第7話 セラとの出会い

 「ユーマさん、お待たせしました」


 カウンターからローサの声が聞こえた。


 「こちらがギルドカードになります。紛失にはお気を付け下さい。あと、冒険者ギルドの説明は必要ですか?」


 冒険者ランクがEからSまであること、1つ上のランクまで依頼を受けることができることなどだろう。悠真は神様の手紙で予習してあるから遠慮した。


 「代わりに教えて欲しいんですけど、この街でお勧めの宿ってありますか? 実はまだ宿を取ってないんです」

 「私の友人がやってるんですけど、ギルドの前の道をそのまま道なりに5分ほど進んだ所にある『熊の家』がお勧めですよ。私の紹介って言えば多少は安くしてくれると思います」

 「それは助かります。さっそく行ってみますね」


 そう言ってギルドを出ようとするが、ローサは話を続けた。


 「あ、話は戻りますが、クエストを受ける際にはなるべくパーティーを組んだ方がいいですよ。さきほどガフさんと話をされてたみたいですが、彼にお願いすれば紹介してくれると思います」


 その話を聞いたとたんに悠真の顔から笑顔が消える。


 「すみません、もう人と組んで裏切られるのは嫌なんです。1人で活動としようと思うので、パーティーは組まないと思います」


 悠真は創業仲間の4人のことを思い出した。一緒に切磋琢磨してきた仲間。信頼していた仲間。苦しいことも楽しいことも、悲しいことも嬉しいことも一緒に共有してきた仲間。そんな仲間に裏切られ味わった絶望をもう二度と味わいたくない。そんな想いからパーティーは組みたくないと悠真は考えている。


 「そうですか。申し訳ございません。それならば奴隷などはどうでしょう。奴隷なら裏切られることなく一緒にパーティーを組めると思います」


 日本で産まれ育ってきた悠真にとって、奴隷という言葉には嫌悪感があり、抵抗感がある。素直にはその提案を受け入れられない。


 「せっかくの提案ですが奴隷は遠慮します。奴隷という言葉に嫌悪感がありますし、そういった制度を利用したいとは思えないんです」


 ローサは話が少しズレているような感覚に陥りながらも、そのズレを解消しようと試みる。


 「ユーマさんがおっしゃってるのは犯罪奴隷や鉱山奴隷でしょうか? そのような奴隷は私達では購入できませんよ」


 悠真は奴隷に対する定義がもしかしたら違うんじゃないかと思い、詳しく話を聞いてみると、この世界の奴隷は主に借金奴隷らしく、主人は奴隷の衣食住を適切に確保しなければならないらしい。主人はそれを厳守しなければならないらしく、奴隷税を支払う際に奴隷に対してヒアリングなどの調査が入る。調査には真実の水晶を使うらしく嘘はつけないが、中には賄賂でその工程をパスするようなやつもいるらしい。

 奴隷に対する嫌悪感や抵抗感が薄れ、認識を改めた悠真は、裏切られる心配がないなら……と、悠真は一度奴隷商会へと足を運んでみることにした。




 「どのような奴隷をお求めでしょう?」


 奴隷商会へと到着した悠真は、店主のタバラと商談中だ。


 「冒険者として一緒に活躍してくれそうな奴隷を探しているんだが、できれば魔法が使えると嬉しいな」


 自分が前衛、奴隷が魔法と役割の分散を考えている悠真は魔法が使えることを指定した。


 「魔法ですか。魔法を使える奴隷は少なく、適正のランクが高い者は総じてお高くなりますがよろしいですか?」

 「ではランクは低くてもいいので魔法の適正がある奴隷だといくらですか?」


 どんな不都合が発生するのかわからないエディットを使いたくなかった悠真だが、冒険者登録をしたとはいえ、まだ収入が安定していない状況での出費は避けたい。そんな考えもあって悠真は妥協した条件を伝えた。


 「そうですねぇ。使える魔法にもよりますが、男性でだいたい金貨50枚からでしょうか。女性ですと金貨70枚からになります」


 マジックバッグの中に十分な金貨は入っている。しかし予想していたよりも高かったため躊躇してしまい、購入には踏み切れなかった。


 「すみませんが、今回は見送ることにします」


 残念だが今回は諦める旨をタバラに伝え、席を立つ。

 奴隷商会の入り口に来たところで、数人の奴隷が絶望を表した表情で外にある馬車に連れて行かれるが、その中に1人だけ見た目が若い異色な奴隷がいた。


 「あの奴隷達はどうしたんです?」

 「はい、あちらの奴隷はずっと買い手がつかなかった奴隷達で御座います。口惜しいのですが、一定期間買い手がつかなかった奴隷達は、労働力確保のため国が買い取り、犯罪奴隷と一緒に鉱山奴隷となります。鉱山奴隷となったら二度と出てくることが叶いません。私共も出来る限り鉱山奴隷とならないよう、値を下げておりますが、年齢だったり病気、身体に欠損があったりしてなかなか買い手がつかない場合が御座います」


 悠真は今にも鉱山行きとなりそうな奴隷の中の1人、手入れのされていない長い黒髪が印象の女性に鑑定を使用した。


 セラ(19)

  身体能力C

  魔力E

 スキル

  剣術C

  解体D

  生活魔法


 「あの女性はなぜ奴隷になったんですか?」

 「あの奴隷はCランクの冒険者でした。昔はもっと容姿がよかったので新人冒険者の男に付き纏われておりまして、その冒険者が……」


 タバラ曰く、その新人冒険者が無理やりセラのダンジョン攻略に付いてきたが、その道中に魔物に襲われ、新人を庇ったため左腕を欠損、左足もまともに動かなくなった。それが原因でパーティーからは追放され、冒険者としても上手くいかず、そんなセラから新人も離れていき、借金の返済ができなくなり奴隷になったらしい。


 「その新人冒険者とパーティー酷いな……。明らかに足手まといだし、それまで一緒に頑張ってきた仲間だろ。何か助け合うこととかできただろ」


 自分も裏切りによって仲間に解任されたからか、セラも仲間に捨てられるという同じ境遇に親近感を覚えると同時に、ひどく憤りを覚えた。


 「彼女はいくらですか?」

 「――お買い上げになって頂けるのですか?」


 まさか買い手が付くとは思っていなかったタバラは、驚いた表情で悠真を見る。


 「金貨5枚になります。ですが彼女は魔法が使えませんし、左腕を欠損、左足もまともに動かず走れません。よろしいのですか?」

 「かまいません」

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