第20話 NEET、武器を手に入れる
園芸用品の場所に足を運ぶと、鉈があった。
鉈とは、園芸などで木を切ったり割ったりするために使うものだ。幅広な刃がついており、持ち手と繋がっている。人間を切るのにも十分使えそうだった。人間大のネズミ相手でもしっかりとその切れ味を発揮してくれることだろう。
だが、そんな鉈にも弱点はある。
「リーチがないんだよなあ……これ」
刃が短いのだ。従って、その切れ味を十全に発揮するには接近する必要がある。
だが、接近するのは怖い。というチキン……じゃない、慎重な俺は鉈を使うことにちょっと賛成出来なかった。
「だったら弓矢でも使うの? お兄ちゃん、弓道部でもなかったよね?」
「ああ、弓なんて当たらねえだろうが……これだったら、まだ椅子の方が武器として良い方だろ。あっちは盾としても使えるし」
「……じゃあ、スコップでも武器にしたら?」
「そうだな。鉈は……一応、買っておくか」
「そうだね」
俺は珍しく真剣な面持ちの妹を横目に、鉈を一つずつ手に取った。俺が振るうものとして長さや重さが最適なものを見つけ出すと、金額を確認。千円札を数枚と商品を妹の方に出す。
「はい」
「……なにこれ」
「買ってきて。店員怖いから」
「…………店員さん、すっごく優しそうなお姉さんなんだけど」
「何言ってやがる。この世ではそういう奴が一番恐ろしいんだ。腹の中で何考えてるかわかったもんじゃねえ。美男美女は絶対裏でこっち見下すだろうし、不細工な奴は妬むことばっかしてやがるから性格まで不細工になる。普通の顔をした奴だって裏じゃ何を考えているかわかったもんじゃねえ。いいか? 人間は危険なんだ」
「あ、うん、わかった。買ってくるね」
若干引き気味に了承した妹を見送り、俺は目を付けられないように棚の隅に隠れることにする。妹がいないので話しかけられるわけにはいかないのだ。周囲の視線を切るようにして、帰還するのを待つ。
しかし、やばい。さっさと帰りたい。なんだってこんな息苦しいところに来てしまったんだろうか。いやまあしょうが無いのはわかっているが、背格好が似ている親父にでも買ってもらってくればよかったんじゃないだろうか。
「……吐きてえ」
「ただいまー、買ってきたよ……お兄ちゃん汗スゴ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。帰りたい」
「え、ええ……でも、お兄ちゃんの命に直結する大事なことだよ? 最善尽くした方が良いんだけど」
「わかってる。わかってるから、さっさとやろう。そして帰ろう」
こんなところにいつまでもいられるか。俺はランタンとヘルメットとプロテクターと、その他諸々を買ったら帰らせてもらう。
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