第50話 出頭命令
少しでも早く情報を持ち帰ることが必要だと考えた悠真は、モネードの街を散策することなくタルクエクへと向かっていた。
グリは目立つため、モネードの領主に預かってもらっているが、別れるときの寂しそうな目が悠真の心を痛めた。
「ご主人様、あちらにテルクシノエの軍勢が見えます」
「兵士がいっぱいニャ」
山道を歩いている悠真達は、その切れ目からテルクシノエの軍勢を遠目で見ることができた。ざっと1万はいるだろう。
「あの軍勢がモネードに一斉に来ると考えると恐ろしいな……」
「大丈夫です。ご主人様は私が守ります」
「リリーもいるニャ」
「兄貴、俺もいますぜ!」
「まぁ、その戦争を回避することが今回の調査の目的だからな。テルクシノエの目的がわかれば、そこから交渉ができるだろうし、少しでも早く正確な情報を持ちかえらないとな」
テルクシノエの軍勢が今にも攻めてくるような動きであれば、悠真は引き返していただろうが、特に目立った動きは無く、開戦はまだ先になるだろう。
そう判断した悠真はタルクエクへと歩を急いだ。
タルクエクに到着した悠真は、違和感を感じていた。
戦争目前の前線都市であれば、兵士が闊歩していたり、兵糧を運ぶ荷馬車がいたりすると思っていたが、のんびりとした、戦争とは程遠い平和な街が悠真の視界に入ってきた。
「前線都市ってこんなに平和なのか?」
「いえ、もっと殺伐としていると思いますが……。本当にここは前線都市なんでしょうか……」
セラとタルクエクについて話をしながら領主の屋敷に向かい、門番に手紙を見せると1人の兵士が領主に届けに走った。
「では、私は行きますね」
「ちょっと待て。手紙の確認中だ。あの手紙が偽物かもしれんからな」
偽物であれば私文書偽造とか、そういった罪でとらえようと考えているのだろう。悠真は手紙が本物であると知っているが、疑われて良い気分はしない。
そんな心持ちで待っていると兵士が走って戻ってくる。
「領主様がお会いになる。ついて来い」
兵士について行くと応接室に通された。仮想敵国からの使者とも言えるような人物と、簡単に会ってもいいのか? と思いつつもソファーに座り、領主を待っていた。
「お待たせして申し訳ない。タルクエクの街はどうだい? 落ち着いていただろ」
「ええ、本当に前線都市なのかと疑いました」
「開戦したらどうなるかわからないが、少なくとも兵士が闊歩するような街にはしたくなくてね」
疲弊した領主の顔から、彼が領民のことを考え、行動を起こしていることは想像に難くない。
「さて、手紙を読ませて貰ったよ」
「何か不備でも御座いましたでしょうか?」
「モネードの領主からの手紙に、今回の戦争についてユーマ殿が極秘に調査すると記載があったのでな、ちょっと伝えておこうと思うことがあるだけだ」
「私は助かるのですが、自国の情報を簡単に渡してもよろしいのですか?」
「軍事情報でもないし、機密情報でもないから大丈夫だろう。とはいえ、内部情報には間違いないから漏洩はしてくれるなよ」
そんな前置きをした領主は、真剣な顔で話を続けた。
「戦争について調査をするのであれば、宰相を調べて欲しい。あの女が王城に来てから、腑に落ちない王命が頻繁にあるんじゃ。今回の戦争も、あの宰相の思惑があるんじゃないかと睨んでる」
詳しい話を聞くと、半年~1年くらい前から、いつの間にか王城に見たこともない女が頻繁に出入りしていたらしい。王都にいる貴族に聞いても、詳細がわからない。
その後しばらくして、前宰相が行方不明になり、その女が宰相に就任。それと同時に理由も無く散財したり、誤報が飛び交い、国内が混乱したらしい。
今回の戦争もその宰相が絡んでいるとタルクエクの領主は睨んでいる。
「なるほど。有難う御座います。一度宰相についても調べさせて頂きます」
「ああ、頼んだぞ。モネードの領主には私から手紙をしたためておこう」
思いがけないところで有力な情報を掴んだ悠真は、タルクエクで1泊し、テルクシノエの王都――プレウムへ乗合馬車で向かうことにした。
乗合馬車に乗りプレウムに近づくと、カクタスが気になることを悠真に小声で伝えた。
「兄貴、この辺に俺と同じアークデーモンがいますぜ」
「ん? それはプレウムにってことか?」
「多分そうだと思うっす。はっきりとした場所は判りませんが、気配を感じるっす」
「カクタスみたいな馬鹿がプレウムにいるってことかニャ?」
「姉さん、酷いっすよ。俺は馬鹿だけど、そんなに馬鹿ではないっす」
「馬鹿は馬鹿ニャ」
「待て待て。とりあえず今回は後回しだな。まずは戦争を止めることを考えよう」
「了解っす」
カクタスと同じアークデーモンが、プレウム付近にいるということに一抹の不安を感じながらも、順調にプレウムに到着した悠真達。
まずは宿を取り、近所の酒場でセラとリリーと別れ各々が情報を収集することにした。
「すいません。隣のこの方にビールを1つ」
「はーい。今お持ちしますね」
「おっ、兄ちゃん気前がいいじゃねぇか」
「自分は先ほどプレウムに到着したんですが、お勧めの店とか、狩場とか教えて貰えればと思いまして」
「ほぅ。ビール1杯分くらいは教えてやるぞ」
まずはたわいもない話題から入り、ビールをおごりながら徐々に本題へと話題が近づいていく。
「なるほど。それだと、兵士がバタバタしだしたのは、宰相が変わってからってことですか?」
「そうだな。それまでは警備で巡回しているくらいだったが、最近は大人数でどこかに行っているっぽいな。どこに行ってるかはわからんがな」
戦争を始めようとしていることは国民に伝わっていないようだ。急なことだったのか、それとも秘密裏に動いているのか……。
「ところでその宰相って方はどんな方なんですか? 女性って聞きましたが、やっぱり宰相を務めるだけあって、年配の方だったり?」
「いや、俺も見たことはねぇがよ、なんでも若くてかなりべっぴんらしいぞ」
「へぇ。そんなに若いのに、どこで宰相を務めるだけの知識を学んだんでしょうね」
「どうかな。宰相の過去は不明って聞いたことがあるな。まぁ美人には過去は関係無いってか」
いきなり宰相を務めるだけの知識や能力があったのなら、その名は知れているのが普通だろう。しかし過去が不明……。
「ところで、その宰相は――」
「ん? 宰相に興味を持ったか? それとも美人ってところか? はっはっは」
ある程度の情報を収集し、夜も更けてきたため宿に戻り、セラとリリー、カクタスと情報を共有してから、ベッドに入った。
早朝、悠真達がそろそろ目覚める頃、宿のドアをけたたましく叩く兵士がいた。
「おい、起きろ!」
「なんですか、こんな早朝に」
「昨日、宰相様のことを聞き回っていたのは貴様だな!」
「え? 何かありましたか?」
その言葉と同時に5人の兵士が部屋になだれ込み、有無を言わせずに悠真達を監視しながら準備を急がせる。
「王城に出頭命令だ。さっさと準備をしろ!」
早朝に来て、有無を言わさずいきなり出頭命令とか横暴だろ! と怒りを露わにしようとするが、逆に相手の懐に飛び込むチャンスでもあると考えた悠真は、セラ達に素直に従い、準備を促した。
「言う通りに準備して、王城に行こうか」
「かしこまりました」
「了解ニャ」
「兄貴……こんな兵士の言いなりっすか……」
「素直に聞いてれば乱暴にはしない。さっさと準備をしてついて来い」
準備が済んだ悠真達は、兵士に連れられて王城へと向かっていった。
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