第13話 NEET、洗いざらい吐く

 洗いざらい全部話した。

 というのはもちろん、この期に及んで隠し通せるわけがないからだ。


 なんか、埋め戻そうとした穴が洞窟に繋がっていたこと。

 色々と準備してから、洞窟の中に入ったこと。

 洞窟がありえないくらいに広大だったこと。

 ちょっと潜ったところから引き返そうとしたら、なんかでかいネズミが出たこと。

 逃げて、その後ネットで調べたけどネズミの正体がわからなかったこと。


 そして、最終的にネズミを殺したこと。


「――んで、疲れて寝て。今起きた」


 そう言って話を締めくくると、テーブルには重苦しい沈黙が舞い降りた。

 親父は冷静に情報を処理しているようだが、お袋は若干混乱しているのか眉間を揉んでいる。妹は目線をうろうろさせており、不安げな表情だった。その表情のまま、口を開いた。


「…………夢じゃないの?」


 不安そうな口調でそう言ってくる妹に対し、俺は無言でネズミの死骸がある方向を指さした。

 親父も口を開く。


「……まず、間違いなく事実だろうな。穴をライトで照らしたが、間違いなく洞窟になっていた。ネズミの死体も本物だ。剥製とかではなかった。俺たち四人が認識している以上、事実だろう。守のドッキリとか、錯乱したわけでないのは確かだ」

「…………。いや、実の息子も疑ってたのかよ」

「こんな話を問答無用で信じる方がおかしいだろう」


 その通りでした。

 まあ、そうだよな。いきなりなんか家の下にダンジョンめいたのが出来たなんて言われたら、それが実の息子でも信じるわけないよな。俺も俺を信じられなかったくらいだから、まあ仕方ないか。


「いや……そうじゃないよ」


 妹が、再び口を開いた。

 わなわなと震えながら、言葉を吐き出し始める。


「え、私が夢見てるんじゃないの? ワケわかんないよ……いきなり、家の下になんか、洞窟が出来てるって……そりゃあ、ネズミのことみた時はちょっとおかしいなって思ったけど、住宅地になんか山から動物が下りてくるなんてテレビでもやってるじゃん! そういうのじゃないの!?」


 言葉の最後でバンッ! とテーブルに手のひらが叩きつけられた。やばい、かなり動揺してる。


「お、落ち着け。ほのか」


 噴火寸前の火山みたいな妹をなだめようとする俺を尻目に、親父は憎たらしいほどに冷静に言葉を紡いだ。


「……少なくとも、俺がいた山にはアレみたいな動物はいなかった。そして、この家の近くに山はない。遠くの山から来たとしても、そんな話は回ってきていない」

「でもっ……でもッ!」


 混乱しているのか、今にも涙を流しそうな悲痛な顔で一生懸命現状を否定しようとする妹。

 いやまあ、気持ちはわかる。だが、今回ばかりは命がかかっているので、俺も妹の味方に回るわけにはいかないのだ。


「…………んーと、さ」


 ここで、お袋が口を開いた。

 俺たちの目が一斉に自分の方に向いたのを確認して、お袋は話し始める。いつものお袋の話し方だ。沈黙を守っていたので混乱していたのかと思ったが、どうやらそうではなかったらしい。


「とりあえず、今日は寝よう。猛くんもほのかも、突拍子もない話だから冷静に受け入れられないだろうしさ。守もそうでしょ?」

「ああ、まあな」


 正直、まだ夢心地だ。朝起きたらこんな事実はないんじゃないか? と思っていることは否定しきれない。

 お袋は俺の返事を聞いて、いつの間にか持ってきた麦茶を一口飲んだ。


「守の話を聞く限りじゃ、洞窟の中にあのでっかいネズミがうじゃうじゃいて、今にも外に出てくる~ってわけじゃないみたいだし。今日のところは穴に板乗っけて、おもし置くだけでもしのげるはず……よね?」

「多分」


 お袋は俺の返答を受けて、最終決定を下した。


「じゃあ、明日に持ち越しましょう。このままじゃ、まともな案も出ないでしょ?」


 異論は出なかった。

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