第22話 NEET、心配される

「あ、お兄ちゃん! ここならどう? プロテクターありそうじゃない? スポーツ用品売ってるっぽいよ」

「…………」

「お兄ちゃん!」

「え? ……あ、ああ、ありそうだな」


 だらだらと、自分でも脱水症状を疑うほどの汗を流しながらホームセンターを歩いていると、先導している妹が引っ張ってきた。どうやら、スポーツ用品店を発見したようだ。


 サッカーボールやら野球グローブ、ユニフォームにジャージなどが並んでいる場所を歩いて行くと、お目当てのものはあった。

 プロテクターが、ジャンルに分けて数種類ほど。高いのも安いのもどちらもある。アメフトみたいなのではなく、ローラースケートで使うような、関節部分を保護する奴に焦点を絞る。


「とりあえず、付けてみるか……」

「だね」


 妹の同意もえられたので、安いのから高い方へと順番に試着する。やっぱり付け心地とか阻害感のなさは高い奴が一番だった。

 だが、当然ながら値が張っている。


「安い方買うか」

「いや、高い方買ってよ」

「……俺が使う奴だからそんなに高くなくて良いだろ」

「だって、死んじゃうかも知れないじゃん。備えあったら嬉しいな、だよ」

「…………」


 心配してくれていることをストレートに伝えられて、少しこっぱずかしい。

 俺はじっと見つめてくる妹から目線を逸らしながら、一番高い奴を手に取った。


「……備えあれば憂いなしだろ」

「え?」

「だから、備えあったら嬉しいな。じゃなくて、慣用句としては備えあれば憂いなしの方が正しいってこったよ」

「知ってるよ、わざと」

「勘違いする人もいるから、やめとけよ」


 そんな感じで会話を交わしながら、俺は妹にプロテクターと金を渡す。妹はため息を吐きながら、それを受け取った。俺が素早く周囲を確認し、一番視線が届かない場所へと退避するのを呆れた目で見ながら、レジへと向かう。


「よし、これで後は帰るだけだな」


 予定の物は買い終わった。それらを収納するリュックなんかは自宅で親父のを借りれば良いだろう。任務は終了したのだ。この地獄からもようやく解放される。

 発作的に万歳三唱しても許されるほどの感動が俺を襲ったが、それをやったら地獄が、地獄が生ぬるく思える環境になるため自重する。


 しかし、そんな俺の予想は妹の帰還とともに破壊された。


「はい、買ってきたよ」

「おお、ありがとな。それじゃ――」

「そうだね、次行こうか」

「…………は?」


 間抜けた面を晒す俺に、妹が首をこてんと倒して疑問符を浮かべる。


「なにいってんの? 欲しいもの買ったからって、まだ洞窟で使えそうなものがあるかもしれない以上、さっさと帰れるわけないじゃん」

「……そっすか」


 結局、家に帰ったのはそれから数時間ほど経った後のことだった。

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