第25話 孤児達の特訓
孤児院の庭に来た悠真達は、美味しそうにシュークリームを食べている子供達を見て微笑ましく感じ、少しでも早く現状を改善したいと改めて思った。
「あ、お兄ちゃん。シュークリームありがとう」
「有難う御座います。美味しく頂きました」
「どういたしまして」
悠真に気が付いた子供達が、シュークリームのお礼を言うために悠真の下へと近づいてくると、シスターが最年長と思われる男の子に話しかける。
「アドニス、遊んでるところ悪いんだけど、ステラとボルガ、リッシを呼んできてくれる?」
「わかりました。直ぐに呼んできます」
そう言うとアドニスと呼ばれた男の子は走って屋内へと消えて行った。
「お姉ちゃん、何するの?」
「ユーマさんとアドニス達でお仕事のお話をするのよ」
「お仕事頑張ってね、お兄ちゃん」
「ありがとう。みんながもっと元気になれるよう頑張るね」
マリーと比べて若干年上だと思われる女の子が、シスターの手を握りながら悠真と話をしていると、14歳か15歳と思われる男女がシスターの下へと走ってきた。
「呼んできました」
「誰こいつ?」
「呼んでるって聞いたぜ」
「僕もいた方がいいの?」
「呼んだのはね、ユーマさん達はランクAとBの冒険者なんだけど、あなた達の特訓に付き合ってくれるって言ってくれたの」
「ほんとですか!」
「マジで! 超嬉しいんだけど」
「Aランクだって!」
「めっちゃ頑張ります!」
シスターがはしゃいでいる4人をなだめると、それぞれに自己紹介を促した。
「アドニスって言います。剣術を少しだけできます」
「ステラよ。あまり得意じゃないけど風魔法が使えるわ」
「ボルガだぜ。槍を使ってるぜ」
「僕はリッシです。武器は得意じゃなくて、治療魔法が使えます」
「俺は悠真、冒険者ランクはAで、こっちがセラで冒険者ランクはB、剣術をメインにしている。こっちがリリーで冒険者ランクは同じくBで、火魔法がメインだ。主にこの2人に見てもらうことになると思う。よろしくな」
「よろしくです」
「よろしくニャ」
簡単な自己紹介の後、セラと簡単な手合せをさせた結果、セラとリリーがいれば、街の外で魔物と対峙しても問題はないだろうと悠真は判断した。
「そろそろお昼ですし、先日寄付を頂いたお蔭で、みんなで昼食を頂くんですが、良かったらご一緒にいかがですか?」
「そうですね。せっかくなので昼食を頂いて、その後から街の外で魔物の討伐をしてみましょうか」
「今日から街の外に連れてってくれんの? マジ頑張るんだけど」
「では子供達と昼食を作ってきますね」
「シスター、俺達は素振りしてていいですか?」
「俺も素振りするぜ!」
「僕は昼食手伝います」
アドニスとボルガは庭で素振り、ステラとリッシは他の子供達と一緒に昼食を作る手伝いをすることになった。
邪魔にならないよう注意しながら、昼食作りの様子を見ようとキッチンへ来た悠真は驚いた。リッシだけでなく、マリーのような子供達までも、キッチンで昼食作りをしっかりと手伝っているのだ。
「これだけ手伝いがしっかりとできているなら、セラが言ったように何か作らせてみるのも良いかもしれないな」
「あ、お兄ちゃん。ご飯はまだだよ。あっちで待ってて」
マリーにキッチンから追い出された悠真は、特にすることがないのでアドニスとボルガの素振りを見ていると、アドニスが声をかけてきた。
「ユーマさん、お暇なら手合せお願いできませんか?」
「よし、やろうか」
悠真はアドニスに近づき、剣を抜いた。
「俺は一歩も動かない。俺を動かせたらアドニスの勝ちな」
「そんなにハンデくれたら勝っちゃいますよ――」
そう言いながら悠真に切りかかるアドニスだが、右手の剣で悠然と防御する。
「不意を突いたつもりかもしれんが、まだまだ遅い。脇が開いてるぞ」
悠真は剣の腹でアドニスの脇腹を叩き吹き飛ばすも、アドニスはすぐさま体制を立て直し、再び切りかかってくる。
「決まったと思ったのに、凄いですねユーマさん」
「さっきのが決まるなら俺も一緒に特訓しないとな」
「ぜひ一緒に特訓して、毎日手合せしましょう――」
フェイントを織り交ぜながら悠真に向かっていくも、全て見切られ、そのたびに剣の腹でアドニスは吹き飛ばされているが、全くその闘志が消えるようなことがない。むしろ吹き飛ばされる度に、闘志がメラメラと湧いてきているような感じだ。
「お兄ちゃん、ご飯できたよー」
その声を合図にアドニスが再び吹き飛ばされ、手合せが終了した。
「ユーマさん強すぎですよ。全て攻撃を防がれて、吹っ飛ばされたよ」
「アドニス弱すぎじゃん。うちならもっと上手くやるよ」
「見てたけどユーマさん一歩も動かず対応したの、マジで凄かったぜ」
「僕も見たかったな」
「口に食べ物を入れてるときは喋らない! 何度言ったらわかるんですか!」
シスターに4人は怒られながらも、早く街の外で特訓がしたいのか黙々と昼食を食べ続けている。
「ユーマさん有難う御座います。お蔭様でこうやってみんなでお腹一杯ご飯を食べることができます」
「お役に立てて嬉しいです。ところでさっき料理しているところを拝見したんですが、子供達もみんな料理してるんですか?」
「ええ、自分達で何でもできるようになった方が良いと思いまして、子供達には色々手伝ってもらってます」
炊事、洗濯、掃除などの一般的な家事は、子供達が全員できるようにシスターが仕込んでいるみたいだ。その甲斐もあってか、外見はボロボロではあるが、中はきちんと掃除が行き届いている。
「ごちそうさま。早く食って外行こうぜ」
「ボルガはいつも食べるの早すぎじゃん」
「シスターにもっとゆっくり食べなさいって怒られてるのにね」
ワイワイと楽しそうに会話をしながら昼食を終えた悠真達は、セラとリリーにアドニス達4人を任せ、『パティ』へと戻ることにした。
パティの調理場の一角で、悠真が大量のパンとともに、腕を組みながら新しい商品を開発しようと眉間に皺を寄せながら、1人で考え込んでいる。
「ご主人様、そんなにパンを集めて、今度は何を作られるのですか?」
「作るものはまだ決めていないんだけど、パンを使って新商品を作れないかなって思ってね。いつも食べてるパンに一工夫できれば、馴染みのある食べ物でも違った感覚で食べられるからね」
シュークリームやプリンは確かに受け入れられたが、見たこともない食べ物であるがゆえに、最初の一口を食べるまでに抵抗感がある人もいるはずだ。そこで、馴染みのあるパンを使ったスイーツを作ることで、抵抗感を感じさせることなく、新たな顧客を引き入れようと考えていた。
「すみませんご主人様、冒険者ギルドの方から言伝を預かっているのを失念しておりました。時間があるときで構わないので、顔を出して欲しいそうです。新たなダンジョンが発見されたと言っておりました」
「行き詰ってるし、ちょっと行ってくる。邪魔にならない所にこのパン片づけといて」
「かしこまりました。行ってらっしゃいませ」
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