながらも、生きている命を奪うことに大きな抵抗感を感じている。
「ギギギ……」
悠真が躊躇している内に、ゴブリンは木の枝が短くなり不利だと悟ったのか、悠真に背中を見せながらも一目散に逃げ出した。
「助かった……」
地面に膝をつき、座り込んだ悠真は安堵すると同時に、今回助かったのはゴブリンが逃げ出したからであり、あのまま戦っていたら、止めを刺せない悠真が負けていた――死んでいたことに恐怖を覚えた。
「このままだと次に何か来ても、また同じことの繰り返しだな。日本の感覚のままじゃ死ぬだけか……」
そう言うと、悠真はおもむろに立ち上がり、顔の両頬を真っ赤になるくらいバチバチと叩いて気合を入れた。
「最初の1回、最初の1回だけが難しいんだ! よし、頑張れ俺!」
そう心を奮い立たせた悠真は、早速何かできないかと考え、まずは自身を鑑定してみることにした。
斉藤悠真(18)
身体能力S
魔力S
スキル
エディット
鑑定S
戦闘の心得E
魔法の心得E
生活魔法
「あ、やっぱり18歳なんだな。ってか身体能力Sなのにゴブリンに苦労したんだけど……戦闘の心得Eってこれが原因か?」
アマルテアでは身体能力が高くても、それぞれの武器に応じた適正がないとその身体能力を存分に発揮することはできない。逆に武器に応じた適正が高ければ、身体能力が低くても有利に戦闘ができる。そのため先ほどのゴブリンとの戦闘で悠真は、ギリギリの戦いとなったのだ。
「身体能力と魔力はどうせそのままの意味だろうし、まずはこのエディットってやつだな」
エディット(ユニークスキル)
既存のスキルレベルを変更することができる。ただし代償として、一時的に使用者に何等かの不都合が発生する。復帰にかかる時間は発生する不都合により変動する。
「神様がくれたスキルだし有用なのは解るけど、何が起こるか解らないし、デメリットが大きいな……。とりあえず他も鑑定するか」
戦闘の心得E
武器系適正スキルの上位互換スキル。全ての武器を扱える。
魔法の心得E
魔法適正スキルの上位互換スキル。火、水、風、土の属性魔法に加え、治療魔法と生活魔法を熟練度に関係なく使用することができる。
「ってことは、エディットで戦闘の心得EをSにすればゴブリンは余裕っぽいな」
そう悠真は考え、戦闘の心得Eを対象としてエディットを使用する。すると頭の中にEからSまでの文字が浮かび上がり、Sを選択した。
「さて、使用者に発生する不都合は……特に何も起こらないな……。そんなこともあるのか? まぁいいか。」
身体の節々に何かあるのかと思っても何も起こらず、盗賊や魔物にいきなり襲われるとかそういった気配もないため、不都合は発生しなかったと解釈した。
さっそく自身を鑑定し、エディットの結果を確認しようとしたが、何も見えてこない。
「ん? 1日の使用回数にでも制限があるのか?」
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