第28話 ディオネダンジョン
盗賊を無力化した翌日、リシテア行きの乗合馬車を途中下車した悠真達は、徒歩でエララに来ていた。
村と聞いていた悠真だが、到着してみれば冒険者で溢れかえっており、商人達がポーションや保存食、雑貨などの出店を開くくらいの賑わいを見せている。
「人が凄いな。冒険者が多いってことはダンジョン効果か?」
「新しくダンジョンが発生すると、攻略しようとする者、物珍しく挑戦しようとする者、雰囲気に呑まれてとりあえず来る者など、様々おりますのでその通りかと存じます」
「僕達はその挑戦しようとする者だよね」
セラの返答にリッシが答えるが、悠真がそれを補足する。
「そうだな。挑戦するのは間違いないが、攻略する気概を持って挑まないと強くなれないぞ」
「わかりました。ダンジョンを攻略する気持ちで挑戦します!」
「さて、気合いが入ったところだが、冒険者がこれだけいると、宿を早めに取らないと無くなってしまうから、まずは宿を取るか」
悠真達は男子4人、女子3人に別れて2部屋取った後、ダンジョンの情報を少しでも集めようと冒険者ギルドへと向かった。
「ダンジョンの情報はあそこの掲示板に色々と張り出されるから、アドニス達も覚えておくといい」
以前、セラから教えてもらったことをアドニス達に伝える悠真。
「全く情報がなくダンジョンに挑戦するのと、情報があってダンジョンに挑戦するのでは、効率も変わってくるが、なにより生存率が大きく変わってくるからな」
一行は掲示板の前に移動し、情報を収集する。ダンジョン名はディオネ、1階層は事前に聞いていた通り、ゴブリンが単独で徘徊しているくらいみたいだ。ただ、2階層ではゴブリンに加えてウルフが稀に出没するらしいが、群れではない。3階層でゴブリンの群れを見た報告がある。
そんな情報を収集していると、悠真の目にふと見なれない文字が入ってきた。
「攻略非推奨ダンジョン……?」
「攻略禁止ではありませんが、街の意向として攻略しないで欲しい場合に記載されます。攻略禁止と違い、攻略による罰則などは御座いませんが、攻略前にギルドに一報を入れた方がよろしいかと存じます」
「なるほどね。ちょっと受付に行って聞いてくるから、そのまま掲示板で情報を収集しててくれると助かる」
「承知しました」
悠真は受付待ちの列に並び、受付嬢に攻略非推奨ダンジョンとなっている理由を聞いたところ、エララの村おこしの1つとして、このダンジョンを活用したいと村長が考えているみたいだ。
現在、冒険者ギルドへ攻略禁止ダンジョンの申請をしているらしいが、そのためには様々な調査や、書類が必要となる。その間に攻略――ダンジョンコアの破壊――されてしまわないよう、攻略禁止ダンジョン申請中のダンジョンは、攻略非推奨ダンジョンとなるが、審査に落ちればその呼称も使えなくなり、冒険者は遠慮なく攻略することになる。
悠真は事情を察して、ディオネダンジョンの攻略――ダンジョンコアの破壊を諦め、このダンジョンを活用してアドニス達を鍛え、ダンジョンボスの討伐を目標に切り替えた。
「ダンジョン攻略がご主人様の目的の1つだったと記憶しておりますが、攻略を諦めてよろしかったのですか?」
「ダンジョン攻略も目的の1つだけど、この世界の発展も目的の1つだからね。この村が活性化して、冒険者育成の一助になれば、その冒険者が他のダンジョンを攻略してくれるかもしれないしね。そうなれば俺1人で攻略するより、もっと効率が良くなるし、早めにバランスが取れるようになると思うよ」
「バランス……ですか?」
「ああ、俺の事情だから気にしなくていいよ」
(ご降臨されている理由に関係しているんでしょうか……)
その日は時間も遅くなったため、食事を取ったあと、早めに就寝して翌日からのダンジョン攻略に備えることにした。
ダンジョンに潜りだしてから3日間は、アドニス達の様子見と、戦闘スキルを1段階アップさせることに消費したが、それ以降は順調にダンジョンを進んで、現在は9階層に悠真達はいる。
アドニス達はウルフの群れに対峙しており、悠真達はそれを見守っている。
「ボルガ! そっちに行ったぞ!」
アドニスと対峙していたウルフが1匹、ボルガの方へと向かうが、ステラがそれを阻止する。
「任せて! エアバレット!」
「ギャン!」
「助かったぜ!」
リッシも杖で突いて攻撃したり、アドニスも剣でウルフに切りかかり、順調にウルフの群れを討伐した。
「ご苦労さん。どんどん連携も取れてきてるし、いい感じだね」
「有難う御座います。ユーマさん達のお蔭です」
「ちょまち、鬼疲れた」
「ステラ、これ飲んどいて」
悠真がブルーポーションを渡すが、味を知っているためステラは飲むのを躊躇している。
「不味いのはわかるけど、後で魔力が尽きて、みんなに迷惑をかけることを考えたら、今飲むべきだぞ。とりあえず休憩しようか」
アドニス達に疲れが見え始めたため、悠真が休憩を促し、それぞれが壁に背を預けて休憩し始める。
それを見て悠真も休憩しようと壁に背を預けたところ――
「――ッ!」
「ご主人様!」
「ニャニャッ!」
「ユーマさん!」
悠真は壁をすり抜け、セラ達からは壁に吸い込まれたように見えた。
「痛ってぇ。大丈夫だ。心配ない。ただ、こっちに隠し通路があるみたいだ。ちょっと確認してくるからそのまま待っててくれ。」
「ご主人様、お供します」
「ダメだ。アドニス達を見ててくれ」
「しかし……承知しました」
悠真の身の安全を考えお供しようとしたセラだが、何か考えがあるのだろうと思い直し、悠真の指示に従うことにする。
悠真が進む道は1本道で、特に分かれ道などがあるわけではなかったが、薄暗く、ジメジメした通路だった。
その通路の先には不思議と明るく、温かい部屋があり、その真ん中には何かの卵が安置されていることに悠真は気が付いた。
「あれは……何のタマゴだ?」
鑑定を失念している悠真は不用心にタマゴに近づくと、不意に足腰から力がゴッソリと抜けるのを感じ、膝をついた。
「ぐっ……なん……だ……」
実はこのとき、悠真の身体から大量の魔力を、タマゴが吸い上げていたのだ。常人の魔力量であれば一瞬で枯渇する勢いで吸われ、意識を失っているが、悠真の魔力はSであり、常人のそれとは量が全然違う。
そんな勢いで魔力を吸い続けられてしばらくした頃、悠真の身体が軽くなるのを感じた。
「ふぅ。なんだったんだ今のは」
パキ……パキ……パキ……。
「ん? もしかして孵化する……のか?」
パキ……パキパキ……。
「ピィー!」
「あれは……グリフォン……か?」
タマゴから孵化したのは一般的なウサギくらいの大きさのグリフォンだった。アマルテアでグリフォンと言えば、伝説に残るSランク級の魔物であり、成体となればその大きさは象よりも大きく、じゃれつくだけで街が滅び、敵対すれば国が亡ぶと言われている魔物である。
そんな魔物が悠真の周りを嬉しそうに飛び回っている。
「懐いてる……んだよな。困ったな。ペットとか飼ったことないし、そもそもこの世界で魔物を飼うことがどんな扱いなんだ」
アマルテアでは、魔物をペットとして飼うのは一般的ではない。しかしながら、冒険者の中にはテイミングスキルを持っている者もおり、魔物と一緒に行動している冒険者も少なくないが、従魔登録が必要になる。
「とりあえずセラに相談してみるか……。っと、その前に鑑定だな」
名前無し:グリフォン(0)
身体能力C
魔力C
スキル
火魔法C
風魔法C
闇魔法D
「闇魔法……初めて見たぞ。というか、産まれたばかりなのに強くないか」
「ピィー!」
グリフォンが悠真の肩に留まり、無防備にも毛繕いを始めた。
「俺のことを親か何かって勘違いしてないか……。とりあえず戻るか」
孵化するために悠真の魔力をふんだんに使用したため、その魔力の持ち主である悠真をグリフォンは親と認識している。
そんなことは露知らず、セラ達の下へと歩を進める悠真であった。
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