代表取締役社長を解任されたら、異世界で俺sugeee
飲み放題プラン
第1章 異世界へ
第1話 駄女神登場
綺麗なブロンドの長い髪をした美しい女性が、テーブルとソファーだけがある白い部屋で、額に青筋を立てながら怒声を上げている。
「腹立つなぁ!」
ソファーを蹴り飛ばしながら、地球とは異なる世界アマルテアを管理している女神、メルが憤慨している。
「女神である私が話しかけているのに、なぜ好意的に協力しようと思わないの!」
創造神からの指示書を紛失し、指示とは違う設定でメルがアマルテアを創造したことにより、人類が消費する魔素の量と、世界に溜まる魔素の量のバランスがとれていない。そのため徐々に綻びが生じてきており、想定以上の魔物やダンジョンが発生し、このまま放置すると人類が滅亡する危機に陥っている。
それを解消するためにアマルテアとは異なる世界、地球から使徒として召喚し、転移時に与えるスキルを活用させながら、魔物の討伐とダンジョンを攻略させて辻褄を合せようと試みているのだが、目下連敗中だ。
「女神ならお金をくれとか、毛根増やしてくれとか、彼氏が欲しい? 私が欲しいわよ!」
声を張り上げ、目の前のテーブルとソファーに八つ当たりするメルは、現在彼氏募集中だ。
テーブルとソファーを粉々に破壊し、粉じんが舞い散る中、スッキリした顔でメルは深呼吸をした。
「さて、次の候補者のところに降臨しましょうか」
笑顔でそう言ったメルは、まるで破壊の事実がなかったかのように、テーブルとソファーを直し、次の候補者の下に降臨する。
鈴木伸一、30歳。アパートでカップラーメンを手にバラエティ番組を1人で見ている。結婚しているが、先日娘が産まれたばかりで現在は産婦人科に入院中だ。妻には「きちんとご飯を食べて」と言われているが、入院してからはほぼ毎日カップラーメンの日々を過ごしている。
そんな男が見ているテレビがスーッと消え、目の前にブロンドの女性、メルが音もなく降臨する。
「こんにちは、アマルテアの女神メルです。いきなりでビックリしているでしょうけど、私を助けてはもらえませんか?」
「はぇ? 誰? どこから入ってきた?」
男はカップラーメンを持ったままアパートの玄関を見るが、鍵は閉まったままで、玄関から入ってきた形跡はない。窓の鍵も閉まったままだ。
「混乱しているのはわかります。落ち着いて聞いて欲しいのですが、現在地球とは異なる世界、アマルテアでは人類滅亡の危機に陥っています。勇敢なあなたに助けて頂きたく、お願いに参りました」
メルは悲壮感を演出しながら男に依頼する。
「どうか私と一緒にアマルテアに来て頂けませんか?」
「ちょっと待ってくれ、何が何だかわからない。まず君は誰? アマなんとかって何?」
男はカップラーメンを持ったまま、混乱から立ち直ろうと状況を整理しはじめる。
「アマルテア、女神である私が創造した、地球とは違う世界です」
「地球とは違う世界? 変な宗教の勧誘?」
「そのようにお考えになるのも理解しますが、そうではありません」
若干イラッとしながらも、なんとか表情に出ないよう、感情を抑えつけているメル。
「家族はどうなる? 産まれたばかりの娘は?」
「あちらに行けるのは貴方1人になります。それなので家族とは別れることになりますが、奥様と娘さんの生活の保障は――」
「娘と妻が、このアパートに帰ってくるのを楽しみにしているのに、なぜ俺が出て行かなきゃならん!」
ベビー用品を買い揃え、帰ってきたときの準備は万端だ。あとは保育器から出てくる娘と妻が帰ってくれば、この男の人生はピークを迎えると言っても過言ではない。
「ってか本当に女神なの? 信じられないんだけど。ってか泥棒? 今すぐ出て行かないと警察呼ぶよ」
胡散臭い自称女神にイライラしながらスマホを手に取り、警察へ電話する準備を整えた。
「本当に行かれないのですね? 断ると今後の貴方の人生が不幸になりますよ」
「脅すのか? 本物の女神なら脅すような事はしないだろうし、高貴なオーラが出ているはずさ」
メルの連敗記録がまた1つ更新された。
「もぉぉぉ! オーラが何よ! 丁寧な口調で喋ると疲れちゃうし、もう断られたんだからいいよね。貴方に不幸がありますように! バーカバーカ!」
小学生並みの嫌がらせを吐きながら、胡散臭い女神が男の前から消えた。
するとテレビは何もなかったかのように映りだした。
「一体何だったんだ。結局カップラーメンが伸びただけじゃねぇか……」
「もう疲れたなぁ……。アマルテア滅ぼしちゃおうかな」
ソファーにドカッと座り、憔悴しきった面持ちで天井を仰ぎながらメルが呟いた。
「でもエリア担当神が怒ると怖いからなぁ……。よし、次もダメだったら1人慰労会で秘蔵のワイン飲む! 良くても飲む!」
欲望に忠実な駄女神が、おざなりな選定、なおざりな対応で候補者の下に降臨する。
「ちょっと貴方、アマルテアに来てみない?」
「……わかった」
「はいダメね。んじゃバイバ……えええええ!?」
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