第45話 輸送隊出発

 ギルマスに報告した翌日から悠真は、のんびりと特に目的なく出店を楽しんだり、依頼をこなして過ごしていたが、カクタスが市民として街へ出入りすると入市税がかかるため、節約のために冒険者登録をしようと、冒険者ギルドの受付に悠真はカクタスといた。


 「ではこちらの用紙にご記入下さい。できるだけ得意武器や魔法を記載して頂けるとパーティーなどのご紹介の参考にさせて頂きます」

 「兄貴と一緒にいるから、パーティーは要らないぜ姉ちゃん」

 「さっさと書け」


 カクタスの頭を軽く叩いた。

 カクタスが他の冒険者とパーティーを組むと、その馬鹿さから絶対に正体がバレると考えている悠真は、他のパーティーと組ませることは避けねばならない。


 「有難う御座います。それではここに手を乗せて頂けますか? 私がいくつか質問をしますので、正直にお答えください。」


 カクタスが水晶に手を乗せると、受付嬢はカクタスに向けて質問を始めた。


 「この用紙に書かれているのは事実ですか?」

 「おうよ。一切間違いはないぜ」

 「犯罪歴はありますか?」

 「あ、えっと……」


 レッサーデーモンを召喚したことや魔物を使ってたこと、これが人類では犯罪にあたるのかどうか、カクタスには判断がつかない。

 そこで悠真に助けを求めると、口パクで「い・い・え」とやっている。


 「い……え……す?」


 水晶は真っ赤に光出し、カクタスは手を水晶から離してしまった。


 「あ……」

 「え? 赤……? カクタスさん、ふざけてます? 犯罪者じゃないのに犯罪者とウソをついて、何がしたいんですか?」


 最初は赤色に光る水晶を初めて見てビックリしていたが、受付嬢は怒気をこめた声でカクタスに問いただす。


 「兄貴がそう言えって――」

 「人に答えを聞かないと答えられないんですか!」

 「怒ると可愛い顔が――」

 「ふざけないで下さい!」


 それから延々と怒られたカクタスではあるが、最終的にはギルドカードの発行をしてくれることになった。

 しかしなぜ犯罪者とならなかったのか。レッサーデーモンの召喚は、ただスキルを使っただけにすぎない。魔物を使ったことも、レッサーデーモンが行ったことであり、テイミングスキルを使っただけである。魔物もグリフォンを探す目的で活性化していただけだから、犯罪にはならない。

 悠真はカードが発行されるまで、そんなことを考えているとカクタスが呼ばれ、無事にギルドカードを受け取っていた。


 「すいません。こいつEランクより実力はありますので、一度更新してもらえませんか?」


 悠真が受付嬢にそう伝えると、怪訝そうな顔で受付嬢は、カクタスのギルドカードと共に奥へと引き返していった。


 しばらくして受付嬢がギルドカードを手に戻ってくると、ギルドカードにはBランクと表示されていた。


 「Aランクかと思ってたのにショックっす」

 「能力はAランク近くあるんだろうけど、馬鹿だからな……」

 「それじゃ俺は万年Bランク止まりじゃないっすか!」


 カクタスは、自分が馬鹿だと認識はあるようだ……。




 それから数日、輸送隊の出発日となり、悠真達はスコルの門に到着すると、大型の馬車12台が出荷数の最終確認や、馬車の可動部などの最終確認をしていた。

 10台前後と聞いていたが、少しだけ出荷量が増えたみたいだ。

 先頭の馬車に向かって歩いて行くと、スコルに来るときに一緒だったエイク達が走って向かってくるのが見えた。


 「ユーマさん! 高ランクの冒険者ってユーマさん達だったんですね。よろしくお願いします」

 「こちらこそよろしく。知ってる人がいて良かったよ」

 「今度は一緒に護衛ですね。大規模輸送なので緊張しますが、ユーマさん達と一緒で安心しました」


 そんな会話をしながら先頭に進むと、初対面の冒険者パーティーがいた。悠真達、エイク達、そしてこの冒険者パーティーで王都まで護衛をするみたいだ。


 「悠真と言います。よろしくお願いします」

 「……ああ。ネグラクタだ」


 第一印象は良くない。眉間に皺をよせ、無愛想で何を考えているかわからないといった印象だ。冒険者ギルドが、なぜネグラクタ達を護衛にしたのか解らない。

 御者の方と道のりや夜営ポイント、護衛する位置などの打ち合わせをし、悠真とカクタスが先頭、続いてエイク達、ネグラクタ達、最後尾をセラ、リリー、グリが護衛することになり、全ての準備が整ったところで悠真達は出発した。

 比較的安全な街道のため、出発してすぐは特に異常はなかった。

 しかしながら、3日目から魔物の遭遇率がスコラに行ったときと比べ異常に高くなっていた。


 「なんでこんなに魔物に遭遇するんだ? 明らかに異常だな」

 「俺はストレス発散になるから、歓迎っす。兄貴も思いっきり暴れたらどうっすか?」

 「ストレス発散だから良いとかじゃなくてな、この遭遇率の高さが異常だって話。最近までそんなことが無かったはずだが、この大規模輸送に合わせて増えてる感じか?」


 嫌な感じがするが、現在地は中間地点を少し過ぎたところだろう。引き返すより進んだ方が、距離や時間的に安全だと思われる。

 魔物を討伐しながら進んでいると、ちょっと遠目ではあるが、輸送隊の右側に位置する森から輸送隊の側面を狙うように、横並びでウルフの群れが飛び出してくるのが見えた。

 悠真とカクタスは迎撃しようと構えると、微かな揺れを感じ取った。


 「兄貴、この揺れって……?」

 「わからんが、とりあえず周りに警戒しつつ、ウルフを――ッ!」


 森の奥、ウルフの群れの後ろから、悠真の2倍近い身長を持つオーガの群れまで現れた。オーガ1体がだいたいCランクの冒険者1人程度の強さになる。群れで現れた今、かなり大がかりな戦闘になるだろう。


 「カクタス、バレない範囲内で全力でやれ」

 「難しいけど了解っす兄貴!」

 「こっちを終わらせたらエイク達の援護に行くぞ!」


 悠真はウルフの群れに突撃し、すれ違うウルフを斬り伏せる。

 カクタスはウルフを殴り、討伐する。

 オーガはその筋力を活かした攻撃をしかけてくる。ときには殴り、ときには木を振り回したり、木を投げつけたりあらゆる攻撃をしかけてくる。しかし今回は後ろに輸送隊が控えている。木を投げられるのは避けなければいけない。

 そのため悠真は、ある程度ウルフが間引かれたのを確認した後、まだ輸送隊まで距離があるオーガへと詰め寄った。

 まずはこれ以上輸送隊に近づけないために、アキレス腱の辺りを狙う。


 「グオォォ!」


 立っていられなくなったオーガは、膝をつくがまだ諦めてはいない。悠真を殴打しようと腕を横に薙ぎ払うが、既に悠真はそこにはいない。オーガが腕を薙ぎ払った反対側の首元から剣を突き刺した悠真は、次々とオーガを動けなくしていく。


 「カクタス! 先にエイク達の援護に向かう。前方を討伐し終えたら徐々に後方に来てくれ」

 「了解っす兄貴!」


 カクタスもランクはBだが、実力はAランク相当だ。オーガ相手に格闘や火魔法で対応し、順調に討伐している。悠真がある程度ダメージを与え、動けなくしたオーガの止めもカクタスの仕事だ。

 急いで悠真がエイクのところまで来ると、エイク達はオーガ討伐こそできてはいないが、輸送隊の防衛には成功していた。しかしリカーノの消費が激しい。土魔法を乱発しているのだろう。


 「リカーノ、これを飲め!」

 「助かりますユーマさん」


 ブルーポーションを複数渡し、回復を促すと、エイク達の応援に向かう悠真。

 かろうじて動きで翻弄しているエイク達だが、汗と疲労の色を浮かべ、肩で息をしている。


 「援護する!」

 「助かりますユーマさん」


 ネグラクタ達の強さが判らないが、セラとリリー、グリならばオーガ相手に問題はなく、ネグラクタ達の援護に向かうだろう。そう判断した悠真は、こんな状況にも関わらず、エイク達の経験のためにオーガの動きを止めたり、注意を引いたりしてサポートに徹していた。

 カクタスがエイク達に合流した頃、輸送隊の最後方、セラ達がいるであろう位置から、大きな破壊音と共に、大きな砂煙が上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る