第29話 NEET、後味の悪さを覚える

 呼吸を落ち着けた。

 それと同時に、達成感がじわじわとやってきた。


 一撃で殺せた。

 酷い。歪んだ達成感だ。うぇ。気持ち悪い。自分で自分が気持ち悪い。なんでこんなことに達成感抱いてるんだ俺。


「…………っ」


 また吐きそうになったので、口元を抑え、頭上を仰ぐ。

 それも三秒くらいで終わらせ、とりあえず周囲を確認。獲物を目にして吐き気を覚える……三流でもやんねえよな。自分素人ですから。


 そんな戯れ言を頭の中で垂れ流しながら、周囲に敵がいないことを理解する。聴覚にも引っかからない。だからといって油断するのは馬鹿のすることなので、警戒は怠らないようにしておく。


「…………。一回帰るか」


 一回戦ったら、一回帰る。


 昔のRPGでも、そんな鉄則があったらしい。初心者が連戦するのは死ぬから慣れるまではやめておけ。ってなニュアンスなのだろうか。

 いやまあ、慣れてもやりたくないんだけど。

 でも、やらざるをえないという残酷な現実。正直、心が折れそうだ……。


「でも、ニートにゃ戻りたくねえしなあ……」


 働くって、つらい。


 この現代日本で未確認生物をスコップで殴り殺して働いてる奴なんて、俺一人なんじゃないだろうか。他の家に、こんなネズミがいっぱいいるダンジョンなんてないだろうし。


「…………」


 ――いや、あるかも知れないな。


 

 そんな曖昧な可能性だが、それを言うんだったらダンジョンなんて存在そのものがあり得ないため、安易に否定はしないでおく。ちょっと考慮しておこう。戻ったらネットで調べることにするか。


 そんなことを考えながら、リュックを背負い直し、再び鉈の位置を確認。スコップからは意図的に目をそらした。だって血ぃついてるし。ただでさえ嗅いだことのない(しかも濃厚な)血の臭いという奴を直に嗅いでしまって、足ががくがく震えているのだ。

 直接見たら、多分吐かずにはいられない。


 ――で、だ。そんな俺は今危機に直面している。


「死体。どうしたもんか……」


 目の前に転がっているであろう、ネズミの死体。現状目をそらさざるをえない状態になっているであろうそれを、どうするか。放置してたら腐るのは確実だ。

 頭殴ってるから、多分脳漿飛び出てるんじゃねえか? これ。想像しただけで意識が飛びそうなんだけど。


「直接、見なければ行けるか……?」


 …………。

 ……尻尾を掴む。


「うぐぉ!? なんか、ぷにぷにしてて弾力がある……気持ち悪っ」


 さ、さっさと持って帰ろう。

 俺はネズミの死体を引きずり、足早に地上へと向かうことにした。



 ※  ※  ※  ※  ※



 この第29話投稿時点で、PVの5000突破を確認しました。

 ここまでこれたのも皆さんのおかげです。ありがとうございます。


 同時投稿した次話で完結です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る