第19話 NEET、ブランクを認識する
地獄をくぐり抜けた俺の先に待っていたのは、さらなる地獄だった。その名はホームセンター、人が大量に存在する馬鹿げた場所だ。ネットショッピングで全部済めば良い世の中に早くならないもんかな……。手触りやら振り心地、重心などの事柄はやはり実際に手に持ってみないとわからないのだ。だから、俺はここに足を運ぶわけだ。
そんなことを考えている俺。そして同じことを考えたのであろうその他の客大勢が、このホームセンターに集っている。人の気配に敏感な俺からしたら、脱兎のごとく逃げ出したい空間だ。
「ああ…………帰りたい」
「いいよ」
「え」
「買うもの買った後ならだけどね」
「…………」
妹が悪魔の所行に手を染めていてどうすれば良いのかわからない。
「……さっさと、買うもん買って帰るか」
「だね。それで、何買うの?」
「とりあえず切断性が高いもの、親父からは鉈が良いって勧められたな。後は適当に身を守るのに使えそうなプロテクターとかヘルメット……ランタンも必要だな」
「ふうん……なら、こっちだね。お兄ちゃんが迷子にならないように私がエスコートするなんて昔の私が聞いたらどう思うだろうね? いやあ、歳月の流れってスゴイよね」
「安心しろ、俺は今日男のプライドは捨ててきた」
「うわあ……」
いざとなれば、大声で泣き叫ぶのも辞さない覚悟だ。迷子センターなんてものは犬にでも喰わせておけ、大勢の人間の注目を浴びるのは苦痛ではあるが、それを上回る会話という苦痛の前ではそれさえ霞むのだ……!
いやまあ、それ以前に迷子にならないよう注意はするつもりだが。
「それで、俺はどこへ行けば良いので?」
「んー、と。こっち」
妹はしばらく陳列棚の上を観察していたかと思うと、すぐさま俺を引っ張って行動を始めた。妹の視線が向いていた方を見ると、そこには『調理器具』だの『園芸用品』だのと書かれたプレートがぶら下がっている。
ああ、なるほど。こんなのあったな。忘れてた。
俺は四年間の外出ブランクを甘く見ていたらしい。なんで案内板も見ないで行く場所がわかったのかなんて思っていたが、プレートの存在を忘れているとは。
忘れていたのは周囲を人が歩いているという事実によるプレッシャーが原因かもしれないが、それについては考え出せば止まらなくなるので、考えないように努めることにする。
「…………」
しかし……そうか。四年間か。オリンピックが終わって、また新しいオリンピックが開催されるような期間だ。意識してなくとも忘れていることは結構多いらしい。面倒なことだ。
「忘れたいことは忘れられないのになあ……」
「……どうかした?」
「いや、なんでもない」
俺の中から未だに、いじめられていた頃の記憶は消えない。
その事実にやや
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