第二章 NEET、戦いに身を投じる
第23話 NEET、準備する
朝、目が覚めた時から憂鬱だった。
買い物から一日が経ったことを知らせる朝日を浴びながら、俺はどこかに逃げ出したい思いを抱えていた。いやまあ、一時期は部屋から出られないくらいのダメダメな俺だから、もちろん比喩なんだけど。
でも、気分がめいっていることは確かだ。
多分、昨日の夕飯がやけに豪華で、それでいて食卓を包み込む雰囲気が陰鬱だったのもあるだろう。
最初の頃はのんきに喜んでいたが、家族の反応を見て「あ、これ最後の晩餐って奴ですね。死刑囚の最後の食事は豪華なものになるってアレですね」と察してしまったために、その後は一転。食事がのどを通らなくなってしまった。
「まあ、常識的に考えて死ぬ確率の方が高いよな……」
四六時中ネトゲ漬けのニートがサバイバルに駆り出されたら~みたいな感じだろう。装備と経験があるだけ俺はまだ恵まれているが。いやほんと、あの巨大ネズミが死ぬって知っているだけで安心感が桁違いだ。
当然、殺した事実による罪悪感もあるが、当時と比べたら結構弱まっている気がする。我ながら立ち直るのは早いもんだ。
「えー、っと。装備、装備と……いや、それより前に着替えか」
のそのそと布団から抜け出し、さっさと寝間着からジャージに着替える。ジャージの上から付けるとなんだか着心地が悪いので、プロテクターはインナーの上に付けることとする。もし知能があったら、防御なしだと欺けるかもしれないという期待もある。
その後、ヘルメットを被り、付け紐を結ぶ。いざという時にいつでも外せるように、結び目はちょうちょ結びにした。
「……重」
缶詰や缶切り、その他諸々の生命維持に必要なものをすべて突っ込んだ上に、ランタンを側面に括り付けたこともあるのだろう。リュックは俺の体力を根こそぎ奪い取ろうとするような殺人的な重さがあった。
いや、備えあれば憂いなしっていうのはわかるが、備え多すぎじゃね? まあ、こういうのはあったらあるだけ嬉しいけどさ。
缶詰が詰め込まれているため、防御力にも期待出来るかもしれない。
ずっしりとした重みが背中にかかるが、それでもあまり動きを阻害するものではなかった。持久距離はさすがに落ちるが、十分走れるだろう重さだ。
そして、最後に鞘に収納された鉈を腰に括り付け、スコップを手に持つ。
「…………」
なんというか、これで何かを殺すことを想像すると、リュックよりスコップの方が重いように感じられた。
そして、連鎖的に自分が死ぬところも想像してしまう。
まあ、戦いとはそういうものだ。殺し殺されるものだ。
だが、歴戦の兵士みたいに割り切れるほどの境地に俺は至っていなかった。
「…………。死にたくねえなあ」
ぼそり、と。そう呟く。
呟いた後、俺は部屋を見回し、目に焼き付けた。もう最後に見るかもしれない自分の部屋だ。これくらいは良いだろう。
そして、俺は四年間の安息に別れを告げ、部屋を後にした。
※ ※ ※ ※ ※
大変申し訳ありませんが、諸事情でインターネットから離れた環境に身を置くことになったので、しばらく更新が止まります。
12月には更新を再開するつもりなので、ご理解をお願いします
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