戦争編

第49話 テルクシノエ

 王都に戻ってきてから暇を持て余している悠真は、何か依頼でも受けようとギルドへと足を運んでいると、衛兵達が慌ただしく走り回っていることに気がついた。


 「そう言えばカトレアさんが、ルシアン様も慌ただしくしてるって言ってたけど、何か関係があったりするのかな……」


 先日のパティでカトレアと話をしていた悠真は、最近ルシアンが慌ただしく城へ行ったり、帰ってきても色々と忙しそうにしていたりすると、愚痴っていたのを思い出した。


 「衛兵が慌ただしいと、何か問題があったのかと勘繰ってしまうな……」


 そんなことを考えながら冒険者ギルドへ到着した悠真は、ギルマスの秘書――ベラに捕まった。


 「ユーマ様、お時間はよろしいでしょうか?」

 「ええ、大丈夫ですが何かありましたか?」

 「実はですね、また王城の方からユーマ様に指名依頼が入っております」


 手にした大量の書類の中から、王城からの指名依頼受付用紙を取り出し、悠真に手渡した。

 渡された用紙に目を通してみると、依頼は調査依頼となっているが、詳しい内容の記載がない。指名依頼にするくらいだから普通の調査依頼ではないだろうと予測した悠真は、ベラに詳細を訪ねてみることにした。


 「調査依頼となってますが、詳しいことはわかりませんか?」

 「受付時に訪ねてみたのですが、極秘事項としか聞いておりません」

 「そうですか……」


 王城からの指名依頼を断るわけにはいかないだろう。そう考えた悠真は、内容がわからないものの、指名依頼を受けるために王城へと向かうこと決めた。


 「この依頼受けようと思うんですが、いつ王城へ伺えば良いかわかりますか?」

 「直近だと……明日の午後と記載がありますでその辺りであれば大丈夫かと思われます」

 「かしこまりました。では明日の午後に伺うようにします」

 「ではその様に伝えておきます」




 翌日の午後、悠真は王城の応接室にてルドベキア王に加え、カーネル宰相と面談をしている。


 「再びの指名依頼有難う御座います」

 「今回の依頼は極秘での。信頼できて失敗しないであろう人物でなければならないんじゃ。さて、話を進めるにあたって、1つ約束をして欲しいんじゃ。この場でこれから話すことは、依頼を受ける、受けないにかかわらず極秘にすること。一切を他言しないことを約束して欲しい。どうじゃ?」


 依頼の内容を聞く前からそんな約束をさせられるならば、凄く面倒なことに巻き込まれる依頼なんだろう。そんな予想は容易にできるが、状況的に断れない状況だと判断した悠真は、他言しないことを約束する。


 「わかりました。一切他言しません」

 「よし、ならばカーネル、説明を頼む」


 ルドベキア王の横に控えていた宰相が、ルドベキア王の代わりに話を始めた。


 「ユーマ殿はテルクシノエへ行ったことは御座いますか?」

 「いえ、いつかは行こうと思っておりましたが、未だ行ったことは御座いません。テルクシノエが関係する依頼なんですね」

 「そうです。端的に申し上げますと、実は今、テルクシノエが、我がメティスとの国境沿いの街――タルクエクに兵を集め、テルクシノエがメティスに対して戦争を仕掛けてくると情報が入っております。テルクシノエは過去数十年に渡って戦争は起きておらず、他国とも非常に友好な関係を築いているのですが、我々も寝耳に水でこの状況に非常に驚いている次第で御座います」


 さらに宰相が言うには、テルクシノエでは鉱物の産出がほとんどなく、現在は鉱物をメティスからの輸入に頼っている。そのため、戦争をすることで輸入が止まり、冒険者の装備だけでなく生活品の生産にも影響が確実に出ることは明白とのことだ。この状況で戦争を開始すれば、テルクシノエの経済活動に著しく影響が出る。


 「現在、テルクシノエ国境付近の街、モネードに念のため兵を集めているが、戦闘が続いた場合、我が国の経済に影響が出る可能性が否定できない。それで、内情がどうなっているのか探ってきて欲しいというのが今回の依頼内容だ」


 実際に開戦した場合、人類の繁栄という神様からの依頼において、マイナスになることは明らかだ。この依頼を受けるかどうかは別にしても、戦争を回避させるために動くべきだろう。その一環としてこの依頼を受けて都合の悪いことはない、むしろ国の協力を得られる分、受けない理由もないだろう。


 「わかりました。全力で取り組ませて頂きます」

 「そうか! それではまずは、モネードの領主に会ってくれ。そっちで改めて最新の状況の確認などをしてくれると助かる」

 「かしこまりました。では早急に準備してモネードへ向かうことにします」




 悠真はセラとリリー、グリ、カクタスでモネードに来ている。今回は依頼の重要度、緊急性、秘匿性などもあり、乗合馬車ではなく、王城が馬車を用意してくれていたため、乗合馬車と比べて2日ほど早く到着し、領主の屋敷前まで送ってくれた。


 「さて、まずは領主に会って、テルクシノエにどうやって入国するか相談しないとな」

 「普通に歩いて行ったらダメなんすか?」

 「今から戦争するかもしれないんだぞ。仮想敵国となってる国の国民を、簡単に入国させることはしないだろ」

 「さすが兄貴っすね。俺ならこのまま向かってるっす」


 先触れが出ていたお蔭か、屋敷の警備にも警戒されることなく、応接室に通され、領主に面会することができた。

 テーブルを挟んで領主と面談している悠真。その後ろにセラ、リリー、カクタスが控えている。


 「ある程度は聞いていると思うが、改めて新しい情報とともに説明しよう」


 現在の状況として、テルクシノエ側の兵士は国境付近に陣を展開しており、それに対応するようにメティス側も国境付近に陣を展開しており、一触即発といった状況らしい。

 また、最近ではあるが相手から使者が来て、信憑性に欠ける情報ではあるが、向こうの戦力を伝えてきたとのことだ。


 「自分の戦力を伝えるって、何を考えているんでしょう……」

 「それが全くわからん。手の内を全てさらけ出してきた。もしその情報が本当なら、常識では考えられん」

 「テルクシノエは戦力を均衡させて、派手にやり合いたいのでしょうか……。被害が甚大な物になりますが……」

 「我々もなぜ急に戦争なのか、なぜ戦力を伝えてきたのか、未だテルクシノエの目的を掴めないでいる。ユーマ殿には少しでも多くの情報を持ち帰ってもらい、戦争の目的や、回避策を検討したいと考えている」

 「かしこまりました。ところで相談になるのですが、調査のためにもテルクシノエに入国したいんですが、何か良い方法はありませんか?」


 悠真の言葉に、領主は執事に目配せをすると、執事は1枚の手紙を領主へと渡した。


 「入国する手立てだが、この書簡をタルクエクの領主に運んでもらいたい。もともと私は、タルクエクの領主とは交流があるから、そこまで不自然にはならんだろう。タルクエクの領主も今回の戦争については反対しているみたいだが、王命とあれば動くしかない、そんな考えだから、邪険に扱うようなことはせぬだろう」

 「有難う御座います。お預かりします」

 「頼んだぞ」

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