第4章 孤児院

第24話 孤児達との出会い

 スイーツ専門店『パティ』が開店してからしばらく経ったある日、悠真が何気なく外を見ると、ぼろぼろになった服を着た子供たちが、パティを遠くから眺めていることに気が付いた。


 「ルビア、あの子供達は?」

 「最近よく遠くからパティを眺めております。近所の孤児院の子供達だと思われます」


 それを聞いた悠真は話を聞いてみようと、外に出て手招きした。すると孤児達は顔を見合わせ、どうしようか話をしていると、最年長と思われる男の子が近づいてきた。


 「なんだい? 俺達に何かようかい?」

 「1人で食べるのは寂しいから、一緒にシュークリームを食べないかい? みんなの分もあるよ」


 悠真が持ち出したシュークリームを男の子に見せると、男の子が屈託のない笑顔を見せてくれた。


 「ほんとか! マリーが食べてみたいってぐずってるんだ。でも俺達はお金が無くて買えなくて……」

 「もちろんみんなの分もあるよ。マリーって子はあそこにいるのかい?」

 「いるよ! こっちこっち」


 男の子は悠真の手を引っ張り、走って孤児達の下へと連れて行く。その手は細く、成長期の子供にもかかわらず、栄養が足りていないのだろう。


 「この兄ちゃんがシュークリームくれるって! マリー!」

 「まじか!」

 「やったー」

 「ありがとう!」


 思い思いに子供達は喜び、感謝を悠真に伝えている。その中の1人、マリーと思われる6歳くらいの女の子が、さっきの男の子に背中を押され悠真の前で、シュークリームをキラキラとした目で見つめている。


 「本当に食べていいの?」

 「いいよ。みんなで一緒に食べよう」


 悠真が地面に座り、孤児達にも座るよう促すと、1人に1つずつシュークリームを渡すと、自分も1つ一緒に食べた。


 「うめぇ!」

 「お兄ちゃんありがとう!」

 「美味い!」

 「マリーどうだ、美味しいか?」

 「うん、おいしいよ」


 子供達は笑顔でシュークリームを食べ終わると、指についたカスタードクリームを舐めていた。


 「ところで、みんなはどこに住んでるんだい?」

 「あっちにある孤児院だよ。シスターがいるんだ」

 「シスター綺麗なんだよ!」

 「ねぇ、最後のこのシュークリームを、シスターのお姉ちゃんに上げちゃダメ?」

 「いいよ。それじゃぁみんなで孤児院に行こうか」

 「行く!」

 「お姉ちゃんに惚れたらダメだよ!」

 「先に行ってる!」


 そんな会話をしながら孤児院に向かってしばらく歩くと、ボロボロになりながらもなんとか建っている、そんな外見の孤児院が見えてきた。


 「お兄ちゃんここだよ」

 「入って入って。お姉ちゃんお客さんだよー」


 子供達に手を引っ張られながら奥の部屋へと進んでいくと、シスターらしき女性が部屋の中で待っていた。


 「すみません、なんでもシュークリームを頂いたとか」

 「1人で食べても寂しいので、どうせなら一緒に食べようかと誘っただけですよ」

 「シュークリーム美味しいんだよ! お姉ちゃん早く食べて」

 「後で頂きますよ」

 「ダメ! 今食べて欲しいの」


 後でシュークリームを頂こうとしたシスターに、孤児達が早く食べて食べてと催促していると、シスターがシュークリームを食べ始めた。


 「あら、美味しい」

 「でしょでしょ。このお兄ちゃんがみんなにくれたの!」

 「有難う御座います。ちなみにおいくらでしたか?」

 「俺のわがままで一緒に食べてもらっただけなので、お金は要らないですよ」

 「ではありがたく頂戴しますね。孤児院の経営が凄く厳しいものですから……」


 子供達が遊びに出た後、シスターの話を聞いた悠真。孤児院の運営は寄付のみで運営しており、その寄付金も年々減っている。そのため成長期にもかかわらず、子供達に1日1食しか満足に与えられず、シスターも子供達の食べ残しで凌いでいるらしい。さらに今は全部で9人の子供達を預かっているらしい。

 その話を聞いた悠真は、パティの売上げの一部を継続的に寄付することを約束し、帰路へとついた。




 リビングでプリンをたべながら、セラとリリーに孤児院でのことについて相談を持ちかけた。


 「とりあえず、パティーの売上げの一部を孤児院に寄付することにしたけど、それでは根本的な解決にはならないんだけど、何か良い案ないかな?」

 「ご主人様の慈愛の心に感服いたします。メイド達みたいに何か作らせてはどうでしょうか?」

 「孤児達が冒険者になればいいニャ。街中でのクエストがあるニャ」

 「なるほどな。作らせるのは難しいかもしれないが、冒険者はそれなりの年齢の子供達なら良い案かもしれないな。ところで冒険者って年齢制限はあるの?」

 「13歳くらいから冒険者として登録することができます」

 「今日は会えなかった孤児達もいるだろうし、また明日行ってみるか」

 「お供致します」

 「リリーも行くニャ」




 翌日、3人はパティに顔を出した後、お土産のシュークリームを持って孤児院へ向かうと、マリーと昨日はいなかった男の子が一緒に遊んでいた。


 「おはよう。シスターいるかな?」

 「あ、お兄ちゃん! シスターいるよー」

 「おはよう御座います。シスターにどのような御用事でしょうか?」

 「孤児院の運営についてちょっと話をしようと思ってね。マリーちゃん、これお土産だよ」

 「シュークリーム?」

 「そうだよ。またみんなで食べてね」

 「ありがとう!」


 シュークリームを抱えたマリーは、孤児院の中にいる孤児達に早速シュークリームを届けるために、パタパタと走って行った。


 「すみません。こちらへどうぞ」


 そういって男の子は昨日の応接室みたいな一室に悠真達を案内し、シスターを呼びに向かった。


 「ユーマさん、またシュークリーム頂いてすみません」


 そう言いながらシスターがやってきた。


 「子供達が喜んでくれれば嬉しいです。早速なんですが……」


 昨日セラとリリーの3人で話した内容――孤児を冒険者として登録し、街の中でできるクエストを受けてはどうかとシスターに提案してみた。


 「有難う御座いますユーマさん。でも既に4人の子供達が登録して、街中でのクエストを受けてくれてるんです」

 「そうなんですか。すみません」

 「いえ、孤児院の事を色々と考えて頂いて有難う御座います。でも街中でのクエストは数が少なく、報酬が低いのでやはり寄付に頼らざるを得ない状況なんです」

 「街の周りで薬草集めとかはどうですか?」

 「街の周辺は比較的安全と言っても、魔物が出ます。あの子達では満足に戦えないので危険なので受けさせていません……」


 低ランク冒険者が、比較的安全とは言え街の外でのクエストは確かに危険が伴う。


 「それならセラとリリーが、その子供達の特訓に付き合ってはどうでしょう? 冒険者ランクもBですし、特訓に付き合うには問題ないと思いますよ」

 「でもお二人のクエストの邪魔にならないでしょうか?」

 「大丈夫ですよ。最近はダンジョンにも潜っていませんし、ボチボチとクエストを受けているだけですから」

 「それではお言葉に甘えて、お時間があるときだけでいいので、お願いできますか? あの子達も早く強くなって、外に出てみたいって言ってましたから、喜ぶと思います」

 「では、4人がクエストを受けていないときに、街の外で特訓するようにしましょう。セラとリリーよろしくね」

 「承知しました」

 「任せるニャ」

 「有難う御座います。あの子達も強くなれば活躍できる場が広がるので、きっと喜ぶと思います」

 「では早速ですけど、4人に会わせてもらえますか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る