幕間 NEET、外に出る

第17話 NEET、家を出る

 さて、俺は晴れて自宅警備員になった。


 しかし、これから「さあダンジョンだ!」と喜び勇んで(どっちかというと、俺の場合「むせび泣き叫んで」だが)洞窟へと突入するわけにも行かない。俺はマジカルパワーを持った勇気と男気溢れるファンタジー世界の住人ではないのだ。


 つまり、しかるべき手順を踏み、準備を整える必要がある。


 要するに装備を整える必要があるということだ。後は身体を鍛えたりと色々あるが、俺が今様々な意味で重要視しているのは『装備を調達する』というこの一点だ。


 そう。装備を『調達』する必要があるのだ。


 当然ながら、俺が住まうこの我が家には銃火器からロケットランチャーまで揃っている武器庫はない。地下室にいかにもな妖刀があったりとかもない。そもそも地下室がないし、仮にあったとしてもダンジョンに呑まれていたことだろう。


 この時点で、察しの良い人は何故俺が『調達』という点を重視しているのかわかるだろう。


 装備を調達し、万全な状態でダンジョンへと向かうならば、俺は外へ出なければならない。くそったれな事態だ。


 しかも、当然ながらコンビニで売っているようなのを求めているわけではないので、行くのはホームセンター。人混みの中を対人恐怖症が歩かねばならない。世の中終わってるな。ありえない。なんでこんな死人にむち打つような真似をするのか、俺にはとんと理解出来ない。


 というか、だ。

 高校を中退して以降、俺は徹底して外へ出ていないため、まず地理がわからない。高校を二年になった頃に中退して、現在俺は21歳。四年という歳月の開きはなかなかでかいもんで、俺が知っている建物は残っているだろうか。なんて不安にも駆られる。


 それ以前に、俺は家族以外の人と話せるのだろうか? カツアゲ遭ったりとかしないよね? テロリストに襲われるとかないよな? なんて不安が頭の中を延々と過ぎるのだ。どれだけ人と会いたくないのだろうか、俺。

 さっき妹相手に”人と会いたくないから自ら死に近づく奴”認定されて怒っていたが、あながち間違いでもないのかも知れない……いや、さすがにそこまでじゃないな。うん、そこまでじゃないはず。


 でも、店員と正常な言語を使って話せるかはかなり疑問は残る。


 やっぱり、ボイストレーニングとかした方が良いんじゃないか……なんて思っていると、自室の扉がドンドンと叩かれた。

 部屋へと近づいてきた時の足音から察するに、ホームセンターまでの道案内を買って出た妹だ。


「お兄ちゃん、まだ?」

「今、着替え終わったんだよ」


 そう言いながら、俺は部屋の外に出た。


「お兄ちゃん、どう? この服装」

「あー、良いんじゃねえの? 地味で目端にもかからねえ感じだわ」


 そういうと、妹はなんか呆れたような顔をした。なんだよ、今はそう言われた方が良いんじゃないのか?


「…………あ、そ」


 妹は学校を(非常事態だから仕方ないとはいえ)ずるして休んでいるため、一応変装することにしたらしい。いやバレたくないなら家に引きこもってろよ、と思ったのだが本人が行くと言い張って頑として譲らなかったため、一緒に行くことになったのだ。


「そんなんだから彼女も出来ないんだよ……」

「なんか言ったか」

「何も言ってないよ。それはそうとホームセンターってお兄ちゃん大丈夫なの? 迷子になったりしないよね? あ、あとお母さんから胃薬もらってるから胃痛がしたらすぐに言うんだよ? わかった?」

「あー、はい。わかったわかった」


 こうして、俺は妹と一緒に家を出ることになった。

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