第21話 NEET、まだ買い物
「なあ、まだ帰んねえの?」
「まだ。どうせだから一週しよう」
「ええ……」
帰れなかった。鉈とランタンとヘルメットとプロテクターを買ったが、未だに帰ることは出来なかった。妹がうるさいからだ。
俺はいつもより数段しつこい妹を横目に、色々と考えていた。
とりあえず、武器は買った。メインウェポンがスコップ、サブウェポンが鉈だ。鉈は接近されたら使う、程度の認識で良いだろう。戦士でもない奴に要所要所での武器の使い分けなんて出来るわけない。
照明……ランタンも買った。前回での失敗を踏まえ、懐中電灯はあの洞窟では使えないと判断したからだ。念のため、咄嗟に明かりを覆い隠すための厚手の布も買った。いちいち小さいスイッチをいじるわけにはいかないからだ。
ヘルメット、これは妹がうるさかった。これは脆そうだの、それは隙間があるからそこから攻撃されるかもだの、こいつは付け紐がないからいざという時落ちそうだのと、普段の様子からは信じられないくらいに色々言われた。
最終的に買ったのは、工事現場で使うようなヘルメットだ。黄色くて目立ちそうだが、それは後で塗装でもなんでもすれば良いと説き伏せられた。
プロテクターはなかった。俺は回避能力下がりそうだから、別に良いかなあ……とゲーム脳じみたことを思っていたのだが、妹はそれに納得せず、俺の手を引いてホームセンターを歩き回っている。
「……人混みで酔いそうなんだけど」
「我慢して」
「……なんか周囲から殺意のこもった視線が飛んで来てる気がするんだけど」
「どーせ、恋人がいない独り身のひがみでしょ。割り切って」
「…………」
明確に俺のことが貶されたわけではないが、恋人がいない独り身という形容詞でちょっとグサリと来た。いや、彼女とか怖いから無理なんだけどね。俺の場合便利な財布扱いされるのが関の山だろ。財布にもなれないけど。
……ただ、理解者としての恋人なら正直憧れる。
「……俺にもこの孤独と不安を理解してくれる人がいつか出てくるんじゃないだろうか」
そんなぽろりとこぼれた言葉に妹がこちらを振り返り、一言。
「なに言ってんの? 理解されようとする努力もなしに理解されるわけないじゃん」
「…………」
正論がぶっ刺さり過ぎて、乾いた笑い声すら出なかった。
※ ※ ※
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